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パリを彷徨う
起きたら9時くらいだった。死ぬほど眠いが、パリの大学院に通う友達と約束があるのでなんとか外へ。メトロを使って約束の公園へ行く。昨日は全く余裕がなかったが、よくメトロの周りを見回すと、みんな荷物に手をかけたりと最低限の用心はしているが基本リラックスしている。置き引きやスリが多いと聞くが、こなれ感をだして油断さえしなければ大丈夫そうだ。
パリのメトロは向かいがけの2列のシート1セットと、1列のシートワンセットの3列6席がドアとドアの間にあり、それぞれのシートの裏側が補助椅子になっていて計12席が1セットである。補助椅子と言っても開いてしまうと普通の椅子と変わらず、しかも畳んでいるときはうまくもたれられるようになっている。またドアとドアの中間に3股に分岐したポールが立っておりちょうど掴めるようになっている。基本的には外側の扉のみが開くようなので立ち回りさえわかってしまえばとても快適だった。特に優先席のようなものは見当たらなかったが、ぼちぼちあたりで譲り合う光景が見られ、パリの人たちは基本的には優しいようだ。僕も空いた席に座らず無言でご老人に譲る、あのただ座らなかっただけか譲ったのか絶妙にわからない立ち回りをしたらMerciと言われた。嬉しい。
そのようなわけで無事に待ち合わせ場所へ。SIMがないので不安だったが無事に会うことができた。そこで1時間ほど雑談して解散。着いて1ヶ月もしないと思うが、もう生活を成り立たせながらハードな授業をこなしていてすごい。何もかもが高いが、それだけは異様に安いスーパーのバゲット(70円くらい)とほどほどに安いヨーグルトを買って食べる。ただ、黒の服に加えてシトラス味のヨーグルトがよっぽど美味しそうなのか、ずっと蜂につきまとまれて非常に大変だった。
その後しばらく歩いて解散。僕はそのまま観光地を歩いて巡ることにした。「歩くっていちばんコスパいい観光やからな」とその友達に言ったのは僕だったが、言ってみて本当にそうではないかという気がしてきた。というわけでトータルで3時間ほど歩いて、ルーブル美術館の表、エッフェル塔、凱旋門、シャンゼリゼ通りを見て回った。昨日はこれまた気づかなかったが、街並みがまさに写真で見たヨーロッパそのものだ。建物もそうだし、歩いている人も、ベンチも、街路樹でさえヨーロッパの雰囲気がする。凱旋門やエッフェル塔も感動はしたが、むしろ街の様子の方が印象には残っている。治安が悪い、怖いと思いながら歩いた昨晩の印象では、ちょっと汚くした日本、という感じだったが、今では全く見え方が違う。ただ、その辺のカフェに入るには最低でも2000円の出費は覚悟しないといけないとなると、ただヨーロッパぽさにテンションを上げてばかりもいられないのが辛い。
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観光地の周辺でかなり工事がされていて通れなかったり、若干雰囲気を損ねている部分があったのは残念だが、まあメインどころは満喫したかなというところでホステルに帰る。さすがに歩いて帰る元気もなく、疲労と時差ボケでかなりボロボロになったのでメトロを使った。
ホステルでは何か有意義な活動をしようと思ったが、レストランメニューは高すぎて食べる気にならず、結局ベッドに戻って横になったら5時にもなっていないのに寝てしまった。起きたら23時過ぎだったが、今度は周りのベッドの人たちが帰ってきて寝ている様子で、音を立てたり電気をつけるのが憚られたので2度寝3度寝としているうちに朝の7時半になってしまった。本来ならロンドンでの交換留学先の入学手続きをしたり、家を探したり、家が見つかるまでの宿を探したり、そもそもロンドンへの交通手段を探したりせねばならないのだが、それらができていないストレスが睡眠を加速させる。去年気づいたが、僕はストレスで睡眠時間が伸びるタイプのようだ。そのようなわけで14時間寝倒した僕は、チェックアウトまでの時間でなんとかロンドンへのチケットの予約と宿の予約だけを済ませた。
パリからロンドンへ行くには基本的にはフライトかユーロスター(新幹線)なのだが、フライトはスーツケースを持ち込むと荷物が倍額になり、ユーロスターは直前だと出費が3万に迫りそうだったので、2時間前後で到着するそれらの交通手段に対して、9時間かかるバスで行くことにした。値段は5000円弱。リーズナブルだが、前もって予約しておくとユーロスターも近い金額で乗れるようだ。チェックアウトが10時、バスが14時なのでゆっくり歩いて向かうことに。
街中をのんびり眺めながらバスターミナルへ向かう。途中の噴水の前のベンチでは時間を持て余していそうなご老人たちが和んでいて、日本と同じだなと思う。なんなら全世界多分同じなのだろう。日本と違ってコンクリにせよ歩道にせよ基本舗装が平らなのでとてもスーツケースを押しやすい。途中で「水道水を飲もう!」と書いている水汲み場があったので給水する。これがなかなかどうして、とても美味しい。
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しばらく歩き、とてつもなく小便臭いトンネルを抜けてバスターミナルへ。明らかに同じバスターミナルに向かっているおばちゃんになんとなく話しかけられ、なんとなく一緒に向かう。ドイツ人のそのおばさんはあまり英語が得意ではなく、僕はドイツ語は塵ほどもわからないので、ちょっとした英語とノリニケーション(ノリでなんとかするコミュニケーション)で喋る。おばさんはずっとバス停で待つ、マンデイだ、みたいなことを言うので、なんと、もう2日も待っているのか、いやどういう状況? 予約は? と、思っていたら、実は次の月曜日(四日後)のチケットを持っており、それまでホテルもないしバスターミナルで待つのだということ。いやどういう状況? なんでもパリには昨日の朝ついたらしい。 え、どゆこと? 友達に会いに来たが、友達が多忙すぎて会えなかったのだとか。 いやまじでどういう状況? というわけでパリに来て2日目から6日目までバスターミナルで過ごすらしい。ほんまにどういうことですか? 僕の理解合ってるよね?
でも本当に面白いおばちゃんで、ノリニケーションあるあるなのだが、なんとなくお互いの話の足並みが揃ってくるとなんとなく言いたいことがわかってくる。あとは細かい部分がわからないことを気にしないのが大事。そういうわけでたわいもない話をしながら時間を潰す。途中でスーパーマーケットに行きたくなったので誘うと、ここにいるし、だから荷物を見といてやるということ。安心して荷物を任せて買い物に行く。これで帰ってきて荷物もろともいなくなってたりしたらとても面白いが、絶対にそうならないことはもうすでに確信している。シェアのしやすさも考えて、生ハム、バケット、ミニピザ(合計700円くらい)を買う。物価はめちゃくちゃ高いが、ヨーロッパぽいものほど安い傾向にある。逆におにぎりなんかは1個500円くらいしてたまったものではない。
帰ってきてお礼を言い、シェアを打診するも丁重に断られる。好き嫌いするようなものを買ったとは思っていないし、「それは君のものだ」とか言うし、本当にいい人だ。食べて、たわいもない話をして、そのうちに僕のバスの時間が迫ってきたのでチェックインするためのカウンターに行ったのを、解散したと思ったのか戻るともう別の奥まった席におばさんは移動してしまっていた。なのでバスが来るギリギリまで待って、最後にさよならだけ言いに行く。さよならを言いにきたというと、嬉しそうな顔をしてくれて嬉しい。握手をして別れる。知り合えてよかった。
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バスに乗り込む。パスポートをチェックされる。もしパスポートを持っていない奴が紛れ込むと国境でややこしいのだろう。バスは座席自体はまあかなり快適だが、Wi-Fiが繋がるもののインターネットに繋がらない。Wi-Fiの大元が終わっているなと思う。バスのメンツはなかなか濃ゆい。一人旅をしている様子の女性から地雷系っぽい格好の青年、ワンピースのような服を着てかつらを被って紫色のノンフレーム眼鏡(目の部分だけ稲妻状に穴が空いている)をかけたいい人そうなおじさん、東洋系の若者、おばちゃん多数、ちょっとヒッピー風の人たち、なぜか弛んだお腹を出している格好のおじさん、などである。でも大半はいい人そうだ。要所でアドバイスをくれたり、目が合った時に笑いかけてくれたりする。地雷系ガイの読んでる本が黒の装丁の『地獄と死』でいかにもすぎておもしろい。
Wi-Fiが繋がらずちょっと落胆したものの、ぼーっとしたりうつらうつらしているうちに国境へたどり着いた。フランスの出国は瞬殺でクリアしたが、イギリスの国境は厳しいと言うし、実際にイギリス国籍っぽい人以外はみんなきっちり質問されているようである。僕は半年滞在にも関わらず宿が最初の3泊分しかないというかなりまずいな状況で資金証明も親の口座しかないので冷や汗タラタラだった(帰りのフライトは間に合わせでモロッコまで5000円のものを取っていた)。実際前のおばあさんは、英語をあまり理解しない様子だったが翻訳機を使って散々に質問攻めされた挙句、列に並んでた同郷の人を駆り出してさらに質問し(ここでボランティアで通訳を買って出た人はとてもいい人そうでイミグレの人たちからも感謝されていた)、それでも検査官が納得しないという散々な状況だった。
僕の番になったが、幸い係員は見た感じいちばん優しそうで、パスポートと入学証明書を見せただけで通してくれた。係の人は最初から笑顔で、会話の途中から行けそうな気はしていたものの、入学証明を出すときは緊張で手が震えてしまった。大学名を言うとlovelyと言ってくれ(lovelyはかなりカジュアルな肯定表現のようだ)、最後には専門を聞いてくれるなどすごくいい人だった。それでもここまで簡単に済んだのはおそらくこらまた日本のパスポートと、僕の留学先が(ケンブリッジやオックスフォードほどではないものの)相当名の知れた大学だったおかげだと思う。ありがたい。
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その後バスはフェリーに乗ってドーバー海峡を越える。我々はその間船室に上がる。のだが、なんとここで船内レストランの無料券が配られた。しかも、いざ頼んでみるとチキンにライスにドリンク(オーダーに失敗したがおそらく野菜も)が込みという、1日バケットをヨーグルトにつけて齧っていた身からすると神のような食事だった。なんでお得。まさに棚から牡丹餅。それに9時間のバス移動もそれほど苦ではないので結果的にベストチョイスだったように思う。しかも意図せず人生初の海路国境越えであり、ちょっとテンションが上がる。
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Wi-Fiがなくてやるべきこともやれず、かつ久しぶりにまとまった時間とちゃんとした机が揃ったので(後者が難しい)、船内ではnoteを書く。船室からの夕焼けが美しかった。
下船後はまたバスでの旅に戻る。といっても気がついたら寝てしまっていて、そのあとは寝たり起きたりしながらなんとかロンドンに辿り着いた。窓から見るロンドンは、この感想がわかる人はあまりいないと思うが、レゴの街そのものだった。映画そのものと言ってもいいと思うが、あまりイギリス映画を見ないので……。またあの赤の二階建てバスがこれでもかというくらい走っている。大阪や京都の市バスより走っている。いや夜の10時ですけど。交通機関は充実してそうだ。
下車して誰と挨拶を交わすこともなく、ただ心の中で名残惜しく思いながら9時間メイトたちと離れて歩き出す。ここも、パリほどではないがスーツケースが押しやすい。そして寒い。パリも寒かったがさらに寒い。日本はまだ暑いらしいから遠くに来てしまった感じがすごい。Wi-Fiもなく、睡眠も長く不規則でただ移動するだけの日々に加えて時差で計算がズレるからもう日付感覚も曜日感覚も失ってしまった。これからどうなるのだろう。期待と不安と思考停止が入り混じる。ろくに家を探すめども立っていない奴が来てしまった。イミグレよ、おれを止めておけよという気にすらなる。
宿までの道は500メートル足らずだったが、やはり怖い。知らない夜の街に、スーツケースという圧倒的ハンデを抱えてひとり放り出されるのはやはり心細い。治安が悪いわけではない地域を選んだが、何せ右も左も分からないのだ。後ろから若者が騒ぐ声が聞こえてきて不安になった。
ホステルは思ったよりオシャレで下にバーとレストランが付いていた。やってしまった。案の定、食べ物禁止でレストランを利用しろと書いてある。なんでやねん。ホステルに泊まる奴がポンドで飯食えると思うなよ。しばらく空腹との戦いを覚悟する。まあ土日挟むし、さすがにいくらか食べることにはなりそうだ。受付のお兄さんのブリティッシュイングリッシュが聞き取れず、軽く絶望する。まあ伸び代があるということだしよしとしよう。ブリティッシュを喋れるくらいになりたいなあ。
昔の日本家屋くらい急な階段を3階まで上がらされて、僕の部屋は12人部屋だった。すごくこれもイギリスっぽい内装な気がする。狭くて古くてオシャレ。3段ベットのいちばん上だった。ただでさえカーテンがないのでこれはラッキーだ。いちばん上は伸び伸びできるし物を取られたり覗かれたりする心配もあまりない。パリに着いたときほどではないが、疲れているのでおやすみなさい。