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AIエージェント時代のシステム設計: Hosport編

2025年はAIエージェントの年と言われています。様々な業界でAIの活用が進む中、この記事ではホテル業界におけるいちはやいAIエージェントの活用についてご紹介します。


人手不足と多言語対応に悩むホテル業界

ホテル業界は人手不足と多言語対応という二つの課題に直面しています。労働力人口の減少による働き手の不足で、各地の旅館やホテルはこのままでは繁忙期などのシーズンに満足な質のサービスを提供できなくなることも予想されます。一方、増加する外国人観光客に対応するため、多言語でのコミュニケーションの必要性が急速に増していますが、その人材獲得も難航しています。

Hosport: 自然で丁寧な接客をできるAIコンシェルジュ

これらの課題解決のため、私たちHosportではホテル業界向けに多言語で丁寧な接客をできるAIコンシェルジュを開発し、対応に追われがちなノンコア業務をAIに任せ、ホテルスタッフがコア業務に注力できる環境作りを目指します。

AIによるノンコア業務の自動化

ホテルの業務には、フロント業務やマーケティング業務などのコア業務以外にも、様々なノンコア業務が発生します。例えば、

  • 電話やメールでの問い合せ対応

  • 外国語への翻訳作業

  • 理不尽なクレーム対応

  • その他の緊急性のない顧客対応

などです。これらのノンコア業務をまるっとAIに任せることができれば、とても楽になることは間違いないでしょう。もちろん、それらをおいそれと単純にAIに任せて解決というわけにはいきません。

そこでHosportでは、ノンコア業務をAIで自動化するためのロードマップを構築し、一歩ずつ自動化を推進しています。

ノンコア業務のAI化のロードマップ

私たちHosportのAI開発チームは、ノンコア業務のAI化を5つのレベルに分けて整理し、AI技術の進歩に合わせてシステムを拡張し、レベルアップを図っています。

図1. ノンコア業務のAI化のロードマップ

AIエージェント時代の到来

最近のAIの進歩で、ロードマップLevel 3のノンコア業務の部分的自動化までは比較的スムーズにできることがわかっています。例えば、多言語を含めたチャットでの問い合せ対応や、電話でのタクシー予約の代行などの、よく定義された個別の業務は、ChatGPTなClaudeなどの強力なLLMを用いれば実現可能です。

しかし、それ以上にAIに自律的に計画して判断すること求めるようなケースになると、もう一歩技術革新が必要です。そこで、OpenAI CEOのサム・アルトマンは、AIを自律的に行動可能にするための技術的なブレークスルーをすでに準備しており、その到来は早ければ2025年だと言われています。

AIエージェント: 自から計画、判断して自律的に行動可能できるAI

自から計画、判断して自律的に行動可能できるAIは、AIエージェントと呼ばれます。AIエージェントは、例えば利用者が「東京から札幌に旅行に行きたい」と言うと、最適な旅行日程の提示や観光地の選定、飛行機や宿の手配までを、人が細かく指示することなくまるで専属アシスタントのように行ってくれるようなAIです。

これが登場すると、AIは単なる問い合せ対応だけでなく、予約の変更や現地での旅行ツアーの手配など、より利用者に寄り添ったきめ細やかな対応が可能になります。私たちは、そのようなAIエージェントが到来する未来を視野に入れ、全体のシステム設計を行っています。

HosportのAIエージェントの設計コンセプト

Hosportでは、宿泊者様(ゲスト)からのお問い合せの一部をAIで回答しています。現在は、AirbnbやBooking.comなどの予約サイトやホテル・旅館のwebサイト、LINEなどのメッセージングアプリや電話などを経由して寄せられるお問い合わせを問い合せ管理システムが集約し、その結果を顧客対応AIエージェントが受け取り、返信文を作成しています。

AIで完結しないケースへの対応

残念ながら、今のところAIでの返答で全てが完結するわけではありません。特に、ゲストとのメッセージのやり取りの際、返信に対して正確な情報が求められる場合や、内容の難易度的にAIでの自動返信が難しいような場合があります。そのような場合には、AIエージェントがそれを検知してスタッフにエスカレーションし、スタッフが人手で対応していきます。

図2. Hosportのお問い合せ対応の仕組み

エスカレーション以外にも、お問い合せの内容によっては特殊対応が必要な場合があります。例えば、外国語での問い合わせなどがそのケースです。外国語対応のケースでは、質問に答える前に一度日本語に翻訳し、日本語で記載された学習情報を参照しながら回答を作成し、再度元の言語に翻訳し直して返答します。

ワークフローの利用と整備、および質問対応の学習

これらの特殊対応を汎用的にできるように、顧客対応AIエージェントは内部に様々なワークフロー(WF)を備え、一つ一つのワークフローをAIエージェントがツールとして利用することで、特殊対応が必要なケースに適応しています。

図3. ワークフローを利用する顧客対応AIエージェント

また、履歴の中からAIが答えられずスタッフが回答した質問を抽出し、質問対応用のデータとして蓄積するための学習ワークフローも備えており、これによりAIエージェントが対応できる質問の幅を拡充しています。

同時に、履歴から特殊対応が必要になるものを発見し、都度ワークフローを整備していくような、Level 4の自律的システム拡張の仕組みも現在開発しています。この仕組みができれば、対応履歴からAIエージェントが自動的にワークフローを構築し、それを用いて時には外部のシステムと連携しながら複雑な問い合わせ対応をすることが可能になります。そして、AIエージェントの対応領域がさらに広がっていくことになります。

図4. 自動学習とWF整備によるAIエージェントの対応範囲の拡大

対応領域拡張によるノンコア業務自動化計画

このように、現在のAIエージェントでは完全な質問対応はできないとしながらも、

  • スタッフの接客内容を学習し、AIエージェントの対応領域を徐々に増やしていく

  • 特殊対応が必要な業務もワークフローとして整備していくことで、自律的に対応領域を拡大していく

を地道に続けることで、AIエージェントが対応可能な範囲を徐々に人間のスタッフに近づけていくという試みを行っています。私たちは、Level 5のノンコア業務の完全自動化に向けて、ロードマップの内容を一歩一歩進めてまいります。

図5. Level 5のノンコア業務の完全自動化に向けた概念図。学習による対応領域の拡大とWF整備による対応領域の拡大で、AIエージェント対応領域を拡張。

ホスピタリティとの両立の難しさ

私たちは、今後さらにAI技術が進歩していくことで、AIエージェントの接客がホテルや旅館のスタッフが行うようなより自然で丁寧な接客に近づいていくと考えています。ただ、私たちはHosportでの試行錯誤を通じて、あらためてAIの接客でできることと一流のスタッフの丁寧な接客との間に大きな壁を感じているのも事実です。癒しを求めるホテルや旅館の空間では、やはりスタッフの良質な接客を体験してもらいたい、そんな想いもあります。

この取り組みを通じて、改めてAI技術を実際の現場へと取り入れることの難しさを実感しました。人の温かみをちゃんと残しつつも、AIの力を賢く取り入れることが良いAI導入の鍵だと考えています。テクノロジーと人間らしさのバランスを慎重に探りながら、Hosportでは未来のおもてなしの形を模索し続けます。

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