三題噺テーマ「神隠し、シェアリング、花粉」|優(すぐる)の夢
あるところに、意地悪で傲慢な一人の男がいた。男の名は「優(すぐる)」。優の両親は、「優しい子に育って欲しい」という思いを込めて名付けた。年齢は40歳で無職。これからも働く意志はなく、両親と暮らしている。
優は、子どもの頃からとにかく意地悪だ。同級生が最後の楽しみに残していた給食の唐揚げを食べてしまったり、図工の時間に一生懸命作った作品を壊してしまったり…
そんな優には友達がいない。しかし、当の本人は、友達がいない原因が自分にあるという自覚はない。逆らうと面倒だからと、両親は優を甘やかし、同級生も先生も優の望みを叶えてきた。
甘やかされて育った優は「人々に影響力のある人間になりたい」という夢を抱くようになる。
ある日、優は神隠しにあった。世間で評判のカーシェアリングを利用して、横浜中華街を楽しんでいたときのこと。食べログで星5つの有名店にて、中華料理を頬張っていたそのとき、突然、姿を消したのだ。
日帰り旅行のはずだが夜になっても戻らず、連絡も取れない。心配した両親は、警察へ相談した。
警察の聞き込み調査によると、神隠しにあった直後、周囲に花粉が舞ったらしい。
なぜそんなことが分かったのかって?
優と同じ時間に店内で食事を楽しんでいた花粉症の人々が、同時に反応したからだ。みんなの目が一斉に赤くなり、くしゃみや鼻水が止まらなくなったらしい。
そうだ。「影響力のある人間になりたい」という優の夢が叶ったのだ。