横須賀米軍ベース前「ハニー・ビー」。45年ぶりにかぶり付くBLT。
20代前半のこと。薄謝にひかれて「汐入」に取材に行った。
取材のテーマは、中学生売春。
何の手がかりもありはしない。ただの噂だ。
疲れはて、米軍ベース・ゲート前のハンバーガーショップ「ハニー・ビー」に辿り着いた。
ハンバーガーじゃなく、”ベーコン・レタス・トマト”を頼んだのは馬車道の「珈琲屋」で食べた記憶があったからか、飲み代欲しさに、のこのこ東京からやってきた情けなさと、ぐんにゃりねじ曲がった矜持からだったか。
銀座「教文館」をのぞいて、ふと京急に乗ろうと思い立った。
京急、野毛、黄金町、追浜、横須賀… ここ数週間、西の方に気が行っている。
読む本も、聴く曲も、西の方のブルース。
東銀座まで歩いて、京急の快特に乗って「金沢八景」。
「浦賀」行に乗り換えて「汐入」で降り、どぶ板通りに入っていった。
目に入るのはTATTOO屋と錆びの浮いたシャッタ。
人通りのない、さびれた町に商店街のフラッグが風に揺れていた。
どぶ板の端を左に曲がると、米軍ベースのゲートが見えてくる。
こんなにちゃちな作りじゃなかった。
今は、こんなもので事足りているということか。
あの頃は、ベトナムで不条理な戦争をやっていたから。
不条理じゃない戦争なんて有りはしないが。
ネオン管の「ハニー・ビー」。
思い出せない。
もっとどぎつくキンピカだったような。
古びてはいるが、感じの良い店内に、感じの良いスタッフ。
そんなウォームハートな店だったか。
この店のBLTは、バンズを外すと折り曲げたレタスが飛び出してくる。
45年前、やっぱり指と手の平をベタベタにしながらBLTに齧りついている時だった。
ミニのワンピース、たぶん大きな花柄、ステッカーをこれでもかと貼ったキャリーを曳いて若い女の子がひとり入ってきた。
背中をすり抜ける時、熱い体温とむき出しの体臭をかいだと思った。
いいように捻じ曲げた記憶だ。
アジアの戦争に忙しい米国の空母は、まず佐世保で弾薬を下ろしてから横須賀に向かう。
佐世保のスナックのホステスも空母の水兵同様、馴染みの兵隊を追って佐世保から先回りして横須賀にやってくる。
休暇が終われば、また死の匂いのする泥水に戻っていく兵隊は気前がいい。
渡り鳥のような女の子たちにとっては稼ぎ時だが、ただ、それだけだったのだろうか。
レタスが厚い!スモーキーすぎるベーコンもいい。
ライムを押し込んだコロナで流し込む。
なにか忘れものをしているのだろうか。
しているとしたら、あの日の花柄の”恋”の行方か、世間知らずの若造が置き去りにした自分か…
コロナを飲み干して、行儀よく「美味しかった。ご馳走様」と言い残して「横須賀中央」に向かった。