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現役実業団選手がヴェイパーフライをガチレビューしてみた。

初めまして!山田翔太と申します。

このnoteでは僕が『速く走るために考えてきたこと』をまとめていきたいと思います。

今回は今何かと関心が高い『ヴェイパーフライ』というシューズについて、一選手として徹底的にレビューしてみました。購入を考えているランナーの方々の参考になれば幸いです。ちなみに僕はヴェイパーフライの初代4%、フライニット4%、ネクスト%と履き続けています。

結論から言いますと、

ヴェイパーは“上手く使いこなすことが出来れば”確実に走力が上がるシューズだと思います。特にネクスト%は旧モデルに比べて安定感が増し、より扱いやすくなりました。ですが、「ヴェイパーを使い続けることのデメリット」も少なからずあると僕は考えています。そこでどの点が優れていて、どの点に注意すべきなのか、詳細にレビューしたいと思います。

初めに、ヴェイパーについて考察する際、「ヴェイパーの持つ機能性」に対して「どんな場面で使用するのか」についてそれぞれ分けて考える必要があると思います。

【ヴェイパーの持つ機能】
1.カーボンプレートの反力による脚のバネの代用
2.クッション素材による衝撃緩和
3. カーボン+厚底ソールによるフォーム矯正 

【使用する場面】
A.高速(レース、レースペースでの練習)
B.低速(距離走、テンポ走)

以上のような3つの機能性を2つの場面に分けて考慮して考える必要があります。それでは1つずつ考察していきましょう。 

1. カーボンプレートの反力による脚のバネの代用

ヴェイパーによって最も恩恵を受けられる部分だと思います。

本来、足部の関節や腱(リスフラン関節やアキレス腱など)によって地面からの反力を推進力に変える部分をカーボンプレートが代用します。

これは”上手く使いこなすことが出来れば”、高速スピードに上げる時や、後半脚がなくなってしまった時に役立ちます。つまり、今までよりも速いトップスピードに上げることが出来、高速スピードを維持させることが可能になります。トレーニングにおいては、より高い質のトレーニングを行うことが出来ます。また、低速においても同様に推進力を得られ、「脚が勝手に進む」といった感覚を得られます。

繰り返しになりますが、これはヴェイパーを“上手く使いこなすこと”が前提になります。”上手く使いこなす”とは、「シューズに合わせたフォームを身につけること」を意味します。具体的に言うと、「本来脚がすべき仕事量をシューズ(カーボン)に委ね、脚をスムーズに回転させる」という技術が必要になります。

この技術は「走り始め」はランニング経験者であれば、コツさえ掴めば簡単だと思います。しかし、「レース中盤から後半」では恐ろしく難しくなります。では、「レース中盤から後半」にかけて何が起こっているかと言うと、身体を追い込み、脚の筋力を使い果たし、パフォーマンスが落ちてくる(脚が無くなる)のに対してカーボンは疲れることなく最初と同じパフォーマンスを発揮するという状態になります。

簡単に説明すると、以下のようになります。

仮にヴェイパーが「足首のバネ」の能力を担うと仮定します。数字はパフォーマンス発揮度を意味します。

*ヴェイパーなし
【レース序盤】脚:足首のバネ=10:10
       ↓
【レース後半】脚:足首のバネ=2:2

*ヴェイパーあり
【レース序盤】脚:カーボン=10:10
       ↓
【レース後半】脚:カーボン=2:10

ヴェイパーを履かない場合、当然、脚と足首のバネが同時に疲労しますから、脚とシューズは同調し続けます。

一方、ヴェイパーを履いた場合は、脚が疲労してくるのに対し、カーボンは同じパフォーマンスを発揮し続けます。そうなると、「脚はめちゃくちゃ疲れてるのに足首だけがバカみたいに元気な状態」になります。すると、身体とシューズは解離しやすくなり、ヴェイパーに対する技術と筋力(主に体幹)がなければ、今までに感じたことのない「シューズに走らされている感覚」を感じます。こうならないためにも絶対的な技術と筋力が必要になります。それと、長くなるので詳しくは書きませんが、「ヴェイパーがペース変化やラスト勝負に向かない理由」もここに関係してくると僕は思っています。

また、カーボンプレートは使用回数(使用距離)によって劣化しやすく、劣化すると反力のもらい方が大きく異なります。例えば、初回と100km走った後では、脚の跳ね返りの感覚が全く異なります。毎回新しいヴェイパーを用意出来れば問題はありませんが、他のシューズに比べて高価ということもあり、あまり現実的ではありません。

加えて、『劣化したヴェイパー』では反力をイメージして腰高で走ろうとしても、思ったよりも脚が上がらず、結果として蹴ってしまう走りになるケースが多いように感じます。そういう意味でもハマれば良い動きをキープ出来ますが、ハマらない時は感覚と実際の動きに差異が生まれ、その帳尻を合わすにはランニングの技術が求められます。そういう意味でも扱いが難しいシューズと言えます。

2.クッション素材による衝撃緩和

高速・低速において、クッション素材によって、脚への衝撃が柔らぎ、他の薄底シューズに比べて、主に足底筋、足首の内在筋、下腿三頭筋への負担が減ると感じます。

「鍛えられない」という意見は主にこの部分を指しているのだと思います。確かに、クッションに守られてばかりでは強くて頑丈な脚を作るには非効率的です。本来脚にかかるべき負担がかかっていないわけですから、長期的に見たときに、脚の機能が損なわれる可能性があると個人的には考えています。脚の機能とは、1.で述べた脚のバネの機能や脚が衝撃を吸収する機能ということですが、それはすなわち「ヴェイパーでしか走れない身体に順化していく」ということです。詳しい説明は省きますが、裸足で歩くことや様々な路面を走ることで脚にとって大事であることと理由は同じです。そして、「脚の機能を損なう」ということは不調や故障に繋がる危険性があるものだと思います。

その一方で、当然、ヴェイパーを履いていてもトレーニングの量や質に応じて、心肺機能や筋肉(ハムや体幹など)は鍛えられますし、練習を継続させる点においては有効的です。僕の場合は、特に足首周囲に痛みが出て練習を中断しなければならないことが多かったのですが、ヴェイパーを履き始めてからその頻度が少なくなりました。

つまり、大袈裟に言えば、ヴェイパーだけを履き続けるということは「脚の機能を損ない、故障に繋がる」ことと「脚への衝撃緩和によって故障をしない」ことのジレンマを抱えることになります。

したがって、基本的にはヴェイパーだけでなく、様々なシューズを履き分けることをオススメしますが、それも判断が難しいところでケースバイケースとしか言いようがありません。しかし、長期的に考えれば練習を継続できる範囲で本来かかるべき刺激を脚に与えることは重要なことだと個人的には思います。

3. カーボン+厚底ソールによるフォーム矯正

これは最も個人差が分かれ、それと同時に技術が求められる部分だと思います。

そもそもヴェイパーはカーボン+厚底(ZOOMX)ソールによって、腰高・前傾姿勢・フォアフット接地にある程度矯正されるシューズです。これは、多くのアフリカ系のトップ選手が自然と身につけているフォームです。特に、3’00/kmを切るような高速ペースになった時には、脚が地面から離れる瞬間の一押しをシューズが担ってくれるため、より体幹が安定し、推進力を生み出す走りへと変えてくれます。つまり、ヴェイパーに合わせたフォームで走ることによって今までよりも速く走れます。

逆に言えば、『ヴェイパーにフォームを合わせられない』人はヴェイパーの恩恵を受けづらいと言えます。それどころか、元々持っているランニングフォームを崩してしまう恐れすらあります。ランニングフォームは千差万別です。トップ選手の中にも、ヴェイパーに合わないフォームの選手が一定数いると僕は思います。例えば、接地時間が短く、回転数(ケイデンス)が高い選手や、既に自前のフォームが確立していて変える事が出来ない選手などです。(パワーが分散し、脚をスムーズに回せていない印象を受けます。)また、当然ながら、筋力不足により矯正されたフォームに耐えられない人(ランニング初心者など)にもオススメは出来ません。

合わせられる人にとっても高い技術が求められます。例えば、調子によって左右される部分もあります。ヴェイパーを使用する際は、高速であれ低速であれ、毎回腰が高くて良い動きならば問題ないですが、重い動きの時には、シューズに頼ったフォーム(シューズに走らされている状態)になってしまいがちです。そうなると、感覚と動きに差異が生まれ、調子を崩しやすくなります。更にその状態でもヴェイパーに依存すれば、悪い動きが定着化します。

1.で先述した「カーボン劣化問題」もあります。特に低速(主に距離走やテンポ走)においてヴェイパーを使用する際、多くの場合は『カーボンプレートによる反力が損なわれてきたヴェイパー』を使用するケースが多いと思います。この場合、その『劣化したヴェイパー』を使うことで動きが悪くなるのであれば、ヴェイパーの使用を控えた方がいいと思います。

一方で、ヴェイパーを履きこなすにはトレーニングによって強靭な体幹を鍛えることが必要と言う人もいますが、僕は「使って慣れる(鍛える)ことしかない」と考えています。先述した通り、ヴェイパーは良いフォームを身につけるきっかけとしても非常に効果的です。だからこそ、練習でヴェイパーも使うべきだと考えます。ただし、良い動きをキープできるようにコントロールする能力が絶対的に必要になります。

以上、1. 2. 3. といった異なる機能性からヴェイパーフライというシューズについて考察してきました。

まとめ

ヴェイパーにフォームを合わせられる人は、ヴェイパーを履いても履かなくても良い動きをキープ出来る能力を練習で身につけ、質の高い練習を継続させて力を付け、レースではヴェイパーの恩恵を受けてより高いレベルで走る、というのが『現状』ベストな選択ではないかと思います。

『現状』としたのは、僕自身がヴェイパーを越えるレースシューズを見つけられていないからです。現在、他メーカーがヴェイパーを追従するようにカーボン入りのシューズを続々と発売しています。それに伴い、今後ヴェイパーを超えるシューズが出てくるかもしれません。(ここまで言っておいてですが僕はアシックスのランニングシューズが大好きです。)あるいは、既にメディアがその動向を報じている通り、今後レースでの使用が禁止されるかもしれません。

いずれにしても、「どんなトレーニングをするのかではなく、そのトレーニングをどのように行うかが大事」なのと同じように、「どんなシューズを使うかではなく、そのシューズをどのように使うかが大事」ということです。そして、ヴェイパーは明らかに他のシューズとは違う「特異性を持つ」ということです。

僕らは週3回のポイント練習あるいはレースごとに何のレースシューズを履くかの選択をします。それは『どうやって自分の脚を速くするか』を真剣に考えた、一つの戦略です。今後どのようなルールになるかは分かりませんが、選手として、変わらず強くなるための戦略を模索していきたいと僕は考えています。

あくまで個人の感想なので参考程度に読んでいただければ幸いです。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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