ベクトルが矢印とは限らない

 どうも、NASAに開発されていそうな白井です。

 さて、今回からベクトルとテンソルの話です。

 テンソルの概念は、材料力学で初めて知りました。

 「応力テンソル」

と言われても初めは全然ピンと来ずに、

「ベクトルと何が違うんだろう」

「何で行列と言わずにテンソルと言うんだろう」

と、疑問が渦巻いていろいろ調べているうちに、相対性理論でもテンソルが出てくることを知り、ますます訳が分からなくなった経験があります。

 なので、その辺の話を整理したものを共有したいと思います。

 テンソルを理解するには、まずはベクトルの基本を押さえる必要があるので、ベクトルの基本的な話からです。

●ベクトルの一般化

 高校でベクトルが出てきたときは、

「方向を持った量」

と定義したと思います。しかし、これは

「方向」というものが定義できる空間

を前提としているのであって、その空間とは何かと言うと、

「ユークリッド空間」に他ならない

わけです。

 実は、数学で「空間」というのは、

「ある集合が作り出す広がり」

くらいの意味しかなく、

「方向」はおろか「大きさ」さえも定義されている保証はない

のです。線形代数の教科書を見てみても、ベクトルが「方向を持つ」なんていう定義はされてなくて、

「線形空間の元(要素)」

として定義されているのです。簡単に言うと、スカラー"a, b"、ベクトル"x, y"に対して、

(a+b)(x+y) = ax + bx + ay + by

といったようなことができる空間を「線形空間」と言って、その元で、

ある"x, y"という「ベクトル」を定義

しているわけです。(ほんとはもっといろいろな決まりがあって、

「和とスカラー倍の公理」

と呼ばれます。)

 上の計算を見て、

「なんだ、当たり前のことじゃないか」

と思う人もいるかもしれません。それは我々の今まで行ってきた計算が、

これが当たり前に思えるくらい、「線形性」を前提とする

ものばかりに過ぎないからです。

 しかしこれだけでは、われわれが「ベクトル」を捕らえる手がかりが何もありません。そこで、

「空間の性質」として「向き」や「大きさ」を定義する

のです。(その定義の仕方は、詳しくは

私の「数理メモ」「内積」のページ

を見てみてください。とっても見にくくてお勧めです。)

 それだけベクトルというものの概念は、抽象的であるのです。つまりベクトルというのは、いわば

「2つ以上のカテゴリの情報を持つもの」

であり、

図形的には「向き」と「大きさ」

が定義できるものとなります。

 次回は、ベクトルの表示方法の違いについて考えてみます。

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