
書籍紹介 ~ ”見えないものを見る「抽象の目」”
※ この記事は内容の性質上、全て無料で読めるよう設定しています。
今回は、このマガジンのテーマの一つである、”概念モデリング”を深く理解するのに役立つ書籍を紹介します。
細谷 功 氏の ”見えないものを見る「抽象の目」 ~ 「具体の谷」からの脱出” です。
以前、この著者の「具体と抽象」に関する書籍を書店で見かけて、ずっと気になっていました。申し訳ない、その時は立ち読みでざっと目を通しただけでした。
今回書店で偶々この書籍を見かけて購入しさっそく読んでみました。前に見かけたときもそうでしたが、私が「Art of Conceptual Modeling」をはじめとするコンテンツ群で頻出する ”抽象” という言葉、この書籍で使っている ”抽象” と同じ意味だなと。この書籍で解説されている「具体抽象ピラミッド」は、概念モデリングを行う時の重要な視点であり、作成する概念モデルは、このピラミッドの上の方に位置することになります。また、この本では、
「区別をする」という抽象化の線引きの側面の最も基本的な動作が分類、カテゴリー化です。
と、”カテゴリー化”という言葉を使っていますが、同じような意味の英語で、”Classify”という言葉があります。Classify した結果としての”概念情報クラス” なので、この書籍でいうところの ”分類したもの” を表現する道具と考えて良いと思います。詳細は、「Art of Conceptual Modeling」を読んでほしいのですが、抽象を表現するのに、
その特徴をデータとして保持する複数の特徴値を持つ概念情報クラスとして記述
具体的なモノ・事象の間にある関係を概念情報クラス間で Relationship として記述
具体的なモノ・事象の振舞・ライフサイクルを概念情報クラスの状態モデルとして記述
という数学の集合論を基盤とした道具立てがあり、概念モデリングでは、具体を俯瞰した抽象を厳密に記述していきます。
何故、この”抽象”という視点が重要なのかは、この書籍で詳しく解説されているので是非読んでみてください。この書籍を読めば、日常生活も含めてビジネスにおいて、”抽象”で考えることが如何に重要かが理解できるでしょうし、デジタルトランスフォーメーションやデジタルツイン、メタバースなどのキーワードをバズワードではなく実のある仕組みとして活用するための基盤であることも理解できると思います。
私も一応、ビジネスパーソンを含む一般の方向けに「ビジネスシステムにおける概念モデルの重要性」という記事で、”概念モデル”=”抽象”の重要性を、なるべく判りやすく書いたつもりではあるのですが、なにぶん、私は大学時代の専攻が物理学、社会人になってからはソフトウェア開発に携わる根っからの理系人間で技術屋なので、一般向けの解説を書くのはとても難しく、一般向けの書籍とか記事とかないものかと思っていたところです。
この書籍の様な意味で”抽象”を解説している一般向けの書籍は、私が知る限り、この著者の書籍を除いて皆無なのが現状。日本語以外で書かれた海外の書籍はあるんだろうか?
「Art of Conceptual Modeling」は、Shlaer-Mellor 法(現在は、eXecutable and Translatable UML と名称変更)をベースに私の実戦経験も踏まえて整理しなおした技法です。もう30年来、陰に日向に実践し続け、折に触れて普及啓発を図ろうとしてきましたが、なかなか広まらないのが悩みの種でした。普及しない理由を常々考えてきましたが、この書籍に答えが書いてありますね。概念モデルはこの書籍でいうところの”無限次元”のレベルのものであり、そもそも、”抽象で考えられる人は極わずか”である”、これが最大の理由なんでしょう。概念モデリングができるようになるには、”具体のレベルではなく抽象で考えられるようになるトレーニングがまずは必要”だという事ですね。う~ん。必要なのは、実は前から判ってはいたのですが、なかなかね。
先ずは、現状を抽象化した ”N次元” のレベルの概念モデル化でトレーニング、それが、できたら、”無限次元”のレベルの概念モデルにチャレンジって感じでしょうか。(そもそも私自身、”無限次元”のモデル化ができているんだろか…と自省)
この著者の他の書籍も、今度はちゃんと読んで勉強しようと思ってます。新しくヒントを得てある程度私の中でこなれたら、どこかの時点で記事にしたいと思います。
ジャストアイデアですが、「商品販売を例にした概念モデルチュートリアル」で解説している
漠然と頭に浮かんだ描像を作成した概念情報モデルで表現してみる
敢えて、Relationship の多重度を変えて、それが具体のレベルでどういう意味を持つのか熟考する
というプラクティスは、N次元のモデルを無限次元のモデルにグレードアップするのに役立つんじゃないかな…なんて感じてます。
”抽象”は、概念モデリングに限らず、「Essence of Software Design」や「Practices of Software Engineering」においても重要な視点なので、How To 的な記事だけでなく、思考パターン的な記事も書けたらいいなと思ってます。これらの記事群も、この書籍の、”N次元”、”無限次元”、”具体抽象ピラミッド” を理解してから、私の記事群を読むと、より理解が進むのではないかと。
「商品販売を例にした概念モデルチュートリアル」で紹介している
以上で、書籍紹介は終了です。私の理解は、「無知の無知」なのかもしれませんが、元々私は、「自分だけが完全に正しい!」なんてことは思っておらず、頭の中にある語彙や概念で理解できない新しいサービスや技術の出現は大歓迎、「やっぱり世界は広大だなぁ…」と思った時の知的快感が好きなので、驕らずに活動を続けようと思っています。
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