「デート代論争」を考える
2023年2月12日、某女優がTwitter上に「デート代は男性に出して欲しい」とする内容のツイートを行ったところ、炎上し、翌13日に投稿を削除するということがありました。
その際のツイートは以下のとおりです。
そこで、今回は、このことを踏まえ、いわゆる「デート代論争」について考えてみたいと思います。
1.どの程度の人が「男性が負担すべき」と思っているのか?
上記のツイートには、多くの賛否の声が寄せられたようですが、では、デート代は男性が負担すべきだと思っている人はどの程度いるのでしょうか。
内閣府の調査(注1)によると、「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」と思っている人は、女性が21.5%に対して、男性が34.0%となっており、こうした考えはどちらかといえば少数派であると捉えることができます(図1)。
また、この意識調査でのいくつかの調査項目のうちで、この設問への回答は、男女間の差がもっとも大きかったものとなっており、女性以上に男性の割合が高いことも特徴です。男性は女性が思う以上に、デート代を負担することの必要性を自覚的にとらえていると言えます。
また、年代別にみると、女性に大きな差はみられない(むしろ高年齢層の方が若干低い)ですが、男性では、年齢が高いほど割合が高く、高年齢層ほど男女間のギャップが大きいことがわかります(図2)。
上記ツイートに対して、50代や60代の男性は「そのとおり」だと思う人がいたかもしれませんが、女性や若い世代の男性のなかには許容できなかった人が多かった可能性があります。
性別役割意識に関する他の調査項目でも、性別や年代において同様の傾向がみられるものがあることを踏まえると、男女平等意識の程度がデート代に対する意識にもあらわれているのかもしれません。
なお、「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という設問について、これが、「全額負担すべき」ということなのか、「多く負担すべき」という意図なのかによって、回答が異なることが考えられますが、どちらなのかは調査からは読み取れません(感覚的には前者のように捉えられますが)。また、この設問に否定的な回答をした人が「割り勘とすべき」と考えているかも不明です。
2.「割り勘」が多数派なのか?
上記の内閣府の調査では、割り勘派がどの程度いるのかは把握することができませんでしたが、2017年にブライダル総研が行った調査(注2)では、この点も含めて聞いています。
まず、①「デート費用は、男性が払うのは当然だと思う」という設問への回答については、全体で、女性が19.1%、男性が23.0%となっており、内閣府調査よりは若干低いですが、調査対象年齢が低いことも踏まえ、おおむね同様の結果であると言えそうです(図3)。
一方で、②「デート費用は二人で割り勘したいと思う」とする人は、全体で、女性35.1%、男性25.3%となっており、女性に割り勘派が多いですが、必ずしも多数派とは言えない割合となっています(図4)。つまり、「男性が払うべき」と思っていない人が、必ずしも割り勘派ではないということになります。
これ以外の支払方法としては、「女性が全額」または「女性が多めに払う」、「男性が多めに払う」などが考えられますが、このなかでは「男性が多めに払う」べきと思っている人が多いのではないかと想像されます。
ただ、20代女性については割り勘派が多く、同年代の男性とのギャップも大きくなっています。
なお、デートの回数や付き合った期間によっても、支払いへの意見が異なることが考えられますが、上記二つの調査ではこの点がわかりません。
3.負担の程度やデート回数を踏まえた意識の違いは?
それでは、負担の程度やデート回数(特に初デートとそれ以降)を踏まえて、その意識の違いについて、マッチングアプリ大学が2021年に行った調査(注3)から確認してみます(正式に交際を開始する前のデートを想定した質問であることに留意)。
本調査によると、女性の割り勘派が上記調査よりも高いですが、男女ともに、全額とは言わないまでも男性に多めに負担して欲しい(したい)と思っている人がそれなりにいることがわかります(図5-1、図5-2)。このため、全体としては、割り勘派より男性負担派(全額+多く)が高くなっています(男性負担派は、女性では5~6割、男性では7~8割)。同時に、本調査の結果を踏まえると、上記の内閣府調査の「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」と思っている人は、「全額を払うべき」と捉えて回答している人が多いと考えることができます。
また、「初デート」と「2回目~交際前のデート(2回目以降)」のデート代について、「男性が全額出して欲しい(出す)」と、「初デート」ではそう思っていても、「2回目以降」はそう思っていない人が一定割合いることなどがわかります。
本調査では、同時にその理由を聞いていますが、男性が全額おごることを選んだ人は、男女ともに「交際前は男性が頑張るもの」という回答がもっとも多く(女性約5割、男性約3割)、さらに女性では「おごってくれない相手とは付き合いたくない」という人も1割強存在しており、男性の金銭面での頑張りが、交際するうえでの愛情表現や本気度を示すものであると捉える傾向があるのかもしれません。
また、そのことを踏まえると、交際が始まり、交際期間が長くなると、割り勘派が増えていくことが想像できます。
4.実際にどう支払っているか?
ここまでは、デート代の負担に対する人々の規範・意識をみてきました。意識として思っていること・望んでいることが、必ずしも行動としてあらわれているとは限りません。
このため、これらの意識調査を踏まえ、次に、実際のデート代の支払いがどのような状況になっているのかを確認します。
リーディングテック株式会社が2020年に実施した「デート代実態調査」(注4)によれば、全体として、「男性が多めに払う」という回答が全体の50.4%を占め、次いで「割り勘」が30.1%、「男性が全額払う」が17.8%となっており、つまり、割り勘が約3割、男性負担(全額+多め)が約7割となっています(図6)。
また、年代別にみると、年齢が低いほど、「割り勘」とする人が多く、10代は約4割が「割り勘」なのに対して、50代では約2割となっています(図7)。
これらの結果は、上記の意識調査の結果と大きく離れていないと考えられます。
なお、同調査では、年収が高いほど支払うデート代が高いことも示されており、年齢や性別による年収の違いが影響している可能性もあります。
5.まとめ
上記のいくつかの調査結果を踏まえると、おおむね次のことがわかりました。
全体として、割り勘派は約3割、男性負担派(全額+多く払う)は約7割
性別では、男性の方が自覚的に「男が負担すべき」と考えている
年齢では、若い年代ほど「割り勘」が多い
誰がどの程度負担するかは、男女平等意識や年収の違いが関係している可能性がある
男性の負担は交際するうえでの愛情表現の一つとして捉えている人がいる可能性がある
年収の違いが関係しているという点では、しばしば男女間の賃金格差がとりあげられますが、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の男女間の賃金格差について、1960年代に女性の賃金は男性の半分程度であったのが、2021年は3分の2(75.2)にまで縮まっています。さらに、20代に限れば20代前半が97.8、20代後半が93.2と男女間の差はほとんどなくなっています。
また、男性の非正規割合も増加し、必ずしも、女性より経済面で優位ではない男性が増えている現状において、相手の分も含めデート代を支払える余裕のある男性はかつてより少なくなっていると言えます。
こうした経済的な事情が若い世代での割り勘派の増加や今回のツイートへの批判につながっているのかもしれません。
一方、現実には、男性は収入が低いほど、恋人がいないことが明らかになっている(中村・佐藤2010)ことに加え、結婚している割合も低い傾向があります。
恋愛する際に相手との結婚を考える女性が約5割である(内閣府2015)ことも踏まえると、恋愛相手にもある程度の経済的な面を求めること、すなわち、女性が男性にデート代のコストを期待し、その期待に男性が応じることは、交際を続け、結婚に至るうえでの要素の一つになっている可能性があります。
昨年6月には「令和4年度男女共同参画白書」において20代男性の約4割にデート経験がないことが示され、大きく報じられたところですが、恋愛しない人の主張として、しばしば「お金がかかる」ことがあげられます(内閣府2021、株式会社エウレカ2019)。
上記のように、男性が女性と交際するためには、コスト(食事やデート代)が必要となるという意識が恋愛を遠ざけているのでしょうか。
一方で、冒頭の某女優の主張をとりあげると、女性にとっては、洋服やメイクで安くないコストを負担しています。
金銭的負担の公平とともに、女性にとってはこうした容姿やファッションでの「頑張り」が相手への愛情表現につながっており、これに対する男性側の愛情表現としての「頑張り」がデート代の負担であるといった形での、愛情の社会的交換を求めていると解釈することもできます。
なお、国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、近年は結婚相手について、女性も男性に対して容姿を重視する傾向が、男性も女性に経済面を重視する傾向が高まっていることが示されており、今後、容姿やファッションに頑張る男性や経済的に余裕のある女性が増えれば、デート代の負担問題にも変化がみられるかもしれません(状況によって、割り勘派が増えることも考えられますし、男女間の溝が深まることも考えられます)。
ここまでみてきたことは、あくまで全体的な傾向であり、当然ながら、個別のカップルでは、それぞれの意見が合うかどうか、また、相手との関係性によって決まるものですので、こうすることが正しいというものではないと考えます。
ただ、男だからこうすべき、女だからこうすべき、とするジェンダー規範にしばられることで、二人の関係に支障が生じたり、生きづらさを感じる人たちがいるのであれば、そうした規範やアンコシャス・バイアスに気づき、そこから解放されることが重要です。
そして、雇用・経済面での改善とともに、こうしたことが、恋愛や結婚を望む人がそのことを実現しやすい社会へと変えていくことにつながるかもしれません。
【注】
1)内閣府は、「令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」として2022年8月に、全国男女20~60代に対して行ったインターネット調査(回収数10,906人)。
2)「恋愛・結婚調査2017」として、2017年9月にブライダル総研が20~49歳の男女独身者4,200人を対象に行ったインターネットによるアンケート調査
3)株式会社ネクストレベルが運営するマッチングアプリ大学が、2021年11月に20~40代の独身男女227名に対して、デートにおける飲食代の支払いに関する価値観を尋ねたインターネット調査
4)「デート代実態調査」は、リーディングテック株式会社が、2020年2月に異性とデートをしたことがある全国の18歳以上の男女2,450人を対象として実施したデート代の実際の支払い状況等にかかるオンライン・アンケート調査(回答数1,200人)。
【引用・参考文献】(上記4つの調査以外)
株式会社エウレカ(2019)「日本の恋愛・結婚に関する全国意識調査 (2019)」 報告書
厚生労働省(2022)「令和3年賃金構造基本統計調査」
国立社会保障・人口問題研究所(2017)『第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)』
内閣府子ども子育て本部(2021)「令和2年度少子化社会に関する国際意識調査報告書」
内閣府政策統括官(共生社会政策担当)(2015)「結婚・家族形成に関する意識調査報告書」
内閣府男女共同参画局(2022)『令和4年版男女共同参画白書』
中村真由美・佐藤博樹(2010)『第3章 なぜ恋人にめぐりあえないのか? 経済的要因・出会いの経路・対人関係能力の側面から』佐藤博樹・永井暁子・三輪哲編著「結婚の壁 非婚・晩婚の構造」勁草書房,54-73