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vol.109 ショーロホフ「人間の運命」を読んで(米川正夫/漆原隆子訳)

1956年にソビエト連邦共産党機関紙に掲載された、ノーベル文学賞作家ミハイル・ショーロホフの作品。

タイトルにつられて初めて読んだ。

あらすじ
第二次世界大戦が終わって初めての春の日、幼い少年を連れたソ連のトラック運転手アンドレイ・ソコロフが、偶然出会った「私(著者)」に自身の戦争体験を物語る。戦争が始まると、彼は妻と3人の子供と別れ前線に向かう。戦いで負傷を負ってドイツ軍の捕虜となる。各地の収容所で強制労働を強いられなが過酷な生活を送る。やがて脱走に成功した彼は、ロシアに残っていた妻と娘2人は爆撃で死亡したことを知る。残る息子は昇進して将校となっていたが、終戦の朝、ドイツ狙撃兵に撃たれ戦死したことを知る。彼は、一人の戦争孤児に出会い、新たな人生に希望を持つ。ソコロフ自身も幼くして家族をみな失っていた。(あらすじおわり)

なんと過酷な体験なのだろう。「運命」ってなんだろう。二度にわたって家族を残らず失いながらも、不撓不屈にはい上がっていくソコロフの姿勢は、どこから来るのだろうか。戦争がそうさせたのだろうか。ロシア的な性格なのだろうか。

「戦争」という単語から僕は何を思い描くだろうか。

心を狂わす人間の醜さ、信じていた価値の破壊、喪失、絶望、狂気、焼け野原、死・・。

この小説からは、そんなやるせない言葉は浮かんでこなかった。

優しさ、たくましさ、信念、希望、絶望からの這い上がり・・。

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ロシア人アンドレイ・ソコロフのひととなりに、興味がいく。佐藤優さんのあとがきに、「ロシア人を知るために読んだらよい小説を一冊だけ紹介してください」と尋ねられると、この「人間の運命」を紹介するとあった。やはりそうなのか。もう一度めくってみる。

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戦争孤児を自分の息子として受け入れ、かつ孤独な夫婦に託そうとするソコロフに、柔軟さを感じた。彼の行動に、何か戦争で失われた普遍的な人間を取り戻そうとする強い意志を感じた。結果として絶望から幸福につなげていた。ソコロフと孤児と孤独な夫婦のつながりは、「運命」というよりも、互いをありったけの力で引き寄せる必然性を感じた。強い連帯精神もある。祖国への愛もある。運命に任せる覚悟もある。

ヘミングウェイの「日はまた昇る」にあった「失われた世代」を思い出す。時代は違うけれど、そこに登場した若者にはない魅力をソコロフに感じた。

ソ連共産党の機関紙に掲載されたこの小説、素直に受け取っていいのだろうかという思いもある。

ソコロフが受けた苦難な人生は、政治の影響を大きく受けていると思うけれど、そこへの批判は感じなかった。「スターリン賞」ももらっているショーロホフに政治的批判を期待してはいけないのかもしれない。

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国家としてのソ連の歴史を知れば、この小説、違う読み方ができそうだけれど、そこに費やす気力は今の僕にはない。

おわり

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