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04.様々な生き物と共に暮らす住宅

環境問題が世界的に重大な社会問題として注目されているなか、 近年ビオトープという言葉をよく耳にします。人々の間でビオトープへの関心が高まり、普及しつつあるのがわかります。  ビオトープ(biotope)とは、「生命」をあらわすと「場所」を意味するの合成語です。ただの排水路と化してしまったせせらぎや河川に少し手を加え、より自然に近いかたちに戻す“多数の生き物が生息できる環境“を指します。

 下水や排水路が現在のようにコンクリートによって整備される前、どこにでもあった雑草が生い茂った小川やせせらぎの状態を思い浮かべるとよいでしょう。それらは上下水道や河川の整備が進めば進むほど、失われていった風景です。

 都市部を中心に野生生物が姿を消しつつある今、野生生物の生息の場所(ビオトープ)の確保が必要だとされています。残っている自然を残すのはもちろん(保全型ビオトープ)、失われた場所に自然を復元する(復元型または創造型ビオトープ)。そんな試みが、ドイツで生まれ、日本でも実践されるようになってきました。

 私たちの周りには様々な生き物が息づいています。それを身近なところから元の姿に戻していこうという試みを行っています。可能な限り住宅(建築)を創っていく上で中庭や池、せせらぎによるビオトープを設け、自然と人間をつなぐ提案です。そこには、雨や風が届き、昆虫や小鳥などの様々な小動物や生き物たちが立ち寄っていく。そんな風景を目指して…。

宜野湾市Oさん宅のビオトープ


 宜野湾市のOさん宅は、玄関へとつづく外階段を利用したせせらぎを作りました。階段下にある雨水をたたえた池からポンプで揚水して循環させています。ポーチ横にある吐水口から水が放出され、階段を流れ下っていきます。池を中心に植物が育ち、小鳥や昆虫たちが寄ってくる自然に近い生態系を育むことができたと考えています。住人にとっても心地よい空間が提案できたのではないでしょうか。池の周囲にはレンギョやゴールドクレストなどを植え、緑の茂みをつくりました。池の表面にはアメンボが滑り、その上をトンボが舞っている。池には昔、沖縄のどこの田んぼにもたくさんいた小魚のトウギョやフナが元気よく泳いでいます。(写真上)

具志川市(現うるま市)のSさん宅ビオトープ


 具志川市のSさん宅の場合は、水と緑と青の3つのキーワードからなる住宅です。閑静な住宅街にある典型的な住まいですが、決して大きくない敷地の中でも意外性に満ちた方法で自然と結ばれています。ガレージの下部には、有用微生物郡(EM)を混入させた合併浄化槽を設置し、そこで汚水を浄化し、再利用しています。処理槽をオーバーフローした水をポンプアップさせ、上部の池へとつないでいます。池の落水口から放流し循環システムを構築しています。EM処理された水で散水し、部屋の内外には木々や緑があふれており、ミニチュアの森の中にいるような気分にさせてくれます。Sさんの話によると中庭のブーゲンビリアにメジロがやってきて巣をつくり、2羽のヒナがかえり元気に巣立っていったといいます。ほかにもたくさんの小鳥が舞い降りてくるとも話してくれました。こうしたことは、植栽に一切除草剤を使用してないという証拠であり、彼らの餌となるミミズやバッタなど無数の昆虫が存在しているからだと考えられます。緑が多くあることによって、自然素材の優しさに包まれ、忘れかけた人間らしさを取り戻す空間となっているのではと思います。(写真上)

那覇市首里のYさん宅ビオトープ


 次は首里城から見下ろす閑静な住宅街にあるYさん宅です。もともとあった古い井戸を生かし、それを取り囲むようにして池を創りました。屋上には、家庭菜園のスペースを創り、井戸と池にたまった雨水はポンプアップされ菜園の散水に利用しています。水場を求めてカエルがやってきたり、住宅地であるにもかかわらず、池にカモがやってきてしばらく住みついていたこともあるといいます。自然の光や雨が身近に感じられる心地よい空間ができたと考えています。(写真上)



 私たちの試みは小さなものにすぎません。しかし、次の世代へさらに快適な環境をバトンタッチするためにも職能を通して自発的に考え、自然が人間に与える可能性(潜在能力)を的確に見極めていくことが必要だと思います。自然保護や地域の健全な自然生態系に寄与することも含め、よりよき地球の未来のために小さなところから取り組んでいけたらと考えています。

 1992年の地球サミットにおいて健全な自然生態系との共生こそ人類が生き延びることができる唯一の道であるとの認識がなされ、世界は大きく変わろうとしています。生態系の全体的な保全を目標においたビオトープネットワークの推進は、自然生態系保全や都市計画等のまちづくりにかかわる様々な土地利用の中で、最も基盤的で重要度の高いものといえます。

  地球環境時代の今日、ビオトープの適切な確保は生態系を健全に機能させるために世界的に取り組まなければならない緊急課題です。


2002.6.5 主宰 門口安則

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