【え18】スーツとカバンとお持たせと。
突然だが。
書くことがない。
テキスト1本でnoteを主戦場としている人間にとって、それは非常に致命的。にっちもサッチも行かない。とてもじゃないがワンダフル・ワールドとは言えない。
個人的なルールとして「エッセイとコラムを交互に書き落とす」という縛りを持っている。体験を基とした文筆の後は、流行り言葉を珍妙な文章で茶化す。それをスタイルとしているし、今後もその形は崩したくない。極力。
ただ、アレな内容なコラムが圧倒的に支持されている。リアクションも多い。それが続くと、チョコミントでなく単なる甘ったるいチョコレートになってしまう。こんな駄文を一読頂けるのは光栄極まりないが、妙に偏りがあるとプレッシャーに押し潰されそうな気もしなくもないのが正直なところ。講釈懸かった一人語り的なエッセイは、どうしても長くなってしまう。アイドルの自叙伝や業界の暴露本とは訳が違うので、読み飛ばされてしまうのも仕方ない。それらに負けずに踏ん張って書いているのだが。
noteという場所は、そういうネタ切れ感が否めない者のために「お題」を用意してくださっている。大変ありがたいシステムだ。コンテストスタイルではあるものの、それで一山当てようとは思っていないので、用意された「お題」をネタに文を書くのも一興だ。その結果として賞を頂けるのであれば拒否はしないが。
話は変わる。
営業職を生業としていた頃は、カバン一つで相手先に向かうのではなく、必ず「お持たせ」を用意していた。当時は某TV番組で『おめざ』なる言葉がヒットしていた頃。その延長線上にある茶菓子は商談導入の潤滑油であり、アイスブレイクの役割を果たしていた。
「お持たせ」は極めて重要なアイテムだ。
中身によって相手側に印象が左右される。当然ながらセンスも問われる。
最終決定者に対しての押しの一手になれば、給湯室での噂話のネタにもなる。単純に「これ、良かったらどうぞ。お口に合うか分かりませんが」の世界ではない。意外と深いのだ。
そのような意味合いがあるだけに、チョイスには神経を使う。
どこのデパ地下にでも店を構えて売っているような物は、あまりヒットしなかった。あえてブランド名は差し控えるが『缶カンに入ったアソート』では、相手先に響かなかった。中には「ここのゴーフルが昔から好きでねぇ」という方もいるにはいたが、それは稀有な話。大抵、最終決定者のハンコが押される事なく、ターゲット外の方々の胃袋に収まる。
だからといって、あまりに気合の入った物を用意するのも困りものだ。強く印象を残すことは出来るだろうが、それと同時に相手も引いてしまう。こちらはこちらで費用対効果にも影響する。何でもかんでも高けりゃ良いってものではない。逆に、場違いな物を用意しても浮いてしまう。『地域限定◯◯』なんていう玩具菓子は、大金が動く場には相応しくない。
お持たせは「お土産」とは異なる、それなりに立派な「贈答品」なのだ。
仮に相手先が遠方の地で、営業という言葉に「出張」という要素が加わるぐらいの場であれば『我が当地のテッパン商品』を用意すると、外すことはまず考えられない。相手の印象も決して悪くない。残念な事に、それだけであって「この会社は、この土地に拠点を構えているのだ」という事実を与える以外の何ものでもない。時候の挨拶のようなものでしか捉えてくれない。しかも、今はネットでポチッとすればどこの何でも手に入る便利な時代。相手が私的な事でそれを口にして、その味が気に入ってネットでリピ買いなんてされていたら、きっと相手の心には「送料が浮いた」ぐらいしか残らないだろう。中には「気が利くねぇ」と心を開いてくれる方もいるだろうが、これもまたレアケース。
どこのデパ地下でも購入可能な物。
相手が引いてしまうぐらいの高価な代物。
地域限定ナンチャラという「お土産」。
ネットで買えるようになった「そこに行かなければ手に入らなかった物」。
お持たせ一つを取っても、セールストークの運び方以上に頭を使う作業になってきたと感じる。
リモートが一般的になった今となっては「オールド・ノーマル」なのだが。
私が営業職時代、苦心の末にお渡ししていた物は
「美味しいけどわざわざ買う程ではない『相手先の土地のテッパン商品』」
だった。
そのような物は、どこの土地でもある。
「貰うのは嬉しいけど、自分で買い求める物ではない」商品。
「近すぎる存在で、その気になればいつでも買える」商品。
それは「東京の人間が東京タワーに登らない」という意味合いに近い。
灯台下暗しではないが、案外受けが良くて印象に残るようだ。
営業先が県内であろうが県外であろうが。
その土地で最もポピュラーであり、尚且つ美味しいと評判の物をお渡しして、相手のハートをガッチリ掴んだ記憶が幾度かある。
東京出張の際、相手先に「舟和の芋ようかん」をお持ちした事があった。
買おうと思えば仕事帰りに雷門をくぐれば絶対に買える、舟和の芋ようかん。
相手がご年配だった事もあったが、スーッと懐柔できた。
結果として、一箱1,000円の芋ようかんが1,000万に変わった。
「美味しいからといって、しょっちゅう買うものでもないじゃない?」
「昔から変わってないなぁ。自分も若い頃は出張の度に買ったものだよ」
どの土地でも。
どの年代でも。
どのポジションの方でも。
『美味しいけど買うほどの物じゃない』
『貰えば嬉しいけど買うには至らない』
そんな話題作りの道具になる「お持たせ」は、意外と相手先の近場にある。
気を付けたいのは、お渡しする時だ。
「用意し忘れた感」が露骨に出てしまっては、意味がない。
バタバタして新幹線に乗ったので『大丸の地下』で買いました…では、逆効果だ。
「きっとお口に合うだろうと思いまして、お持ちしました」
それが作戦であっても、相手に自然と伝わりさえすれば先制点を取ったも同然。相手との距離が「お持たせ」一つで一気に近付く。
お持たせ一つは1,500円ぐらいが適正価格だと、今でも思う。
「営業におけるイニシアティブの取り方」なんて本が似たような値段で売っているのであれば、今すぐフリマサイトにでも出したほうが良い。
【参考文献】
・「株式会社舟和本店」公式HP