二重国籍は贅沢なのか権利なのか
世界では重国籍を認める国が7割を超え主流ですが、日本は認めていず、自らの意思で外国籍を取ると自動的に日本国籍を失います。河野太郎デジタル相は長年二重国籍容認を推しており、発言する度に反対する人々に非難されています。二重国籍は贅沢なのか権利なのか。賛成派と反対派の意見を整理して考えてみたいと思います。
河野氏の二重国籍推進論とは?
まず、二重国籍問題に関係する人はどんな人なのでしょうか。大きく3種類の人がいます。① 国際結婚や出生地主義により生まれた時から日本との重国籍を持つ人。② 成人してから自発的に外国籍を取る人。③ 日本に帰化する外国人。以上の3点がごちゃまぜに論じられているようですが、今の段階で河野氏が推しているのは①と②だけです。
河野氏が2022年のインタビューで「二重国籍を認めていくべき」と発言した理由は以下のように挙げています。① 先進国は重国籍容認が主流。② 2つの国籍と文化を受け継いだ子どもに22歳までに一方の国籍の放棄を迫る現状は改めるぺき。③ 日本の人口が減少している中で優秀な人材に日本国籍を放棄させるのは損失。④ 国の要職に就こうとする人には他の国籍からの離脱を義務づけることは必要。
海外経験の豊富な河野氏は、ボーダーレス化の潮流に日本が取り残される危機感を持っているようです。
二重国籍に反対する人の意見
2018年に海外在住者8人による「国籍はく奪条項違憲訴訟」が始まり今も続いています。2021年の第1審判決は原告が敗訴し、東京地方裁判所は「外国籍取得によって自動的に日本国籍を喪失するのは違憲ではない」としています。
その理由として裁判所は、「アイデンティティは法的保護に値しない」、「国家間や国家と個人、個人間の権利義務に矛盾衝突を生じさせるので重国籍を防止するのは合理的」、「兵役や納税義務が重複する」、「各国で個別の氏名を使い混乱が生じる」、「重婚する可能性がある」、「複数国の社会保障の利益や経済活動の自由を享受するのは不平等」としています。また、SNS上では「重国籍を認めると国を守れない」、「勝手に海外に住んでいるのに権利ばかり主張するな」とかなり強い語調です。反対する人は「二重国籍は贅沢で危険」と捉えているようです。
二重国籍がないと困る移住一世
2022年度の海外永住者は約57万人と年々増えています。『国際結婚を考える会(JAIF)』が昨年「日本人の外国籍取得に関するアンケート」を行い、世界中の海外定住者1.800名から回答を得ました。海外居住の理由は回答者の80%が家族関係(婚姻等)で最多。また、90%の人が居住国の国籍を持っていず、その最大の理由(80%)が日本国籍を失いたくないからというものです。
しかし、居住国の国籍がないと困難を強いられる人も多く、不動産購入、ビジネス、就職や昇進、研究、ローン、相続や在留資格に支障が出る場合があります。選挙権もありません。私のような居住国の国籍を持たない永住者の場合、一定期間以上居住国を離れられないため、長期的に日本の親の介護ができないという問題が起きます。反対に日本国籍がないと、コロナ禍等の有事に入国できなかったり、日本での介護や遺産の公的処理にも不便が生じたり、喪失感を持ったりします。
単一国籍だとどう転んでも不都合が生じ、海外生活者は「二重国籍容認は海外で生活するための権利」と捉えています。
才能と架け橋の損失
外国に移住したからといって日本を捨てたわけではありません。日本人であるということは私を含め海外定住者にとってはアイデンティティであり誇りです。移住一世は涙ぐましい努力をしながら海外で子どもに日本語を教えています。また、国際社会において活躍する人は、日本人の存在感をアピールして広告塔の役割を果たしています。
海外育ちの二世も日本にルーツを強く感じ、成長してから帰国する人も少なからずいます。しかし、日本政府はそのような移住二世に興味がなく、どれくらいの海外定住の子どもがいるかの統計を取っていません。
海外定住者に対する排他的な態度は、国籍問題以外に制度にも表れています。外国語指導員ALTは二重国籍だと、いくら外国語と日本語が堪能でも応募できません。また、日本の大学の外国人向け奨学金は二重国籍保持者を除外するものが多く、これらの制度を受けたければ日本国籍を捨てるように促されます。
移住二世は成長してその国の政治やビジネスの重要な地位に就き、世界と日本との繋ぎ手として有望な人材となる可能性があります。それにもかかわらず、日本国籍を離脱することを求められたり、日本で経験したり勉強したりする機会が狭められ、母国に歓迎されていないように見受けられるのが現状です。
近年、働き盛りの若い世代が子どもの将来を考えて海外移住するケースが目に見えて増えています。少子高齢化が進む日本にとって、若者やその子どもたちがこぞって日本国籍を離脱することは痛手にならないのでしょうか。彼らやその子どもたちが重国籍によって日本との関わりを保持することで、日本に貢献できることはたくさんあるはずです。
二重国籍はいいとこどりなのか
二重国籍であっても生活や仕事があるので、日本と海外を行ったり来たりして気ままに生活できるわけではありません。「重国籍者はスパイになる」または「両方のいいとこ取りをしてずるい」という狭い極端な考えに縛られるか、海外定住者とその子どもが持つ日本への愛着を育み、海外との架け橋となって日本に恩恵をもたらす将来に期待するか、さて、どちらが建設的なのでしょうか。
参考:「国籍はく奪条項違憲訴訟」原告団サイト、河野太郎公式サイト、「日本人の外国籍取得に関するアンケート調査結果」
この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2023年2月号に寄稿したものです。 ☞ https://torja.ca/kaede-trilingual-36/
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