自分の思い出の中にいる高木さん〜「からかい上手の高木さん」を見て

「からかい上手の高木さん」の映画版が公開され、早速見に行ってきた。
映画では直前まで放送していたドラマ版やアニメ版の10年後を描いている。相変わらず恋愛感情が鈍い西片と気持ちを素直な形で言い表せない高木さんの純粋な恋物語がようやく前進して安堵した。
一方、ドラマ版ではまだまだ幼い中学生時代の二人が描かれており、それが自分の一時代と重なりある思い出を呼び覚ましてくれた。


中学2年の時、わりと仲が良く、何かとちょっかいを出してきたり、時には優しくしてくれる女の子がいた。

放課後、とくに急いで帰る必要もない時は、彼女の仲良しグループと自分の友達グループとで話をしたり、理由は覚えていないがいつの間にか校舎内で追いかけっこになって女子どもがトイレに逃げ隠れる、などといった感じで下校ギリギリまで戯れていた。
ただ家の方向がバラバラだったので、高木さんと西片のように一緒に帰ることは無かった。

ある時は、いつものおふざけの最中にたまたま彼女のスカートに手が掛かり翻してしまい、彼女が顔を両手で押さえて膝を抱えて泣き出してしまった。偶然の出来事でただオロオロしてしまうばかり。横で立ちすくんでいるといきなり顔を上げて、単なる泣き真似だった。
などという具合で、結局からかわれていたわけだ。

特に思い出に残っているのが、体育祭。クラスごとに色違いのまちまきを一人ずつ持っていたが、それをネクタイに見立てて首に巻いてくれた。ネクタイを巻いてくれている目の前には彼女の髪があり、その距離感に緊張しつつ内心とても幸せな気分だった。

そんな日々を繰り返しているうちに、そんな彼女のことを特別意識するようになった。

女の子から初めて年賀状をもらったのも彼女からだった。
干支のへびのスタンプのまわりにはいろいろな落書きや茶化すような言葉が散りばめられていて、それが気を引くためなのか単なる落書きか判断がつかなかった。もしかして好意を持たれている?それとも自意識過剰?たんなるおふざけ?「からかい上手の高木さん」の西片と同じように自己問答を繰り返していた。

冬休みが終わり三学期、学年最後の席替えがあった。
教室の席は毎回、男子が左、女子が右に机をつけて、4列に並べるというのがルールだったが、その最後の席替えではさらに、男子だけが教室に入り自分の席を選んだあと、交代して女子が同じように席を選ぶという方式がとられた。
自分は友達と縦に並ぶように、後ろから二番目の席を選んだ。すると、その様子を廊下にいる女子たちが窓越しに見ているではないか。果たして…
彼女は見事に自分の右隣の席に居た。その前後はやはり彼女の仲良しグループ。今までにも通路を挟んでとか斜めの席になったことはあったが、すぐ隣になったのは初めてだった。状況から考えてこの横並びは確信犯!?お前らズルして廊下から見ていたろぉ、ああ面倒くさいヤツが隣になったななど悪態をつきながら、これから残りの三ヶ月間の楽しみでいっぱいだった。

期待通り、文房具の貸し借りに始まり、授業中教科書やノートに落書きされたり、またちょっかいを出されたり。まるで高木さんと西片が過ごしていたような時間。学校に行くのが楽しかった。

二月に友達の地区の子供会が主催するスケート教室に行った。彼女らのグループも誘ってみようよと言ったのだが、面倒だからと他の友達に却下された。もし一緒に行けていたらとても良い思い出になっていたに違いない。

三月に入り完全に彼女を好きになっていた。一緒のクラスでいられるのあとわずかだと思うと気持ちは焦るばかり。意を決して思いを伝えようと頭の中では考えるが、彼女が仲良しグループから離れて一人でいる時間を見つけることができなかったり(単なる言い訳)、告白する勇気を振り絞れないまま何も行動に移せずとうとう終業式も終わってしまった。

3年生は別のクラスになり、教室の建屋まで離れ離れになった。初めの頃は何も用事がないのに彼女の教室の前を何気なく通りかかり、廊下で彼女を見かけると嬉しくなった。けれどそんなこともだんだんしなくなり、ほとんど顔を見る機会もないまま中学を卒業した。

卒業後、彼女は女子高に入った。一度だけターミナル駅で高校の制服を着た彼女らしき姿を見かけたことがあったが、それが彼女の思い出の最後だ。


映画の中で不登校だった生徒の町田から「好きな気持ちを伝えなくてもいいのか」と問われた高木さんが、セリフは曖昧ながらこんな答え方をしていた。
「西片にはもう何百回も好きと伝えているのにね」
実際中学時代の二人の会話で、西片にからかいも含めて「好き」という言葉を高木さんが口にした回数はきっとそんなに多くない。高木さんにとって西片へのからかい一回一回が「好き」を表現していたという意味だったのだろう。
そう考えると彼女も自分に対する態度も「好き」の裏表現だったと自分に都合の良いように考えていいのかなと思えてくる。想い出は温かい。

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