【エッセイ】闘いは続く〜アレルギー体質です〜
“奴”はいつも突然やってくる。
その夜は何度も何度も目が覚めた。
そういう時は大体、両手にしていたはずの綿の手袋の、左手が脱げている。
どうしていつも左手が脱げているのかは、分からない。
あまり気にしていないので、理由を見つけようともしていない。
布団の隙間から手袋を見つけて、左手にはめ直す。
その動作の中で、右の手袋の指先が汚れているのに気づいた。
『ああ、またか。どこだろう?』
汚れの箇所から察するに、右手でないことは明白だった。
左腕を確認すると、手首、そして肘窩に赤い掻傷が複数ある。
とりあえず右手の手袋を外し、枕元に常駐しているワセリンに手を伸ばす。
ワセリンを右手に取ると、掻傷の箇所にベタベタと塗った。
汚れた手袋をそのまま右手にはめ直して、寝直す。
こんなことは、度々ある。
おまけに一夜に何度もあるから、その度に手袋を新しいものに替えていたら切りが無い。
だが、今回はそれだけで終わらなかった。
“奴”がやってきたからだ。
寝直そうとしたが、どうも寝られない。
スマホの時計はまだ「3:45」を指している。
とりあえず目を瞑ってみる。
が、意識が遠のかない。
それどころか、何かがボリボリと音を立てている。
目を開けると、また左手の手袋が脱げかけていた。
手袋の手首の部分が少し捲れ、掌の方へ返っている。
音を立てていた何かは、自分の右手だった。
左の手首を上下に何度も引っ掻いている。
よくある光景。
よくある光景だが、その夜はあまりに眠れなかった。
朝6時。
いつもの起床時間になった。
身体を起こし、歯を磨き、朝食を食べる。
いつもと変わらないモーニングルーティーンだったが、どうも背中や足の付け根に掻痒感がある。
着替えは朝の支度の中では、フィナーレだった。
洗面所の鏡の前でパジャマを脱いだ、その身体の至る所に紅斑が見られた。
触れると、その紅斑部分は盛り上がっているがツルツルしている。
また、中には下腹部や鼠蹊部に下着の形に沿うように出現しているものもある。
ここでようやく、“奴”が来たことに気がついた。
突然やってくるのはいつものことで、心当たりがないのもよくあることだ。
寧ろ、明確な理由があったのは、自宅で冷凍牡蠣をソテーにして食べた時だけだった。
その日は仕事が詰まっていたので、とりあえず常備薬の中の抗ヒスタミン薬を服用した。
午前中は痒みだけでなく、熱を持っているようにも感じた。
掻いたところで症状が落ち着く訳ではないが、掻かずにはいられず、少し掻きながら過ごした。
なんとか凌ぎ、昼食を食べる頃には今朝見つけた紅斑は無くなっていた。
一方、夕方に近づくにつれ、首元や膕が痒くなってきた。
トイレでズボンを降ろすと、膕はもちろん、下肢のあらゆる箇所に新たな紅斑が出来ていた。
その後、皮膚科に通院しながらの“奴”との闘いは今も尚、続いている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?