
あの“アンジェリーナ”なんだ。
小川洋子と佐野元春と10の短編。
28年前、小川洋子さんは、佐野元春さんの楽曲から10曲を選んで短編集を作り上げた。それがこの『アンジェリーナ』。
こういうのもいいよね。しかも小川洋子さんと佐野元春さん。
目次がそのまま楽曲のタイトルになっている。 そして、それぞれの副題を読むと、 ああ、これは小川さんの作品だと納得する。
☆「アンジェリーナ」~君が忘れた靴~
☆「バルセロナの夜」~光が導く物語~
☆「彼女はデリケート」~ベジタリアンの口紅~
☆「誰かが君のドアを叩いている」~首にかけた指輪~
☆「奇妙な日々」~一番思い出したいこと~
☆「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」~水のないプール~
☆「また明日・・・」~金のピアス~
☆「クリスマスタイム・イン・ブルー」~聖なる夜に口笛吹いて~
☆「ガラスのジェネレーション」~プリティ・フラミンゴ~
☆「情けない週末」~コンサートが終わって~
小川さんは佐野元春さんの大ファンで、コンサートにも行っていたようだ。この企画が本当に上手く行くのか不安だったようだが、これほど楽しんで書けたことはなかったと。
そして、あとがきに”ここにおさめられているのは、書きたくてどうしようもないところから、生まれてきた小説ばかりです”、とも。
本書が単なる企画ものではないことは、本書がここに存在していることが証明しているが、どれを読んでも、ふーっとか、はーぁとか、うん、そうだよなとか、唸ったり、合いの手を入れたくなるものばかりだという事実(ぼくの)も証のひとつだ。
詳しい内容には触れないが、「アンジェリーナ」について少し…
仕事にも私生活にもすこし疲れ気味の僕。
いつものように自宅への電車を待っている。
ふと、座っているベンチの隣を見ると忘れ物が・・・
電車に乗ろうとすると、なんだかその忘れ物に引き留められているようで、電車を逃してしまう。 それにしても、そばを通る人たちは忘れ物にまるで気付かない様子。
忘れ物は、分かる人には分かるよね、トウシューズ。 内側に刺繍された名前は・・・
ぼくは、小川洋子さんの物語も、佐野元春さんの歌も大好きだ。
だから、こいつも物語にしてくれたら、昔の、どうしようもなかった頃の自分に、もう一度出会えたかもしれない。
「手おくれ」と言われても
口笛で答えていた あの頃
誰にも従わず
傷の手当もせず ただ
時の流れに身をゆだねて...