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#42.発達障害の心理検査(WAIS―Ⅳ)

 のっけからのお断りで恐縮ですが、発達障害の心理検査、その細かい検査内容はここでは触れないようにしたいと思います。

 と言うのも、これは予習して高得点を叩き出すとか、高得点を取ればお得なクーポンがもらえるとか、そういった試験ではなく……試験内容をここに記すことで、これから受ける人にかえってデメリットとなっても仕方がないなと。

 なので簡単に、かいつまんで。
 検査当日、病院で受付を済ませると、診察室とは別の部屋に案内されました。奥に座っていたのは坂口先生ではなく、名札に『臨床心理士』と記された男性の方。

「初めまして、カバネさん。今回の検査を担当する西田と言います。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
「昨晩はよく眠られましたか? 検査で緊張される方もいますので」
「そうですね、わりと眠れたと思います。緊張は少し、しているかも知れません」

 なんて会話から始まり、試験の概要について説明を受けました。所要時間は約2時間。疲れたりお手洗い等に行きたくなったら、ご遠慮なく仰ってください、とのこと。

 試験項目は多岐に渡り、パズル的なものもあれば一問一答の質疑形式も。頭を使うものもあれば手先を使うものも。木に関するイラストを描く『バウムテスト』という項目もあり、後半を過ぎるとちょっと疲れが出てきました。

 検査結果はその日に聞けるものではなく、1~2週間の時間が必要になるらしい。次回診察時に結果をもらえるそうで、それまではお預けという形になりました。

 ◇

「先日は心理検査、お疲れ様でした」
「ありがとうございます。いや、けっこう疲れましたね」
「そうですね、長い時間集中するので、大変だと思います」

 そう言って、坂口先生から手渡されたのは2枚のA4用紙。こちらに試験結果、および担当した臨床心理士の方の所見、そして先生のコメントが記されていると。

「まずは資料を見ていただいて、何か気になるところがあれば仰ってください」
「そうですね、少しお時間をいただけますか」

 手元の用紙に視線を落とすと、見慣れない単語が色々と並んでいました。
 まず数値的な結果として、言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度という4つのIQ。それらを平均した全検査IQ。そしてバラつき具合のパーセンテージ。

 また、臨床心理士さんに伝えた僕の主観も記されていました。小さい頃は運動が苦手で手先が不器用。単純作業のミスが多く、段取りが苦手なはなしなど。

「この、言語理解とかはどういう意味なのでしょう?」
「厳密にはもっと細かい分野に分かれるのですが、ここでは大きく4つの分野でIQを記載しています」

 言語理解はそのまま、言葉に関する能力を表したもの。
 知覚推理は視覚情報の意味や関係性を捉えて推理する能力。
 ワーキングメモリーは、情報を一時的に頭の中に格納し、その記憶を利用する能力。
 処理速度は視覚情報に関する処理速度とのこと。

「カバネさんの場合、最も得意な分野は言語能力ですね。そして低いのは処理速度。確かにバラつきはあるのですが、明確に発達障害と呼べるだけの差、凸凹はないようです」
「そうなんですか?」

 これはちょっと意外でした。
 勝手に想像していたのは、処理速度やワーキングメモリーが極端に低いんじゃないかと感じていたので。

「ですがあくまで目安ですから。これまでのお話を聞く限り、診断は変わらないと判断します。リワークでの取り組みもそうですが、ご自身で様々な工夫や対策を立てられている、というのも大きいかも知れません」

 なるほど、なるほど。

「1つ気になってたんですが、単純作業が極端に苦手、というのはどうなんでしょう?」
「それも臨床心理士の見解が書いていますので、よかったらページを捲ってみてください」

 そう言われて次のページへ進むと、確かに記載がありました。

「カバネさんの場合はかなり飽きっぽい性格なのかなと。同じことを繰り返すと、途端に集中力が下がる傾向があるように思います」
「せ、性格ですか……」
「微妙な所ですけどね。その人のパーソナリティに由来するのか、或いは障害による傾向なのかは判断の難しいところです」

 先生の言うことはよく分かります。
 障害と一口に言っても、その傾向は本当に様々。それは性格だったり、癖であったり、色々なモノが綯交ぜとなっているのだと思います。

「あとは、カバネさんのパフォーマンスが明確に下がるポイントがありました。情報処理の負荷が高まると、パフォーマンス自体も一気に落ちるように伺えます。誰しも少なからずそうなんですが、一度に大量の情報を与えられると、カバネさんは能力が落ちやすいと言いますか」

 ふむ、ふむ。

「全部を頭に入れようとせず、メモに整理するなどした方が良いかも知れません。その辺りも色々と工夫はあるかなと」

 その他、用紙には支援方針やバウムテストの結果、そして最後のまとめが記載されていました。

 職業については、言語能力や図形処理能力を生かした仕事に就ければベスト。
 バウムテストからは、もともと不安や緊張が高いタイプ。また、想像力や創造力を発揮したいという思いが強いとも。
 苦手分野で言うと、情報量が多くなるとワーキングメモリーが低下する傾向にある。なのでそこは要対策。もう少し細かい記載もありましたが、概要としてはこんな感じの検査結果でした。

「あくまで目安ですので、あまり数字には捉われないで下さいね」
「そうですね。ですが勉強になりました。主観と異なる部分というか、意外な部分もありましたので」
「また何か不明な点があれば仰ってください」
「はい、ありがとうございます」

 そんな感じで診察終わり。期せずして受けたセカンド・オピニオンとなりましたが、自分の傾向を掴む良い機会になったと思います。

 また、これは後で知ったのだけれど、病院によって検査結果の細かさも異なったり、当人に公表されないケースもあるそうです。結果はあくまで目安で1つの材料。僕とは逆に、数字のバラつきが大きいけれど発達障害として診断されない、そういった医師の判断もあるのだとか。

 結局、大切なのは『自分はどんな傾向があり、実際に何に困っているのか』を把握すること。そして対策すること。
 尾長先生も坂口先生も、仰ることは同じように思いました。


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