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ここは異界か、最後の砦か。帯にある寿町は、中華街、元町への下車駅、根岸線・石川町から徒歩6分。

昨年、10月に刊行された山田清機さんの『寿町のひとびと』が、売れていてとてもうれしい。
伊勢佐木町「有隣堂」さんでは、名だたる大家を押さえてどうどうの第一位。いやぁ、うれしいじゃないか。

山田さんが六年の間、歩き回り、嗅ぎまわり、食い下がった寿町は、東京の山谷、大阪の西成と並び称される日本三大ドヤ街だ。

哀しきは寿町といふ地名 長者町さへ隣にはあり

これは朝日新聞朝日歌壇で注目された“ホームレス歌人”公田耕一さんの歌。
*詳しくは東京新聞、中日新聞のコラム<大波小波>を。

『寿町のひとびと』によると、明治の初めに南一つ目沼という沼地を埋め立てて出来た埋立七ヶ町のひとつが寿町で、戦後は米軍に接収されてモータープールとして使用されていた。
公田耕一さんの歌にある寿町は、米軍による接収解除後、職安と日雇い労働者の寄せ場が移ってきてからのことだと思うが、その三代ドヤ街のひとつが、今でも中華街、元町、横浜スタジアムの徒歩圏内という絶好地に存在している。なんだかにわかには、ねえ…。

山田さん、じっくり読ませていただきました。
そして、まず超極私的におもしろがっちゃいました。

今から47,8年前のこと。

沖の貨物船から大桟橋に帰り着くのが午前四時。
日本大通りを右折して、手銭のある時は一軒だけ開いている酒屋で、ビールの小瓶とパックのままの“冷奴”を店の前の歩道に座って啜る。

間もなく二十歳になる頃合い。
何かおもしろいことはないか、小銭を稼げそうなことはないかと、一日中、関内、野毛、伊勢佐木町辺りをほっつき歩いていました。

馬車道の入口に「珈琲屋」があり、入った右手に有隣堂があった。
関内マリナード地下街が出来たのは、ぼくが東京に移って二、三年後だと思います。
本当にあのエナジーは何だったのか。とにかく空回りの毎日。
それでも寿町にだけは足を踏み入れたことは無かった。
ぼくは無意識のうちに最後の砦化していたのかもしれませんね。

本筋に入ります。
『寿町のひとびと』には、これは忘れないようにしようと思わせる文章、会話がたくさん出てきます。付箋がいっぱいです。

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でも山田さん、インタビュー大変だっらろうなぁ、と思う。

印象に残っているものを幾つか。

第三話 愚行権
アルコール依存症の介護利用者が言う。
「なんで自分の年金で酒を飲んじゃいけないんだよ」
言われた介護者は思う。それもそうだと。
飲んで具合が悪くなるのも、死んでしまうのも、本人の権利かもしれない。基本的な人権の中には本来、愚行権というものがあるべきはずだと。
ぼくは賛成。

同じく第三話から。
若い頃からやり放題。酒とギャンブルに溺れ、家族からも兄弟からも見放された人生。70歳になるサカエさんは、
「特に望みはないよ。オレは満ち足りているんだよ。静かに眠れれば、これでいい人生だったと思うよ」
亡くなったサカエさんの部屋に入ることが出来た山田さんは、そこでぼろぼろになるまで読み込んでだ『人は死なない』(矢作直樹著)を見つける。山田さん。

第六話 帳場さん二題
帳場さんというのは、簡易宿泊所(ドヤ)の管理人さんのことです。
清川さんという女性の帳場さんの話。
とにかく面倒見が良い人で、みんなから慕われている。
間もなく49歳で亡くなったお父さんと同じ年齢を迎える清川さん。
ドヤの住人たちの奔放な生き方は、自身の終活に大きな影響を与えているという。
「ここの人たちのお世話をすることはとても疲れることなんですが、感覚的には貰っているものの方が多い気がするんです。最初はそうは思わなかったけれど、この町から私の中に入ってくるものを一所懸命消化しているうちに、それが自分らしく生きて、自分らしく死ぬために集めている部品のひとつになっていく気がします」

『寿町のひとびと』には、様々な要因で住人になったひとたちと、それを支えようとしてきたボランティア、NPO、役所の人々がたくさん登場する。
何故だろう。ぼくは住人のひとたちよりも、支えようともがき、裏切られ、それでもまた支えようとしてきたひとたちの方に目が行ってしまう。

まあ、読んでみてください。

そうそう、ひとつ勘違いしていたことがありました。

― 寿町にはアルコール依存症の人が多い。この町にやって来たそうなったのではなく、アルコール依存症になって家族からも老人施設からも病院からも見放されたあげく、この町にやってくる人がほとんどだというのだ。中にはワゴン車でこの町まで連れてこられて、捨て猫のように道の真ん中に置いていかれる人もいるという。

ここにはことぶき診療所のような、アルコール依存症への対応力の高い医療機関があるからだそうだ。
なんだか切ないような話。

帯の裏側に、こちら側とあちら側、彼らとわたし・・・・とある。
本当にそうなのかなぁ。

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