【読書効果本】(1) 読書研究は隆盛し,読書は存在意義を問われている
ついに本日,新刊『読書効果の科学 読書の“穏やかな”力を活かす3原則』が発売となりました!(25/1/17追記:おかげさまで,★2刷★となりました!)
試し読みもできますので,ぜひ。
せっかくなので,本の紹介記事をいくつか書こうと思います。
読書研究は隆盛の時を迎えている
上記の京都大学学術出版会さんのホームページにはこのような「内容」として紹介されています。
本書のテーマは大きく2つあります。1つは「科学的な読書効果研究の知見整理」で,もう1つは「読書は教育(社会)の中で生き残れるのか」です。
読書の研究はきわめて学際的です。心理学,医学,社会学,国語学,教育学,言語学,情報学……どこか1つの学問分野で読書研究が主役となった,ということは過去ありません。
しかし,それぞれの分野で1970年代から少しずつ研究が積み上げられてきていて,それがここ10年で加速,論文数は激増しました。たぶん,ちょっとしたホットトピックになっていると思います。
喜ばしい反面,読書研究の全体を見通すことは困難になってきました。私の知る限り,科学的な読書効果研究を整理・出版したのは,海外のものを含めても20~30年前まで遡らないと見つかりません。
「読書」は存在意義を問われている
一方で,本書でも引用したKatoらの2021年の研究論文[1]には,
とあります。これは私の肌感覚でも大きく頷くところです。気軽に映像メディアが作れて,メタバースやVRを通した発話中心のコミュニケーションも広まってきた現代,「長い文章を読む」ことは確実に若年層の重荷(というよりも,違和感)になっています。
ある程度は自由にメディアを選択できる大学生はともかく,児童・生徒は,教師から読書を強制されている状態です。教師だって,読書が嫌いな教師は,児童に勧めたくもない読書を勧めることになります。この状態を長く放置し,児童・生徒やその保護者,そして教師らの不満が募れば,社会全体として「教育に,古いメディアである読書は不要です」となりかねません。
いま書かないと,もう書くタイミングはない
せっかく読書研究が隆盛の時期を迎えて,読書はどのように有益であり,どんな条件下でその効果を発揮し得るのか,多くのことが分かってきたのに,現状では,そうした知見のほとんどは英語で書かれた学術論文に掲載されたまま,日本国内には普及していません。
この状況から生まれる最大の不幸は「読書には教育に残す大きな意義があるのに,そのことが知られないまま,社会(教育)から読書が消滅してしまう」ということです。
先ほど「(読書研究が)ちょっとしたホットトピックになっている」と書きましたが,これがいつまでも続くと思うほど私は楽天的ではありません。すぐに下火になるでしょう。
そこでいま,この機を逃さずに,本書を出版する必要があると考えました。2023年夏から2024年の春にかけて,私なりに急ピッチで本書は書かれました。
やっぱり,なんでも試してみるものだ
……というふうに書くと,使命感に燃えて書いたようですが,もちろんそんなことはありません。
# いや,「無い」というほど無いことも正直ないのですが笑
私の研究分野が読書であったこと,研究者キャリアが一息ついて,これからどのように仕事を進めていくか考える時期に来ていたこと,一人娘💓(可愛い!)が生まれていたこと,自分に書けるものなのか試してみたかったこと,学者とか研究者って一体なんだろうと思い始めていたこと,などなど,様々な理由があります。
少なくとも,書けたことは書けましたね。そして,「書くことが結構楽しい」という感触も得ました。昔から文章を書くことは好きでしたが,これだけ長い文章を,長い期間,コンスタントに書いたことはありませんでした。それでもさほど苦に思わず書けたことは,自分でも意外でした。それでこんなnoteなども始めてみる気になったわけで。
やっぱり,なんでも試してみるものだなぁと思います。
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続く。長くなってしまった。なるべく短く,次回で終わらせます。
引用文献
Kato, M., & Nagira, A. (2021). The impact of subject-specific competencies and reading habits on the income of Japanese business and economics graduates. International Journal of Educational Development, 81, 102346.