若者が産後うつを取り組む意義
新型コロナウイルス感染症が広がる中、菅内閣では、非正規雇用労働者等を対象とする給付付きの教育訓練が行われました。これは1930年代にアメリカの大統領フランクリンルーズベルトが世界的な大恐慌に対する巻き直しを図った「ニューディール」を模倣したものと考えられ、政府の介入による経済の立て直しが期待されます。このような「ヒューマン・ニューディール」を推進し、これからは人材育成・強化により利益と賃金を共に高める経済成長を促し、また経済成長が多様な雇用機会と人々の豊かな生活と新たな活躍を生み出す、「成長と雇用の好循環」を実現し、希望ある未来へ危機感とスピード感を持って変革を行うことが求められます。
今、キーワードは「多様性と変化への対応」であり、人材、特に、若者と女性の飛躍的な活躍に期待が寄せられています。
内閣府の「人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」2014年,2021年により作成された内閣府のアンケートによれば、将来について不安を感じることの項目で日本経済の停滞と衰退の割合上昇が最も増加しました。そして、日本経済の活力を維持していくために必要な対策として、子供を産みやすく育てやすい環境への対策の要望が最も高まっていました。(選択する未来2.0 図17参照)
産後うつは早期に着手しなければ長期間にわたる経済的損失は免れません。下の研究によれば、2008年における日本のうつ病性障害の疾病費用は3兆901億円と推定されました。直接費用は2,090億円、罹病費用は2兆124億円、死亡費用は8,686億円でした。産後うつもうつ病としてカウントされるので、年々増大するこの値のうち何割かとはいえ、莫大な費用がかかっていることがわかります。
(平成 22 年度厚生労働省障害者福祉総合推進事業補助金
「精神疾患の社会的コストの推計」 事業実績報告書)
「しかし、その実際の影響と比較して、多くの国々ではメンタルヘルスケアに当てられる予算は制限されており、精神疾患による疾病負担が総負担の20~25%を占めるにもかかわらず、 開発途上国では総医療費のわずか 2~3%、先進国では約7%を占めるに過ぎない。疾患に対する偏見、死亡率よりも有病率が高いこと、未治療の患者が多いことなどの因子は、 これらの疾患の影響をさらに過小評価する一因となっている可能性がある。」
「うつ病の費用は、2000年の米国で831億USドル、同年の英国で91億GBポンドにも上ることが、以前の研究で示されている。これらの結果は、うつ病の費用は、心血管疾患または後天性免疫不全症候群(AIDS)など他の重大な疾患の費用を上回ることを示している。開発途上国の調査でも、この疾患による社会的影響は極めて大きいことが明らかになった。それにもかかわらず、日本におけるうつ病の社会的費用は、これまで調査されてこなかった。」(報告書p39より抜粋)
このようにこれまで見向きもされなかったメンタルヘルスに焦点を当てる時が来たのかもしれません。
若者と女性双方が輝ける未来のために今私たちは「産後うつ」を考えます。
少子化に繋がる要因として将来への展望がないことが挙げられますが、今子育て支援への介入を渋ることは10年先の社会資本への大きな痛手となります。我々は目先のリターンが返ってきやすい高齢者にばかり注目し未来を見ることを忌避してきました。家庭や助産、保育などこれまで非常に重要で、しかしマンパワーで賄われてきたこの子育て領域こそ、若者の視点を持って、どのように効率よく、また時代に則したテクノロジーの導入ができるのか、ということを考える余地があるのではないでしょうか。
「人材への投資により目指すべき姿
すべての人々、とりわけ若者と女性が活躍する社会は多様な人材の能力と発想が花開く社会であることの象徴である。新しい時代を作り上げるのは、いつの時代も若者の活躍である。時代が大きく変わりつつある中で世界に通用する付加価値、社会的課題を解決する付加価値を生み出せるのは、既成概念に囚われず自由な発想ができる若者である。こうした認識が社会全体で共有され、社会全体で若者を育成し、その活躍を幅広く支援する社会を目指す。」選択する未来2.0より(内閣府)
私も、いずれは、いえ、もしかしたらもう既に若者ではないのかもしれません。
その時はネグリスオブリージュの精神で次の若者を私が応援したいと思っています。
これまで受けてきた恩を次につなげることが私の知恩人への孝行になれば幸いです。
【参考文献】
「中間報告を見据えた調査研究事業報告書」平成30年度子ども・子育て支援推進調査研究事業
内閣府「選択する未来2.0」
「令和2年度少子化の状況及び少子化への対処施策の概況」内閣府
少子化社会対策大綱/2020年5月/内閣府