梅と闇齋
實際に、以下の通り京都と滋賀を旅したのは、今年の2月22日~24日。facebookに以下の記事を書いたのは、3月18日のことであつた。
Plum Blossoms in Kyoto
櫻が咲かうとしてゐるこの時期に、敢へて梅の花を揭載してみる。世間では、梅の花はもう散つたであらうか。無粹であらうか。このやうな古來から季節を告げる存在感の强い花を扱ふ場合、ネット上でも機を見るに敏でなければならない。とか思つてゐたら、私が梅を見た神社では、今もまだ梅まつりが續いてゐることが分かつた。といふことは、氣兼ねなく揭載できるといふことだ。さうは言つても、櫻が咲いたらさすがに揭載は不可能であらうから、今のうちに何も氣にせず文章にしようと思ふに至つた。
今囘京都を目指したのは、元々は神道上の動機によつてであつた。山崎闇齋といふ江戸期を代表する儒學者・神道家の記念日に當たり、闇齋に緣のある神社で、關聯文獻の公開があるといふ情報を得たからである。最近は、闇齋が日本の保守主義の主要な源流の一つといふ氣がして、特に注目してゐた。そんな地味な旅行に、妻も一諸だつたのは、妻が闇齋に興味を持つた爲では全くなく、お互ひの記念日とも重なつてゐたからである。「京都で美味しいものでも食べよう」とか言ひながら、私は闇齋關聯の文獻を見る氣が滿々であつた。
私は夜行バスでも問題無く熟睡できるので、夜行バスに乘り氣でない妻を說得し、午前0時5分橫濱發のバスに乘ることが決まつた。私はその日、仕事の後に趣味の勉强會に參加し、更にその後仲間と飮み、急いで歸つて、何とか出發15分前にバス乘り場に到着した。それでも、上には上がゐた。妻は、その日都內で飮み會があり、バスの出發時刻殘り1分を切つた0時4分に到着した。その間何度もメールや電話で遣り取りをしてゐたので、氣が氣でなかつた。かうして安ドラマのやうにバス乘り場に感動の到着を果たした妻を、私はただはらはらした思ひで待ち續け、旅の出だしから大いに疲弊することとなつた。
乘車して間もなく、バスの中で、翌朝は梅でも見ようかといふ氣になつた。しかし、どこで見るかは全く決めてはゐなかつた。そして翌朝、どうやら梅宮大社か城南宮の梅がいいらしいといふ情報に基づき、直感で後者に決めた。結果的にここの枝垂れ梅の梅園に、そして椿との共演にも滿足したのだが、前者であれば闇齋と繫がることができたといふことは惜しまれる。當時、梅宮大社の神職に、玉木正英といふ闇齋の道統の繼承者がゐたのである。ここにも、闇齋と梅の關係が一點。
城南宮で梅を堪能した後は、今囘の旅の目的地の一つ、下御靈神社に參詣した。ここでも、拜殿の前には梅が咲いてゐた。ここで公開されてゐた垂加神道(闇齋が創始した神道)の關聯文獻は、思つてゐたよりも多く、保存狀態も良かつたので、滿足するに餘りあつた。資料館にゐた宮司と話をしようと機を窺つたが、硏究者と思しき人と延々話してをり、結局話せなかつた。さて、この下御靈神社は、闇齋の有力な弟子がここで神職をしてゐたことから、闇齋が自らの御霊を祀つた「垂加社」がある。このやうに自らの御靈を祀ることを「生祀」といふが、元々は闇齋の自宅にあつた「生祀」をこの神社に移した日に因み、それを記念して今囘の資料公開があつたのである。
さて、この「生祀」は實に複雜な事情を呈してゐる。元々闇齋の自宅で行つてゐた「生祀」であるが、その後下御靈神社に遷座された。しかしそれは何故か闇齋の死の一年前に再び自宅に戾されてゐたといふ。そして、今現在はその御靈は神社境內にある。そもそも、「生祀」といふ行爲自體、極めて數が少なく、「垂加神道における最大の問題」と捉へる硏究者もゐる。この「生祀」の神學的解明に、垂加神道硏究の醍醐味があるやうな氣がする。
ここが、その「垂加社」。
梅の話に戾る。思へば、そもそも闇齋といふ人物が、梅と深い關係を持つてゐる。闇齋の母は、夢の中で日吉大社に參詣し、そこで老人から一本の梅の枝を授けられ、それを持ち歸つたところ、身籠つたといふ。闇齋の號の一つ「梅庵」も、そのことと關聯があらう。
ここが、その日吉大社。日吉大社は西本宮と東本宮があるが、これは前者。
さて、下御靈神社を訪ねた後、夜行バスで餘り眠れなかつたといふ妻は、宿で休むと言ひ出した。宿まで送つた私は、この機を利用し、勢ひで闇齋の墓地(金戒光明寺)へもお參りした。翌日は何も調べずに、闇齋が嘗て修行した比叡山に京都側から登らうとした。すると、ケーブルカーは運休の時期であり、見事に期待を裏切られた。折角山の麓まできたのだからとつひでに鞍馬溫泉で英氣を養ひ、翌日滋賀側から比叡山に上つた。闇齋誕生に因む日吉大社にも參拜したが、ここでは肝腎の梅は餘り記憶にない。と、忙しなかつたが、一人の人物を主題とした旅も、また一興であつた。
闇齋の墓。金戒光明寺。
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