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思い出のかんづめ

私の通っていた高校は、監獄のように校則の厳しい学校で、毎年真夏になるとプールの授業があり、それはそれは高校生活の中でも特に、監獄度の高いの授業だった。(最近は暑すぎてプールの授業が中止になる、みたいな時事ニュースを見て温暖化を感じるなどする)

地獄のプールの授業は、前の授業が終わってから休み時間の10分間で教室から運動場の端にあるプールまで移動し、着替えまで済ませたうえでプールサイドで待機し、授業開始のチャイムを聞けなければ遅刻扱いで、それが数回続くと単位が危うかった。

地獄の授業の戦いは、前の授業が終わり始めるころ、みんながそわそわし出し、「絶対に授業を延長するなよ」と教員にプレッシャーをかける。生徒も教員もプールの授業の前は特別な心構えが必要である。

1年生、でんぐり返し事件

高校1年生の時、わたしたちは例外なく5階の教室からプールサイドに向かってダッシュで階段を何段か飛ばして走っていて、その時、同じクラスだったるりちゃんが宙に舞った。宙に舞ったというか、でんぐり返しでしっかり2周、階段をくだりまわった。!!と時間がゆっくり進んだ。

わぁ!と私の声が口から出る前に、周りにいた女子たちは階段の踊り場でダンゴムシみたいに丸まったままのるりちゃんの周りにすでに集まっていて、「大丈夫?」と真剣なまなざしでるりちゃんを心配している。

でんぐり返しの大技をまざまざとみてしまった私は、あまりの雄大な回転が脳内で何度も再生され、絶対に笑ってはいけない雰囲気も拍車をかけコオロギのような笑いが止まってくれない。絶対に笑ってはいけないので、少し階段を登りなおして何か転ぶ石でもあったか?と下を向いて確認するフリをしながら、誰も私のひどさに気づくことなく時間が流れることを祈る。

るりちゃんはスクっと立ち上がって「痛いけど大丈夫!」とまた、プールまで走り始めた。

プールの授業がはじまり、ヘビの顔の体育教官が、背の高い順で水に順々入るよう指示する。

すると少し後ろの方から、「痛い!」という小さな声が聞こえる。まさかのるりちゃんである。水に入ったら急に痛みがすごい!と体格の大き目な柔道部っぽいルックスの女の子がるりちゃんをおんぶして、保健室にさっそうと走り去って行った。

すごかったね。とそれから始めて私は普通の声が出せて、病院へ向かったるりちゃんは、骨が折れていたらしい。

るりちゃんはバスケ部から文化部に転部して、数か月の松葉づえ生活で15キロくらい増量し、プールの授業の遅刻ルールが少し緩和された。それ以外は、何も変わらずまた、監獄高校生活は続いた。

3年生の嘆きのマートル

監獄高校といっても、体育祭などは結構気合が入っていてそれはもうまぶしすぎる青春そのものだったのかもしれない。私たちは3年生になっていた。

あんまりスポーツは強くないのに、応援団の活動は一丁前で、体育祭の前には全校生徒を集めて応援団が応援ソングやダンスを教える、という特別授業があった。

その特別授業は、ほかの意味でも特別で応援団の生徒が好きな人に公開告白をするというなんとも青春なイベントもコミで伝統であった。

そのときるりちゃんは、応援団の大屋君がすきだった。大屋くんはハンサムでクールで、応援団の時は驚く声量なものの、普段は教室のすみで席に座り、感情の起伏を見せず、基本笑顔にウィスパーボイスだった。

「学生注目ー!」という大屋君の大きな声に、全校生徒が「なんだー!」とつづく

「僕には、好きな人がいるー!」と同時にキャーとかギャーとか聞こえて、ざわざわとした中で周りの悪い野球部坊主などが「え、お前じゃない!?」と周りにいる女子を冷やかす。で、その冷やかされた女子のうちひとりがまたるりちゃんだった。

るりちゃんは内心ドキっとしていて、ええ!?とか言って、まんざらでもない。

次の瞬間に大屋君が呼び出したのはるりちゃんではなく、バドミントン部の女の子で、ふたりは全校生徒の前で交際宣言を交わし、周りの悪い坊主も、みんなもフー!とかキャー!本当に!?とか言って騒いだ。

その頃、私の少し後ろにいたるりちゃんは、ヒザから崩れ落ちていた。

るりちゃんは、めまいがするからトイレに向かうというので、わたしと何人かが心配だからついていくよ、と同伴した。
校舎の中でもひときわ人目の少ないトイレの一番奥の個室にるりちゃんは2時間は立てこもった。時々声を出して大泣きして、私たちはときどきドアの向こうから「るりちゃん出てきてよ~」とか声をかけたり、ときどき呆れて笑ったりした。

私は嘆きのマートルならぬ、嘆きのるり事件だなとこっそり名付けた。

そんな酸いも甘いも監獄生活を共にした私たちは、それぞれ県外の大学に進学したので、その後るりちゃんがどんな大学生活を過ごしたのか、今どんな仕事をしているのか、知らない。卒業から10年が経って高校同窓会をやるというので、10年たっても当時の雰囲気や湿度、温度や外の音が鮮明な記憶を強烈に残し、コオロギ笑いを教えてくれた彼女が今、何をしているのか今からとてもたのしみだわ、なんて

社会人になった私の脳内に出てきた、ナツカシが思い出のかんづめを開いてつぶやく。

夏休みに見てよかった映画・本・ラジオなど

ディズニー&ピクサー最新作『インサイド・ヘッド2』公式サイト|映画|ディズニー公式 (disney.co.jp)
ナツカシの引用

竹田ダニエル×長井優希乃『OKOTOBADESUGA』 (sonicbowl.cloud)
毎週聞いてるけど、愛着スタイルの話がなんかメンタルがダメな今の自分によかった

もものかんづめ / さくら ももこ【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア (kinokuniya.co.jp)
夏休みに実家に帰って、おじいと母が大喧嘩したのをみて、「メルヘン翁」を久しぶりに読んだ。おなか抱えて笑ったし、ちょっと昔のことをエッセイみたいにnoteに書いてみようと思ったきっかけの本

普通という異常 : 健常発達という病 - 新書マップ (shinshomap.info)
よかった

劇場アニメ「ルックバック」 (lookback-anime.com)
大泣きした

TVアニメ『アオのハコ』公式サイト (aonohako-anime.com)

地面師たち | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト



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