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子どもの教育費を払えない親が多いカナダ

 子どもの大学費用は親が出すべきか、子どもが払うべきか。意外と子どもに負担させる親が多いのがカナダで、私の知人や同僚の若いカナダ人も、学生ローンを払い続けている人が多い印象です。親が払えないほど教育費や生活費が高騰したという理由もありますが、さて、それだけなのでしょうか?
 


教育費の高騰と学生ローンの増加


 カナダの教育費は高騰を続けています。少しデータが古いですが、1990年から2013年の20年間で大学の授業料が2,243ドルから6,254ドルと3倍に跳ね上がり、それ以降も高騰を続けています。(Global News, September 11, 2013)

 2022年現在、4年制大学の平均授業料は6,693ドル(Statistics Canada)です。親元から離れるともちろん住居費や生活費もかかり、合計年間で平均2万ドル、卒業するまでに8万ドルはかかります。そして家賃や生活費もご存知の通り高騰し続けています。

 それに伴い、学生ローンの借金も増え続けています。2015年の4年制大学卒業生の平均負債額は、なんと2万8千ドルだそうです(Statistics Canada)。学生ローンは卒業と同時に利子が付き始めるので返済が重くのしかかります。 

高等教育すべて出す親は10%


 グローブアンドメール紙のファイナンスコラムニスト、ロブ・キャリック氏によると、「子どもの大学の教育費は親がすべて払うべき」と考えるカナダ人は全体の10%で、ほとんどの親は、子どもに部分的、またはすべて負担させているようです。

 カナダには国の学費積み立て制度(RESP)があり、毎年2,000ドルづつ積み立てると政府が年500ドル、最大7,200ドル補助してくれます。しかし、年2,000ドルを捻出するのも難しいようで、その制度を利用する親は半分ほどだそうです(Global News, September 1, 2018)。

 学生はどのように学費を工面するのでしょうか。主な工面先は前述の学生ローンです。また、カナダの大学での勉強はたいへんで、学期中は働きながら勉強するのは難しく、学生は夏休みの3か月間にめいっぱい働いて学費の足しにします。しかし、学費の上昇率は際立っていて、2018年には物価の上昇が2.24%に対し、学費の値上がり率は3.3%でした(Globe and Mail, November 8, 2019)。 

ミレニアル世代の富の格差


 若者の高等教育のための借金は、彼らの人生にどのように影響するのでしょうか。すでに働いているミレニアル世代(1982年 ~ 1991年生まれ)を見てみましょう。

 2022年3月3日付けのグローブアンドメール紙のオピニオン記事「ミレニアルに中産階級はない」によると、この若者世代ですでに富の格差が顕著になっています。

 カナダで純資産保有上位10%のミレニアル世代が、同世代の55%もの富を握っており、その格差は1つ上のジェネレーションXの2倍です。上位10%の彼らは、高等教育を受け、高収入を得て、住宅を所有し、そして借金が少ないのです。彼らは潤沢な富を増やし続けています。

 カナダのミレニアル世代で高等教育を受けた人は70%と高いのですが、デジタル黎明期にうまく乗った教育を受けたかどうかが、その後の所得に影響しています。また、彼らの親が子どもの教育費を援助したかどうかも、彼らの人生を左右しています。 

子どもの運命を分ける借金


 ミレニアル世代の富の半分以上を保有しているのが上位10%であり、子どもの教育費をすべて出すべきだと考える親も10%という数字の一致は興味深いです。そして、すでに格差の下にいる若者たちは、平均2万8千ドルもの学生ローンの返済に苦しみます。そして、上がらない賃金や若者の高い失業率、高騰しつづける家賃や生活費にあえぎます。

 高額な借金返済には10年単位の年月が必要です。ローン残高があるため、彼らは住宅ローンを受けられなかったり、今度は自分の子どもたちのための教育費や自分の年金を積み立てることもできません。そして、そのような生活が長い間彼らを苦しめます。

 教育費や住居費の高騰は、若者の可能性の足を引っ張ります。カナダ政府に早く対策を取ってもらいたいものです。 

親は「学費は自分で払ったから」とは言えない時代


 私たち夫婦は、RESPや助成金、貯金を利用して、 子どもたちの高等教育の費用はすべて出しました。また、トロントには大学や短大が複数あるので、自宅通学可能な学校しか進学を認めずに教育費を抑えました。

 前述のように、私の周りのカナダ人は、子どもの高等教育の学費を出さないと決めているか、または高騰する教育費の見積もりの甘い人が多いです。「自分は働きながら大学を出たから子どももできるはず」と未だに信じている人も少なからずいます。時代は変わったのに、昔の価値観を上書きしないまま、子どもの教育費を貯金せずに、毎年クリスマスに大量のプレゼントを買い込んだり、海外旅行に出掛けたりする人もいます。

 私の夫は、30年前に親の援助を受けず、働きながら大学を出ました。しかし、「子どもの学費はできれば親が出すべき」と考える派です。生活が苦しいのは親も同じですが、子どもの社会人生活を借金から始めさせると、後々まで子どもの人生に影響します。お子さんがまだ小さい方には、早めにプランすることをお勧めします。

参考:Globe and Mail, MARCH 3, 2022 ‘There is no such thing as a millennial middle class


この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2022年4月号に寄稿したものです。https://torja.ca/kaede-trilingual-26/

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