「永遠の向田邦子」

WEDNESDAY PRESS 043

「『思いもうける』は向田さんがよく使う言葉で、期待する、楽しみにする、というようなニュアンスですけど、言葉のなかに感情や距離の伸び縮みが凝縮されている。この『思いもうける』という言葉、何に由来するんでしょう」と、エッセイストの平松洋子さんが語れば「古語で『思ひ設け』と書いて、平安文学などに出てきますね」と同じくエッセイストの酒井順子さんが答える。

これは現在発売中の「オール讀物」(8月号)に掲載されている「特集・没後40年 永遠の向田邦子」の中の対談である。

その他にも「向田さんの印象深い言葉を挙げると『一片食』(ひとかたけ)ですね。何ということもない日常の一食というほどの意味なんですが、その後にたいてい『にも』という助詞がつくんです。どんな食事にも、そこには必ず何らかの情景があると示唆されていて、これの情感豊かな言葉です」と平松さん。

向田邦子さんの深い読者であった二人が、向田さんが書かれた作品から紡ぎだす言葉や、作品の本質までも探ってゆく対談は、すこぶる刺激的であったし、本を読むということはこのようなことなのかと、何回か読み返したのであった。

そして興味深かったのは「向田さんは俯瞰した位置から『場所』や『状況』を描いていきました。文筆家の幸田文と比べてみるとわかりやすいかもしれません。同じテーマでも、幸田文は日常の景色の中に「私はこう考える、感じる」という私的な心情を微細に筆で彫り込んでいくでしょう。向田さんの書き方は「私」の内面を描写し過ぎ図、人間と人間の「間」、関係性から生じる化学反応に目を向けて「場所」を成立させる」というようなアプローチもするのだ。

お互いの発言は、まさに名バッテリーのように軽やかなキャッチボールのように素敵なリズムを刻んでゆく。そして再び向田邦子さんの作品を読みたくなったのである。

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