国債へのテコ入れは!?日銀の思惑と日銀会合!
日本の10年国債が1.1%に到達
2024年5月30日、日本の新発10年物国債(第374回債)の流通利回りが一時的に1.100%に上昇しました。この利回りの上昇は2011年12月以来、約12年半ぶりの高水準であり、市場に大きなインパクトを与えました。
かぶざるとは?
SNS総フォロワー30,000人超えの、元証券マン兼業投資家です。
元証券マンとして、「誰かにおすすめされたものを買うのではなく、自分が自信をもって選んだものを買うべし」と強く思った経験から、皆さんにもそうした考えのもと、投資をしていただきたいと思い、さまざまなSNSで投資情報を発信しております。
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利回り上昇の背景
この利回りの上昇は、いくつかの要因が絡み合っています。欧米の金利上昇の影響がまず挙げられます。米国や欧州の中央銀行がインフレ抑制のために利上げを続けていることが、世界的な金利上昇圧力を生み出しています。さらに、日銀が6月の金融政策決定会合で国債買い入れの減額などの政策修正に踏み切るとの見方が市場に広がっています。日本の10年国債利回りが1.1%に到達したことは、国内外の金利動向や日銀の金融政策の行方に対する市場の不安を反映したものです。これにより、国債を売る動きが活発化し、利回り上昇を促しました。
日銀の対応と市場の反応
5月29日、日銀の安達誠司審議委員は講演で、国債購入の本格的な縮小を検討する考えを示唆しました。これにより、金融市場はさらに緊張感を増しました。安達審議委員は、急速な円安で物価が上昇すれば「金融政策での対応も選択肢だ」と述べ、早期の利上げも排除しない立場を強調しました。一方、市場では日銀は、5月13日に5年超10年以下の国債買い入れオペのオファー額を4250億円とし、前回の4750億円から減額を発表しています。この動きは市場にサプライズをもたらし、国内金利の上昇を引き起こしました。
背景とは
2024年6月、日本銀行(以下、日銀)は金融政策決定会合で国債買い入れの本格的な減額を決定する可能性が高まっています。市場では7月の追加利上げも予想されていますが、利上げのペースはまだ十分に織り込まれていません。これによって、市場が織り込みを進めているため、10年債利回りが上昇しています。金融政策見通しを反映するOISでは、7月の利上げ織り込みが7割程度に達していますが、OIS2年先1年フォワード金利は0.7%を下回り、年1回程度の利上げペースしか織り込まれていません。
市場では、日銀の利上げペースが想定より速まるとの見方が強まり、さらなる金利上昇圧力がかかると予想されています。
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金融政策の展望と利上げ懐疑論
日本経済が利上げに耐えられないとの見方や、米国が利下げに向かう中で利上げは困難とする声も多くあります。1990年代のバブル崩壊以降、2度の利上げ局面で政策金利が0.5%以下にとどまったことが、この見方を強めています。
しかし、4月の金融政策決定会合の主な意見では、金利のパスは市場で織り込まれているよりも高い可能性があるとするタカ派色の強い発言が多く、利上げの見通しに対する懐疑論を冷や水を浴びせる形となっています。
日銀の政策アプローチと利上げの可能性
元日銀調査統計局長の関根敏隆教授は「日銀の政策調整が進むことは自然であり、状況が許せば6月の金融政策決定会合での追加利上げもあり得る」と述べています。「日本は金融緩和のし過ぎであり、適切な政策金利水準を考慮すれば、日銀は少しずつ金利を引き上げていくべきだ」と主張しています。市場の利上げペースの見通しを上回る利上げが行われる可能性が指摘されています。
かぶざるの見解
日銀の国債買い入れ減額と利上げ見通しに対する市場の反応は分かれており、特に利上げペースに関する見通しが不透明な状況です。今後の金融政策決定会合での動向や、国内外の経済状況の変化が注視されます。市場の不安を解消するためにも、日銀の透明性の高い情報発信と適切な政策運営が求められます。日銀が長期金利の変動を監視しながら、月間の国債買い入れ額を減らすか、年間の国債保有残高の減少額を示す必要性が迫っています。
2013年に黒田前総裁の下で始まった量的質的金融緩和(QQE)では、長期国債の保有残高を年間約50兆円増加させる目標を示していました。今後は償還分を踏まえた年間のネットの減少額を示すことで、市場へのメッセージとして明確になります。
追加利上げと消費回復
賃金、サービス価格、個人消費のデータが鍵を握っています。春闘で示された高い賃上げ率が6月以降の毎月勤労統計に反映され、サービス価格が今年の賃上げを反映するかどうかを確認する必要があります。現在は物価上昇に賃金が追い付いていないため、アグレッシブな政策が取れないことが、日銀を悩ませていますし、市場も「日銀は手が打てない」と考えているため金利の上昇が加速しているわけです。
現在の円安が継続してしまうと、実質賃金は上昇していきません。一方円安であるほど物価の上昇は進んでいきます。日銀はデフレ脱却を目指していますが、物価上昇と賃金の上昇が同時に起こらなければ実現しません。
現在はGDPがマイナスであり、賃金上昇が物価上昇に追いついていないことから、国民生活は疲弊しています。その状況下で物価が上昇すると、いわゆるスタグフレーションの状態に陥り、賃金が上がらないにもかかわらず物価が上昇する状況は、国民にとって極めて厳しい経済状況となってしまうのです。円安は物価の面では、日銀が目指す物価上昇をもたらしてくれますが、国民生活の面から見ると、賃金の上昇が実現しにくいという側面をもたらします。これが、日銀を悩ませている現状であり、市場と日銀との考えに乖離を生み、思惑で動いてしまう相場状況なのです。
利上げの影響と見通し
近い将来、利上げが実現する可能性が高まってきましたが、どのような影響があるのか。
1. 預金利息の増加
マイナス金利が解除されると、銀行が預金者に支払う利息が増加する可能性があります。これにより、預金者は銀行に預けている資金からより多くの利息を受け取ることができるようになります。
2. 住宅ローン金利の上昇
マイナス金利解除に伴い、市場金利が上昇すると、住宅ローンの金利も上昇する可能性があります。これにより、新たに住宅ローンを組む人や既存の変動金利型ローンを持つ人にとっては、毎月の返済額が増加するリスクがあります。
3. 企業の借入コストの増加
企業も同様に、借入コストが上昇する可能性があります。これにより、企業の投資や設備資本の調達が難しくなることがあり、結果として経済活動の抑制や雇用の減少につながる可能性があります。
4. 円高の進行
金利上昇は円の価値を高める傾向があり、輸出企業にとっては競争力の低下を招く可能性があります。これにより、日本の輸出産業に悪影響が及び、経済全体への波及効果が懸念されます。
5. 物価の安定化
金利の上昇はインフレの抑制に寄与することが期待されます。これにより、物価上昇を抑える効果があり、消費者の購買力を維持することができるかもしれません。
6. 投資の選好変化
利回りの高い預金や債券が増えることで、リスクの高い株式や不動産への投資が減少する可能性があります。これにより、資産運用のポートフォリオが変化し、株式市場や不動産市場への影響が出る可能性があります。
国民全体のために利上げを行う合理性が必要であり、利上げは簡単ではありません。また、日銀が円安の影響だけでなく、基調的な物価上昇率も注視しているため、一筋縄にいかないことが、市場の織り込みと日銀の政策との間の思惑の乖離に繋がっているわけです。
将来の利上げパス
日銀が2%目標実現への自信を深め、資源価格の高騰や供給制約等の要因が重なれば、来年に0.5%へ利上げし、バブル崩壊後以来の高さまで政策金利が到達する可能性があります。事実、日銀からは市場が想定しているよりも、我々は高いものになる可能性を考えていますよと発信しています。
日銀の柔軟な買い入れ方針
しかし、現在は金融引き締めの局面ではありません。日銀は3月19日の金融政策決定会合で、マイナス金利解除と、ETF買い入れ方針をやめ、長期国債の買い入れに関する柔軟な方針を示しました。
マイナス金利や、ETF買い、国債買い入れは経済が一時的に急落したりショックを受けた時に「応急処置」で行われるものです。例えるならば、怪我人を応急処置する「救急車」の役割です。ただしいつまでも救急車に乗っていられるわけではありません。相場の世界も同じで、これまでマイナス金利解除や、ETF買い、国債買い入れという「金融緩和」を続けることで、経済への応急処置をしてきましたが、物価の上昇から分かるようにデフレ脱却の出口が見えてきました。この応急処置をやめることを、「金融正常化」といいます。
ただし日銀は、長期金利が急激に上昇する場合には、毎月の買入れ予定額にかかわらず、機動的に買入れ額を増額する措置を講じるとしています。このため、現在の長期国債買い入れ減額措置は、急にやめるのではなく、まだ一部応急処置を続けるという、柔軟な方針の一環とみるべきであり、本格的な引き締めとは異なります。
本格的な量的引き締め(QT)の時期
本格的なQTは、追加利上げが一巡した後になると予想されます。利上げはいつ一巡するのかというのはわかりませんが、ヒントは多数あります。前半で1回の利上げは今年折り込まれていることをお伝えしましたが、年末に向けて177%折り込まれていることから、1.7回分は今年織り込まれているということです。そして、スワップ市場では0.5%織り込まれています。つまり、0.5%まで日銀は一旦利上げをするということで、その時期は今年1.7回折り込んでいることから、一巡するのは来年春ごろが有力かと思います。実際に2024年3月にマイナス金利を解除してから1年が経過する来年春のタイミングは、「1年間の経過観察ができた」という大義名分も整います。
短期金利を引き上げている最中にQTを始めると、長期国債利回りが予測不能な形で大きく変動するリスクがあるため、慎重な判断が求められます。最短で今年9月に追加利上げを行った後、来年にもう一度利上げをしQTに踏み切る可能性があります。
金利の評価と今後の予測
日銀の買い入れ減額による需給懸念が金利上昇の主因であります。日銀の金融政策は、長期金利の動向や消費回復のデータを注視しながら進められます。追加利上げやQTの実施時期は、経済・物価情勢や市場環境、政治動向など多くの要因に左右されます。現時点での予測は困難ですが、今後も柔軟な政策運営が続くと考えられます。市場の見解は分かれており、今後の展開については不透明感が残りますが、短期的には1%近辺での推移が予想されます。長期的には、さらなる利上げや国債買い入れ減額の影響を注視する必要があります。それには背景をしっかりと理解することが必要です。