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狭き門 —幸福からの逃亡—

『狭き門より入れ、滅びにいたる門は大きく、その路は広く、之より入る者おほし。生命にいたる門は狭く、その路は狭く、之を見出す者すくなし』

 アンドレ・ジッドの代表作、狭き門の感想です。

 主人公のジェロームには、二つ年上の従姉妹アリサがいる。ジェロームは十二歳くらいのときにアリサに出会い、幼い弟妹の中で唯一母親の不倫を理解し、涙を流すアリサの姿を見る。状況はよく理解できないまでも、ジェロームはアリサを守ろうと決意し、次第に彼女との結婚を望むようになる。けれどもアリサの方は、何故かジェロームを遠ざけるような行動を取り——というのがあらすじかな?

 この本を初めて読んだのは高校生のときで、当時あまり恋愛感情を理解できなかったこともあり、割とアリサに共感できたような気がします。彼女は恋よりも宗教に殉じることに、自分の幸せを見出したんだろうなと。そういうこともあるよねと。一途にアリサを想うジェロームの方にもかなり共感できて、本当にかわいそう…と同情してしまいました。
 前半ジェローム視点、後半アリサ視点での答え合わせ(?)があること、手紙のやり取りを中心にした構成が自分にとっては読みやすく、子供の頃かなり印象に残った、思い出の一冊です。

 ところが、大人になって読み直してみると、だいぶ印象が違っていて…。

 まず、ジェロームはアリサに恋をしているようで、実はちょっと違うんじゃないかと感じました。彼は自分の中の『清く正しいこと』の象徴として、アリサを見ているような気がします。ジェロームはずっと、アリサを手に入れ幸せにしたいというより、禁欲的で勤勉な行動をして、アリサに肯定されたい、というムーブをしてますよね。
 アリサを愛しているのは間違いないと思うんだけど、ちょっと神聖視しすぎてて彼女を理解できていなかったのでしょう。だから、後半のアリサの日記の内容と、前半のジェロームの心情がズレまくってるんだろうなと。

 逆にアリサの方は、けっこうはっきりとジェロームに恋愛感情を抱いていたんだろうなと思いました。でも、敬虔なキリスト教徒の彼女の中で、母親の不倫がかなりトラウマになっていて、『恋愛=堕落』という印象が強かったのでしょう。しかも、妹のジュリエットがジェロームに恋をしてるのを知っていたから、余計に自分の恋を悪だと思ったんじゃないかな?妹の想い人を奪う行為に、何となく不倫女の母との類似性を感じてしまうというか…。そして、こういう葛藤を、自分を神聖視しているジェロームには見せられなかった。
 結果、アリサは宗教に逃げたんだと思います。貧しい人に尽くして、聖職者のように生きることの方に自分の幸せを見出したというよりは、辛さに耐えかねて逃亡したように見えました。
 アリサは普通にジェロームと結婚した方が幸せになれたと思うし、ジュリエットも他の人も、最終的にはそれを祝福してくれたと思うんですけど、彼女の内面の恐怖がデカすぎて、それができなかった。

 高校生のときと読後感はだいぶ変わりましたが、ずしっとくる悲恋だなという印象はそのままに、やはり素晴らしい作品でした。

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