方程式を解かないで済む方法
「ビブンホーテーシキ」
数学アレルギーでなくとも、理系科目で頭を悩ませる人が多いのではないでしょうか。
何故これが難しく思えるのかと言えば、
「まず解くところから入って挫折するから」
だと思います。
中学で出てくる「方程式」で、数学が嫌いになってしまうのも、同じく
「まず解くところから入るから」
ではないかと思います。パズルが好きな人は、解くのが面白いかもしれませんが、そうでなければ
「何のために、何をしているのかわからない」
のだと思います。
●方程式は「解くこと」より「立てること」が大事
方程式は、何のために立てるのでしょうか?それは、
「値を求めるため」
です。
卑近な例ですが、
「500円で20円(税込み)のお菓子がいくつ買えるか?」
というのを知りたければ、「x個」と
「わからない数をx」
としてしまうと、
20円 × x個 = 500円
という方程式を立てて、
「"="の左右で同じ演算をしてもそのバランスが変わらない」
から、両辺を20で割って
x = 500/20 = 25個
と求まります。
この過程で、
20x = 500
という方程式を立てることが出来れば、あとは機械的に計算をして、欲しい値が求まります。
●方程式に解が存在するかが問題
さすがに上の例は、少し進んだ勉強をしていれば小学生でも解けるようなものですが、現実の方程式はもっと複雑です。
中学では、2次方程式が出てきますね。
ax^2 + bx + c = 0
というやつです。これは、「解の公式」というのがあって、
x = {-b ±√(b^2 -4ac)}/(2a)
というのを暗記して嫌になった人も多いのではないでしょうか。
そして、よく覚えている人は、「解が無い」という状態もあったのを知っていると思います。つまり、
b^2 -4ac
という
「"√"(ルート)の中身がマイナス」
だと、
実数の範囲では解けない
事になります。
一般に、
二次以上の方程式は、実数の解が得られない方程式になる方が普通
です。
そして、「解の公式」は四次方程式(x^4 が出てくる方程式)までは存在して手計算でも解くことが出来ますが、
「五次以上になると解の公式が存在しない」
という事が、ガロアという数学者によって証明されています。
つまり、本来の興味としては、
「方程式をどう解くか」
という事よりも、方程式を立てた上で、
「立てた方程式が解けるかどうか」
または、
「解けるように方程式を立てるにはどうするか」
という事になります。
それが、いわゆる
「数学モデルを作る」
ということで、これができて初めて、現実の事象を数学的に考えることが出来るようになるのです。
しかし、いきなりこの話から入るのは、中学生ではハードルが高いので、
「まずは方程式がどういうものかを知ってもらう」
ということで、解くことから始めているわけです。
●文字式で躓く人が多い
しかし、方程式を解くにはまず、「文字式」から理解しないといけません。
「数学が苦手」という人は、この文字式でどうやら躓いてるようで、
「文字が出てくるとわからなくなる」
と言うのをよく聞きます。
何故か考えてみると、特に物理ではいろいろな文字が出てきます。
まず「単位」です。
kg(質量),m(長さ),s(秒),K(温度),A(電流),mol(物質量),cd(光度)
と、SI基本単位と呼ばれるものだけでもこれだけ覚える必要があります。
そして、物理量の記号です。
ℓ(長さ),m(質量),t(時間),T(温度),i(電流),F(力),V(電圧),v(速度),α(加速度),θ(角度)
などなど。これらは英語の頭文字になっている事が多いのですが、ギリシア文字なんかも入ってきたりします。
さらに、関数があります。
sin,cos,tan,log
など。
その上、
「未知数を"x"」
とか、
「係数を"k"」
とか、
「関数をf(t)」
とか言うわけです。
こう考えると、数学とか物理も結構暗記が必要ですね。そして、文字を意味付けしていかないといけないので、語学と同じようなセンスが問われる面もありそうです。
方程式を解くどころか、文字式の計算自体、苦手意識がある人にとってはかなりハードルが高いのかもしれません。
何でこんな文字を使うのかというと、
「数字で書くと、数値の大きさ以上の意味が表せない」
からです。
例えば、「オームの法則」というのがあります。これを言葉で表現すると、
「抵抗を流れる電流は、抵抗の両端の電圧に比例し、抵抗の大きさに反比例する」
という事になりますが、例えば
「10Ωの抵抗に、5Vの電圧を掛けたとき、どれだけ電流が流れるか」
を知りたいとします。そのとき、先程の言葉から
5V / 10Ω = 0.5A
という計算が、すんなりと思いつく人はそれほどいないでしょう。
しかし、いきなりこれを数字で
5V = 0.5A × 10Ω
と表されても、確かに計算が合っている事はわかります。
ではこれから
「電圧を2倍に変えたとき、抵抗をどうすれば、同じ大きさの電流が流れるか」
など、変化を考えたり、違う値を計算で求めたりする方法が、考えにくいでしょう。
だから、物理の上で意味のある文字を使って、
V[V] = I[A] × R[Ω]
と表現しておけば、対応する文字に数値を当てはめることで、計算方法を示す事ができるわけです。
そして、方程式においても、求めたい数値を文字で置いて、とりあえず成立する式を立てることが出来ます。
●方程式が解けるかどうかを調べる
だいぶ話が逸れてしまいました。
とりあえず、方程式というのは
「現実の現象を、解ける方程式を立てて数学モデルを示す」
のが大事という話でした。そして、学校で習う方程式は、解けるものばかりですが(解かせるのが目的だから)、
「一般の方程式は、解が存在するかどうかわからない」
のです。
だから、数学が進んでくると、「解の存在条件」など小難しい理論が出てくるわけです。何故なら、何日も時間をかけて、
「立てた方程式を解いてみたけど、解が存在しなかったー」
といって、方程式を立て直すという苦労をしたくないからです。
そのために、
「いかに方程式を解かずして、解が存在するかどうか判定するか」
という事で、いろいろな定理が発明されたわけです。
●微分方程式はもっと解けない
これまでの話は、まだ「数値そのもの」を求める方程式の話なので、まだ分かりやすいものでした。しかし、関数を求める「微分方程式」は、もっと話がややこしくなります。
まず、
「数値そのものではなく、数値に対する演算をする関数を求める方程式」
である事。そして、
「変数の数、微分の回数(階数)、線形・非線形の別(単純な比例か、2乗や3乗に比例かなど)」
という色々な要素があります。
それだけ種類があるので、
「手計算で(解析的に)解けないものの方が圧倒的に多い」
事は想像できるかと思います。
だから、解けるモデルに近似するのも一苦労ですし、そもそも近似が大きく外れてしまうケースの方が多いわけです。
●定性的に結果がどうなるか知りたい
微分方程式の大半は、
「時間や空間内の位置に対して、値がどう変化するか」
という事が知りたくて、方程式を立てます。そして、
「解として出てきた関数が、知りたい変化を表している」
ことになるのですが、厳密に解けなくても、
「振動的になるのか」
「ただ大きくなっていくのか」
「ある値に近づいていくのか」
という事が、ざっくりと分かれば十分な場合も多々あります。
そのために、「特性方程式」の解で判別したり、特に制御工学の分野では、ラプラス変換した伝達関数から「最終値」を求めたり、係数から判別したりする方法が取られます。
これらはどれも、
「いかにして微分方程式を解かずに、そこから欲しい情報を得るか」
という工夫なのです。
最近は、コンピュータも高性能化したので、数値シミュレーションによって、微分方程式から値の時間変化や空間分布が簡単に求まるようになりましたが、これも微分方程式を数値的に解いている事になります。
●みんな苦労している
これらを考えると、方程式を解くことに、先人たちがいかに苦労してきたかが感じられます。そして、それを踏まえて制御工学や信号処理などを勉強すると、色々出てくる定理が、
「結局何を求めるためのものなのか」
がよく分かります。
次回は、ラプラス変換と古典制御について、考えてみたいと思います。