本物の師弟関係の始まり
先日のお茶会でヤラカシてしまった件について、ついにおっしょさんのキツい鉄槌が下されたのでした。
お稽古日のその日は朝一番で、和菓子の老舗が開店するのを待って駆け込み、お目当ての干菓子を買い求めました。その紙包を携えて午後一番でお茶室へ。入り口を入って「ごきげんよう」と講師の方に声を掛けて控え室へ。講師の方は事情を存じてらっしゃるようで微妙な笑みを返してきました。
控え室でおっしょさんの顔色をチラチラと盗み見しながら、心はソワソワ。できる事なら、このままお茶室を出て帰ってしまいたい衝動を抑え、何とか感情をコントロール。すると、お稽古日が同じ事から、よく顔を合わす姉弟子が声を掛けてくれました。
「よくお会いしますね」
「私は茶道を始めて、やっと3年目に入りましたけど、お姉さんは長いんですか?」
「うーん、四、五年くらい」
「じゃあ、中級ですか?」
「先日、先生に勧められて中級の許状を申請しました」
「私は初級もまだです」
二人は静かなお茶室に響かないように声を殺して会話をしていた。この後、どんな嵐が私を待ち受けているかも知らずに。しばらくして姉弟子と揃って挨拶のためにお茶室に入った。私が一番で姉弟子がそのあとの席に着いた。
私はおっしょさんに「ごきげんよう」の挨拶を終わるか終わらない内に、
「先日のお茶会では大変な失礼をいたし、申し訳ありませんでした」
と持参した干菓子の紙包みを差し出した。
意に反しておっしょさんは笑顔を浮かべながら、
「あのレターパックは何でしたの。あの文面では謝罪していても、何が失礼だったのかまったくわかっていませんね。あれでは謝罪しても、謝罪になってません。カゲロウさんはどんな失礼をしたの?」
「ええと、あれとこれと、それから何と。全部で五つか六つくらい」
「全然、わかってない! それに破門だなんて、あれくらいでは破門になんかしません」
という事で、首の皮一枚で破門は免れた模様。
挨拶を終えて一旦、お茶室を出ると先に出た姉弟子が、先ほどの笑顔から一変して、状況が理解できずに不安に駆られたな眼差しで私を見ていた。一方の私はと言うと、先ほどまでの恐怖から解放されて穏やかな日差しの中で、無事だったことに安堵の胸を撫で下ろしていた。
それと同時に、これでおっしょさんと私は本当の師弟関係になれたのだと思った。
また、得意の勘違いでない事を、祈ってやまない。
創作活動が円滑になるように、取材費をサポートしていただければ、幸いです。