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【書評】「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない(三宅香帆)
こんにちは。ライターの吉岡です。
月曜日、週1書評です。
今回、ご紹介する本は
『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』三宅香帆(ディスカヴァ―携書)
です。
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この本どんな本?
文芸評論家の三宅香帆のさんが、推しの素晴らしさを語るために必要な考え方を記した本です。
2023年に出版された『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』を改題したもので、内容に変更はありません。
書評のスペシャリストである彼女は、生粋のオタクでもあります。
推しについて伝えたいけど伝え方がわからない、伝えたいのに伝わってない!そんな悩みを解消してくれる1冊です。
お気に入りPoint
想定読者は「推しについて語ったり、発信したいけどうまく言葉にできなくて悩んでいる人」なのですが、読んでみると、伝える相手がどれだけ推しのことを理解しているか(読者の知識レベルのすり合わせ)、あなたが伝えたいことは何か、それ以外のことを話に盛り込むと相手がついてこれなくなる(一記事に伝えることは一つだけ)、などライターの心得をぎゅっと凝縮して誰にでもわかる言葉で書いている、そんな内容です。
その中でも私がこの本ならではだと思った、考え方をご紹介します。
1.他人の言葉からの自衛
著者はあとがきでこのようにおっしゃっています。
誰かの言葉によって、自分の思考に影響を受けすぎてしまうこと。それがなによりも言葉の怖いところなんです。しかし、そのことが今は知られていなさすぎる。そして無防備なぐらいみんな影響を受けやすい。怖い。自分も含めて、ですけど。
(中略)
つまり、他人の言葉をナイフにしないために、自分の言葉をつくる必要があるのです。
(中略)
もちろん自分がナイフを使っている自覚も必要ですが、それと同時に、他人のナイフから自分を守ることのほうがよっぽど重要だと思うんですよね。
やっていきましょう。自分と他人の言葉をわけるんです。
そして自分の身を守りましょう。言葉はけっこう、危険なものです。
三宅香帆
私の場合、ライター業で取り扱うのはまだSEOがすべてですが、SEO記事を執筆する場合、競合記事を確認します。しかし、見出しはしっかり見るものの、文章の細部まで確認しません。それは、全部じっくり読んでいたらいくら時間があっても足りない、という側面もありますが、それよりもその記事の言葉に、自分の執筆内容が引っ張られてしまうからです。
人間は意図せず言葉に引っ張られます。特にSNS全盛の現代において、あふれ返った言葉を見ず知らずのうちに受け取り、影響される。自分の言葉を持てば、人の言葉で不必要に傷つくこともない。それが現代において大事なのだと著者はおっしゃいます。
2.「やばい」の肯定
好きなものに対しての感想が「やばい」しか出てこない!
題名にある通りですが、この経験は誰しもありますよね。「やばい」じゃなくとも、「すごい」とか「きれい」とか「楽しい」とか。すごく素敵だと思ったのに、ありふれた言葉しかでてこない。こんな言葉では推しの魅力は語り切れないし、相手に伝わらない、自分が書く意味なんてないんじゃないか……。そう思ってしまいますよね。
著者は「やばい」だって立派な感想だ、と言います。清少納言の『枕草子』だって、「いとおかし(=やばい)」ばかりだ、と。それでも『枕草子』が人気なのは、なぜ「いとおかし」なのか、清少納言自身の言葉で綴られているからです。
重要なのは、なぜ、あなたがそれを「やばい」と感じたか。「やばい」と感じた理由を深堀することで、感想には独自性が生まれます。また、「やばい」と感じる理由が、あなたの経験に基づくものだとしたら、もう絶対だれともかぶらない感想が書けます。原体験の重要性をやわらかい言葉で教えてくれるところが、すごく素敵だと感じました。
こんな人に読んでほしい!
自分の「好き」を言語化したい人へ。
SNSで他人の推し活を見るのが大好きな人へ。
推し活でなくても、自分の文章を書きたい人へ。
まとめ
この本は書店で平積みにされ、大きなポップとともに宣伝されていました。
この本に需要があるということは、文章を書きたい人がたくさんいるということ。”国民総ライター時代”と言ってもいいのでは?と思います。(ひょっとすると”全人類ライター時代”なのかもしれない。)
書きたい人は基本的に読みたい人でもあります。(今この記事を読んでいるあなたはきっと読みたいし、書きたい人、ですよね?笑)
ということは、読みたい人が世の中あふれている、ともとれるわけです。そう考えるとライターという職業の未来は、まだまだ明るいなと感じました。
自分の好きなことで文章を書くことに躊躇している方、ぜひこの本を読んで一歩踏み出してみてください。