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批判的民俗学（仮）入門リーディングリスト

門田岳久（文化人類学・民俗学）

2024年度に行った講義「批判理論としての民俗学」のリーディングリストを公開します。この講義は非常勤で出講した東京大学教養学部／大学院総合文化研究科の授業として行ったものです。民俗学を批判理論の一種として読むことは可能か、という問いとともに、「批判的」であることを明示するアメリカの批判的民俗学（Critical Folkloristics）だけでなく、潜在的にそれに近い視点を持ったいくつかの論文を毎回1，2本読みながら進めました。

網羅的ではなく、それぞれの項目でほかにもふさわしいものがあるのは言うまでもありませんが、あくまで授業で扱うことを念頭にリストアップしています（ここで挙げた論文を全て課題論文として扱ったわけではありません）。

論文標題からは一見して批判理論や社会批判的な視点との結びつきが感じられないものもあります。実際ほとんどの日本語論文は、明確に社会批判を示したものではありません。しかし、用いている諸概念、暗黙の内に想定されている論敵などを読み解いていくことで、おぼろげながらも日本の民俗学においても批判的民俗学に相当しうる研究群が輪郭として浮かび上がってきたと思われます。

以下では講義で話したり受講生のコメントをもとに議論したりした内容には触れず、あくまでリーディングリストとしてのみ掲載します。

オルタナティブな実践としての民俗学

  1. 岩本通弥 2012 「民俗学と実践性をめぐる諸問題——「野の学問」とアカデミズム」岩本通弥・菅豊・中村淳編『民俗学の可能性を拓く─「野の学問」とアカデミズム』青弓社、pp.9-82.

  2. 佐藤健二 2009 「方法としての民俗学/運動としての民俗学/構想力としての民俗学」小池淳一編『民俗学的想像力』せりか書房、pp.260-281.

  3. 室井康成 2023「「孤立貧」をどうするか: 柳田國男が解きたかった世相史的課題」大塚英志編『接続する柳田国男』水声社.

  4. 福田アジオ 1990 「日本の民俗学とマルクス主義」『国立歴史民俗博物館研究報告』27: 137-166.

  5. 桑山敬己 2008 「日本民俗学の脱国民（脱土着）化にむけて」『ネイティヴの人類学と民俗学: 知の世界システムと日本』.

ヴァナキュラー

  1. 河野正治・塚原伸治・菅豊 2024 「結節点としてのヴァナキュラー概念: 文化人類学と民俗学の対話可能性に向けた一試論」『人文学報 社会人類学分野』520-2: 23-41.

  2. 島村恭則 2019 「民俗学とはいかなる学問か」『日常と文化』7: 1-14. 

  3. 小長谷英代 2016 「ヴァナキュラー: 民俗学の超領域的視点」『日本民俗学』285: 1-30. 

文化運動とサークル村

  1. 川松あかり 2021「語り継ぐことと文化創造運動のあいだ: 旧産炭地筑豊における試論」大塚英志編『運動としての大衆文化』水声社. 

  2. 関一敏 1998 「ことばの民俗学は可能か」関一敏編『現代民俗学の視点2 民俗のことば』朝倉書店、pp.1-29.

  3. 飯島秀治 2020 「石牟礼道子」飯嶋秀治・清水展編『自前の思想: 時代と社会に応答するフィールドワーク』京都大学学術出版会、pp.145-178. 

ジェンダー

  1. ベアーテ・ビンダー 2019 「(Un) Doing Gender―ヨーロッパ民族学・文化人類学における交差性ジェンダー研究」（金城ハウプトマン朱美訳）『日本民俗学』299: 8-18. 

  2. 辻本侑生 2023 「ジェンダーとセクシュアリティ」及川祥平・川松あかり・辻本侑生編『生きづらさの民俗学 : 日常の中の差別・排除を捉える』明石書店.

民俗学知と地域

  1. 杉本仁 2021 「後藤総一郎と常民大学運動: 「野の学」への希求」大塚英志編『運動としての大衆文化』水声社、pp.351-364. 

  2. 門田岳久 2023 「鬼太鼓座と幻の大学構想: 日本海からの叛逆」『宮本常一〈抵抗〉の民俗学』慶應義塾大学出版会.

  3. 石原俊 2011 「<島>をめぐる方法の苦闘: 同時代史とわたりあう宮本常一」『現代思想』39(15): 134-157.

ユートピア、ディストピア

  1. 宮田登 1968 「「世直し」とミロク信仰　日本における「世直し」の民俗的意味」『民族学研究』33-1: 32-44. 

  2. 林淳 2010 「宮田登と民俗学の変貌　挑戦する「もう―つの史学」」安丸良夫・喜安朗編『戦後知の可能性　歴史・宗教・民衆』山川出版社、pp.323-355. 

  3. 崎濱紗菜 「〈政治神学〉としての「日琉同祖論」」『伊波普猷の政治と哲学　日琉同祖論再読』6章、法政大学出版局.

  4. 門田岳久 2024 「思弁的（スペキュレイティブ）民俗学に向けた試論：ノスタルジアからオルタナティブな未来へ」（金広植訳）『実践民俗学』44:9-40（韓国語）.

日常と抵抗

  1. 松田素二 1989 「必然から便宜へ: 生活環境主義の認識論」鳥越皓之編『環境問題の社会理論: 生活環境主義の立場から』お茶の水書房、pp. 94-132. 

  2. 李鎮教 2023 「「80年代」の抵抗文化と民俗の地域社会への帰還——韓国慶尚北道英陽郡「長坡川文化祭」に関する民俗誌的研究」『日常と文化』11:23-48. 

  3. サイモン・ブロナー 2018 「アメリカの文化における暴力と遊びのフレーム化」ウェルズ恵子編『ヴァナキュラー文化と現代社会』思文閣、pp.3-31.

周辺性

  1. Jesse A. Fivecoate, Kristina Downs, and Meredith A. E. McGriff 2021 “The Politics of Trivialization”, in Jesse A. Fivecoate, Kristina Downs, and Meredith A. E. McGriff eds, Advancing Folkloristics, Indiana University Press, pp. 59-76. 

  2. Kay Turner 2021 “Deep Folklore/Queer Folkloristics”, in Jesse A. Fivecoate, Kristina Downs, and Meredith A. E. McGriff eds, Advancing Folkloristics, Indiana University Press, pp.9-34. 

  3. Phyllis M. May-Machunda 2021 “Theorizing Folklore from the Margins: Critical and Ethical Approaches”, in Solimar Otero and Mintzi Auanda Martínez-Rivera eds., Theorizing Folklore from the Margins: Critical and Ethical Approaches, Indiana University Press, pp. 313-334.

批判的民俗学：AFS批判的民俗学特集を読む

  1. Margaret A. Mills 2020 “Introduction: Defining and Creating (A) New Critical Folklore Studies”, Journal of American Folklore, 133 (530): 383–391. 

  2. Anthony Bak Buccitelli 2020 “(Folk)Life, Interrupted: Challenges for Fieldwork, Empathy, and Public Discourse in the Age of Trump”, Journal of American Folklore, 133 (530): 412–429. 

  3. David A. McDonald 2020 “Critical Folkloristics, Free Speech, and the War on Terror”, Journal: Journal of American Folklore Journal of American Folklore, 133 (530): 392–411. 

  4. James P. Leary 2020 “Old Thoughts on (A)New Critical Folklore Studies: A Partisan’s Response to the Special Issue”, Journal: Journal of American Folklore, 133 (530): 471–488.

  5. Stephen Olbrys Gencarella 2011 “Folk criticism and the Art of critical Folklore Studies”, Journal of American Folklore, 124 (494): 251–271.

アクティヴィズム：Ethnologia Europaea 抵抗特集を読む

  1. Saša Poljak Istenič 2018: “Green Resistance or Reproduction of Neoliberal Politics?: Grassroots Collaborative Practices in Slovenia’s ‘Green Capital’ Ljubljana”, Ethnologia Europaea, 48:1, 34–49. 

  2. Jutta Lauth Bacas and Marion Näser-Lather 2018 “Plurality of Resistance and Changes in the Mediterranean Region: An Introductory Discussion on Differences and Similarities of Protest Practices, Ethnologia Europaea, 48:1, 5–18. 

リフレクシヴィティ

  1. 及川祥平 2024 「生きづらさと民俗学」及川祥平・川松あかり・辻本侑生編『生きづらさの民俗学 : 日常の中の差別・排除を捉える』明石書店、pp.41-61. 

  2. 門田岳久 2014 「自分自身について語ること」『人に向き合う民俗学』森話社、pp. 226-259. 

  3. Rachel González-Martin 2020 “Latinx Publics: Self-Documentation and Latina Youth Activists”, Journal of American Folklore, 133 (530): 430–451.

出版＝運動

  1. 村上潔 2021 「ジンというメディア＝運動とフェミニズムの実践」『ガールズ・メディア・スタディーズ』北樹出版、pp.130-148.

  2. 大尾侑子 2022 「〈社会運動〉としての自費出版同盟」『地下出版のメディア史: エロ・グロ、珍書屋、教養主義』慶應義塾大学出版会、pp.43-70.


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