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友の死後、伯牙は琴を二度と弾かなかった

 中国のテレビドラマをhuluで観ていた時、時代劇に使われていた「知音」という言葉が耳に入った。ほとんど中国語は分からないが、この一言は耳に飛び込んできた。
 中国の古典「呂氏春秋」に出てくる古事である。琴をとても上手に弾く伯牙。そして彼の弾く曲を正確に理解する友の鐘子期。彼が死んだ時、伯牙は琴の弦を切って、二度と琴を弾くことはなくなった。最良の理解者を失った伯牙にとって、琴を弾く意味がなくなったからである。
 そんな中国の故事が、現代の中国のテレビドラマの時代劇に使われていることに驚いた。中国の文化大革命は過去の文化を否定する事で、毛沢東が推し進める革命の正当性を維持して来た、と私は理解している。
 最近、上海出身の友人に「知音」にまつわる一連の話をした。すると友人は、
「最近の中国では、古い中国文化に興味を持つ人が増えている」
 と話してくれた。また、別の中国の歴史好きの友人は、
「最近の中国では、中国の歴史を正確に理解するために、日本の歴史を通して中国の歴史を学ぼうとする動きが活発だ」
 とも語っていた。
 この一年あまり、中国の歴史ドラマを何本も見たが、どの作品にも中国の古い漢詩が登場していた。そのドラマの多くは、腐敗した官僚を成敗するというストーリーであった。
 昨日見た、中国の歴史ドラマには、

 酒を極めれば即ち乱れ 楽を極めれば即ち悲し

 という古い中国の古事が使われていた。「史記」で紹介されているもので、内容は淳于髠(じゅんうこん)が斎王の長夜の宴を諌めるというものである。古い話なのだが、近年の中国のバブル崩壊に重なって見えてくる。
 中国の歴史ドラマを観ながら、いま中国は大きな転換期を迎えている様に思えた。


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