もう二度と、ばあちゃんに会えないかもしれない
夜、眠ろうと目を閉じた。最近はなかなか寝付けなくて、光を遮断した瞼の裏で色んな考えが巡る。昨日出てきたのは、ばあちゃんだった。
随分前に祖父を亡くし、ひとりになったばあちゃん。ひとりになった途端、認知症が物凄い速度で進行して、あることないこと言うようになった。私や親戚に毎晩泣きながら電話をかけてきては、私や母の悪口をでっち上げる。嘘はどんどんエスカレートして、私にお金を貸したが返してくれないとまで言い始めた。なけなしのバイト代でばあちゃんにご飯を奢ってあげたことはあっても、絶対にお金を借りたことなんてなかったのに。何を言われようが認知なんだから仕方がないと今まで笑って耐えてきたけれど、いよいよ限界だった。それからばあちゃんからかかってくる電話に出るのをやめた。親戚は、どうやらばあちゃんの嘘を信じこんでいるみたいで(達者に喋るので、認知症からくる妄言だと思えないのだろう)私と母から遠ざかっていった。ばあちゃんに大ダメージを受けながらも、去年の夏ごろまでは実家に帰る度に会っていた。会うとばあちゃんは最高に嬉しそうに笑った。とても私や母の悪口を言うような人間には見えないんだけど、こんな優しく笑う人が夜がくれば悪魔になると思うと、少し怖かった。
実はそんなばあちゃんに色々あって会えなくなってしまった。ばあちゃんは会いたいと言ってくれているみたいだけど、母も私も、会いに行く勇気がない。私たちは、これまで精一杯ばあちゃんに尽くした。本当に本当に、力の限りを尽くした。だから、後悔はない。ないのだけど、目をつむると出てくるのだ。ばあちゃんが。夢にまで出てきて、それは決まって悲しい夢で、だから困る。ばあちゃんを忘れたいのに忘れられない。悲しんでいるんじゃないかと、心配してしまう。ばあちゃんは私と母にありったけの嘘を擦り付けたけど、私たちのことは大好きだった。とても長すぎてここには書ききれないけれど、私たちとばあちゃんは三人で支えあって生きてきたこともあったし、本当に家族だった。だから、どんな嘘を言われても嫌いにはなれなかった。だって、ばあちゃんは愛するあまりに、私たちに自分の方を見てもらいたいがために嘘をついているって分かっていたから。大学を卒業して、私が地元に帰らないことを告げたら、ばあちゃんは大泣きした。困った時には一番に母の名を口にした。そんなばあちゃんが、今私たちに会いたくないわけがないのは分かる。だから会いに行ってあげたいけれど、どうしても行けない。
もう二度と、ばあちゃんに会えないかもしれない。いや、会えないんだろう。昨晩目をつむったとき、急にこの思いが浮かんで怖くなった。会いたがってくれているばあちゃんに顔を見せられないまま別れることになってしまったら、私は多分一生自分を呪う。それでも会いに行く勇気がどうしてもないから、届くことのない手紙を書くことにした。値段設定が高くてすみません。お金を稼ぎたいわけじゃなくて、泣きながら書いてしまったくらいに感情が入っているので、決して誰もが読めるようにしたくないだけです。偉そうな言い方をしてしまってごめんなさい。
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