アンドロイドは世界最速のランナーになる夢を見るか?
今回は、哲学者・歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏が予言した、「アルゴリズムによって支配される近未来の世界」を参考に「究極の速さを求めるエリートランナーは一体どうなっていくのか?」を妄想してみました。
“あくまでエンターテインメントとして”、お読み頂ければ幸いです。
(*このnoteは2021年1月現在に書かれたものです。)
ハラリ氏によれば、近い将来、ITとバイオテクノロジーの進化によってAIが搭載された超小型センサーが開発される。人類がそれを体内に埋め込むことで、我々の生活に大きな変化をもたらすAI革命が起こるそうだ。
本書でハラリ氏はAI革命の脅威と危険について忌憚なく語り、人類の未来に警鐘を鳴らしている。
その革命では、次の2点において、AIは「人間を超える」進化を遂げる。
AI革命後の世界では、ほとんどの雇用がAIやロボットにとって代わる。また、あらゆる情報はビッグデータとしてAIが接続するスーパーコンピュータに集められ、プライバシーは一切無い。
そんな世界に生きる“K“というランナーがどのようにAIと向き合いながら最速を目指していくのか。
それを考えてみた。
①スケジュール管理および練習量の調整
AIはトップ選手やトップチームの過去の練習データを数百年分保存している。それに伴う科学的データやトレーニング理論を保存している。
AIはデータに基づく統計とKの身体的特徴から、Kの未来の筋力、筋持久力、エネルギー供給能力(VO2max、LT値など)、ランニングエコノミーなどを予測し、Kの人生のうちで実現可能な最も速いタイムを計算する。
そして、その能力を獲得するまでの長期的なトレーニングスケジュールを逆算する。そのスケジュールは練習環境(路面、斜度、風、気温、湿度、酸素濃度など)や練習内容(速度、距離、時間)が細かく設定されている。それは、Kにとって常に最適な負荷になっている。
計画外のアクシデントが起きた時には、渋滞を回避するカーナビシステムのように最も合理的なルートに瞬時に再設定する。
KはAIの指示の通りに淡々と練習をこなす。
②走る場面ごとのテクニックの明示
AIはランニングを行う際に、その距離に応じて「その人間の各関節が行う、最も合理的な力学的仕事量」を計算する。つまり、今のKにとっての理想的なランニングフォームを導き出す。
また、AIはランニングフォーム、バイタルデータ(体温、血圧、心拍数、水分量、血糖値、血中酸素濃度など)、意識的な認知過程、潜在的な認知過程(無自覚な心の働き)をその一歩ごとにリアルタイムで測定する。
AIはそれらを踏まえて、その瞬間に「Kが何を意識すれば最大かつ最適パフォーマンスを発揮できるか」を計算し、Kの脳内に直接語りかける。
また、AIはKの視界をドライブレコーダーのようにすべて記録している。ランニング後、Kはその動画や別角度から撮影された動画を繰り返し再生し、追体験することで、AIの指示を完全に理解する。
KはAIの指示通りに走る。
③身体を正しく動かすための指導
AIはKの将来の理想的なランニングフォームを計算している。また、AIは②で計算されたランニングフォームと実際のものとの違いを分析する。
そして、「Kが無意識的に理想的なランニングフォームにならない理由」を構造的に分解し、今のKにとって必要な身体的能力を計算する。また、その能力獲得を阻害してしまうような不自然な刺激を計算する。
AIは最も合理的に必要な能力を獲得するためのトレーニングスケジュールを逆算する。
KはAIが立てた様々な種類のトレーニングを身体の動かし方が合っているか常に確認しながら正確にこなしていく。
他の人間にはそのトレーニングの目的を理解出来ない。だが、Kはすべて理解した上で行っている。そして、Kは少しずつその能力を身に付ける。やがて、KのランニングフォームはAIが計算したものに近づいていく。
それはまるで、鉄の板を奇妙な形にプレス加工する作業が、様々な行程を経て、やがて大型トラックの一部となるように。
④外的要因の把握
AIは気温や湿度といった環境情報を予測し、リアルタイムで更新している。また、ウェアやシューズの種類や摩耗度、路面などといった外的要因の変数をすべて認識している。それらを勘案して、Kにとって常に適切なトレーニング環境となるように、トレーニングの時間、場所、道具を設定する。
KはAIが指定した時間、場所、道具を使ってトレーニングする。
⑤リカバリーの指定
AIはKのリカバリーのために最も合理的な環境や行動を計算する。
AIは現在のKのすべての筋肉の緊張状態をリアルタイムに認識している。また、トレーニングによってもたらされる疲労を全て把握している。それらを考慮し、AIが定めたスケジュール通りに練習が行えるように、全ての筋肉の緊張状態を指定する。
KのAIはトレーナーのAIと接続し、情報共有する。トレーナーは最適な筋肉の緊張状態になるようにマッサージを行う。
AIはKの筋肉量や運動量に応じて、リカバリーやエネルギー源のためにどの栄養素をどれだけ必要かを計算する。それに加えて、Kの細胞や腸内細菌などをリアルタイムに分析し、最も吸収効率の良い食事の内容や方法、それらを摂取するタイミングを計算する。
KはAIに指示された給水や食事を、指示されたタイミングで指示された方法で摂取する。
また、AIはKが睡眠を取る時間や、良質な睡眠を取るための行動を計算する。
Kはトレーニングやリカバリーのための時間をAIが指示した通りに過ごす。それ以外の時間はトレーニングに支障をきたさない範囲内で「自由に」過ごす。
⑥モチベーションのコントロール
AIは人間の身体や脳から流れてくる生化学的なデータを分析することで、人間の内面を判断する。例えば、血圧の上昇や扁桃体の増加が怒りの感情に繋がることを知っている。つまり、AIは人間の意志や情動を数学的に導き出す。
また、AIはKという人間がどのような入力に対して、どのような出力に繋がるかをパターン認識することで、Kの性格や気分をリアルタイムに判断している。Kが無意識のうちに感じている感情すらも把握している。
さらに、AIはアーティストや指導者にハッキングしたことで、人間の内面にある心理的な力を特定の方向に導く能力を獲得している。
AIは「(統計的に)トレーニング中の理想的な心の状態」から逆算して、今のKの心に何が足りないのかを導き出す。そして、Kの脳内に質問を投げかける。また、アルゴリズムによって創られた音楽をKに聴かせる。
Kの心はAIの計算通りに適切に奮い立たせられ、トレーニングでは常に高いモチベーションで臨む。
やがて、Kは「自身が本当に望むもの」でさえAIにコントロールされていく。
そしてKはアンドロイド(人造人間)となり、AIの定めたスケジュールをこなすことだけを目的として生きていく。
Kはいつも、この上なく満足している。
さいごに
いかがでしたか?
もし、こんな近未来になったら、
あなたならどう思いますか?
「そんな世界つまらない」
「恐ろしい」
「馬鹿げてる」
そんな風に思ったでしょうか。
僕だったら。
もし、そんなAIがあるならば。
いま直ぐにでも
この体内に埋め込みたいと思いました。
なーんてね。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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