
ハルキゲニア/Chevon(ディスクレビュー)
かつての恋人や幼馴染に語りかけているようにも、一度も話したことはないけれど見かけるたびにどこか目で追ってしまっていた同級生に語りかけているようにも聴こえる。
空間的な音色のイントロからボーカルとギターにひとつひとつ楽器が重なっていくにつれて、具体的な今という時間から抽象的な思い出を振り返るかのように展開していき、脆い思い出を慎重に慎重に掘り起こしていく。
曲のほとんどの箇所で一音に一文字が当てられたメロディーの中に、まるで便箋にびっしりと文字が詰まった手紙のような焦燥感が見える。新しくなることはない、古くなるしかない時間の流れの中で、思い出が古くなっていってしまうことへの焦りや恐怖と、思い出を埋没させながら、連続する今と未来を生きていくのだろうという、漠然としてる割にいやに具体的な危機感がそのまま見えてくる。
みんなが旅立っていってしまってすこしがらんとした街は、街灯は、駅のホームは、学校の近くのコンビニは、自分の存在そのものでさえも、たしかにそこにあなたと心の奥深くで通じ合っていた事実があったことを証明する化石になっていってしまう。曲の終わりに添えられた学校のチャイムのメロディは果たして思い出のなかであなたと聴いていたものか、置いていかれた街でひとりで聴いているものか。
3月上旬に世に溢れる「卒業ソング」としてリリースされるのではなく、3月末に「被・卒業ソング」として、卒業されてしまった、置いていかれてしまったと感じた人々に寄り添うように世に出されたことに意味があるように感じる。
ハルキゲニア(学名:Hallucigenia)は、約5億年前のカンブリア紀の海に生息した葉足動物の一属。細長い脚と7対の発達した棘をもつ。カナダのバージェス動物群で見つかった Hallucigenia sparsa によって知られ、中国からも複数の種が発見されている。(中略)
学名「Hallucigenia」はラテン語: hallucinatio 「夢みごこち、夢想」による。
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※原則、新譜(直近1ヶ月以内リリース)の邦楽をメインにレビューしているのでご希望に沿えない場合もございますが予めご了承ください。
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