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【フリー台本】恋焦がれ、熱焦がれ(0:1)
一人芝居用台本です。舞台を想定して書いたものではありますが、朗読劇として活用できるようにしています。
時間:10〜15分程度
人数:1〜3人(基本は1人)
女 2人
男 1人
ジャンル:現代、ファンタジー、恋愛、独白
もし上演していただける場合は、Twitterにてご連絡いただけますと嬉しいです。
蛇園かのん(@sngk_n)
また、クレジット表記は必須とさせていただきます。
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1幕
舞台中央、女が1人立っている。
スポットライトが女を照らしている。
女(N): 私の好きな人の話をしたいと思う
私の好きな人の話をしようと思う
私の好きな人の…
舞台へ明かりが灯り、カフェの店内が現れる。
女、カフェ内の仕事をしながら、窓際に置かれた席を時折眺める。
窓際の席には、カフェの装飾のためにか、陶器の人形が一体置いてあり、窓の外を向いている。
他の席やカウンターにも、カフェの装飾ためか花や置物が置いてある。
女(N): 私が恋をしたカレは、私が働いてるカフェにいつもいて、とても堅物で、無口で、無愛想で、そして日がな一日、陽に照らされている。
女(N): そんなカレの横顔が好きで、初めはそっと離れたところから眺めていた。
女(N): なんて不思議なヒトだろうと小首を傾げて眺めたこともあった。
女(N): けれど、だんだんとそんな彼から目が離せなくなっていって、眺めるだけでは物足りなくなっていった。
女(N): ただそこにあるだけのカレが、ただそこにあるだけではなくなって、私の日常にとって必要なものになっていった。
女(N): 初めて言葉を交わしたのは、出会ってから実に3ヶ月は経った雨の日のことだったと思う。
BGM:カフェ
SE:雨音
女、窓際のテーブルの側に立ち、外を眺めている。
女:「雨ですね」
女(N): 小さく声をかけてみた。返事はない。
女(N): 聞こえなかったのか、独り言だと思われたのか、カレは私を無視して雨の当たる窓ガラスをただジッと見つめているだけだった。
女:「雨、好きなんですか?」
女(N): 今度はしっかりと声をかけた。無視されたままではさっきの言葉があまりにも、恥ずかしかったからだ。
女(N): カレは窓ガラスを見つめて、そうして、瞬きをした、気がした。
女(N): それは肯定ともとれたし、私の言葉を無視した結果の行動ともとれた。
女(N): だから私は、それを肯定とみなして、また言葉を続けた。
女:「毎日外を眺めるのは、飽きませんか?」
女(N): カレは毎日毎日、変わり映えのない空を、庭を眺めているのだから、そろそろ飽きてもいいはずだった。
女(N): けれど、カレは少し笑った気がした。
女(N): あ、堅物なのに笑うんだ。そう思った。
女(N): その笑みは一瞬だったけれども、私には「君はなにもわかっていない」と言われたのと同じだった。
女(N): その返答ともとれない返答に、少しムッとした私は、唇を尖らせた。
女:「私、雨は嫌いです」
女(N): そしてそれが、初めての会話の終わりだった。
暗転
2幕
明転
BGM:カフェ
SE:ドアベル
女:「いらっしゃいませ」
女(N): それからまた日が過ぎて、梅雨時期の終わりを感じさせる、よく晴れた日のことだった。
女(N): 1人の女性がやって来た。
老女:「伯爵は、いらっしゃるかしら?」
女(N): 悪い人生ではなかったのだろう、目元に浮かんだ笑いジワに、健康そうな薄紅色の頬、髪に混じる白髪を綺麗に1つにまとめて、コーヒーの匂いが漂う店内をちらりと眺め、カフェの入口にある猫をかたどった陶器の置物の背中を、慣れた手つきで撫でながら声をかけてきた。
女(N): そう、カレはこのお店の常連さんに「伯爵」と名付けられていた。
女(N): 別に本当に爵位を持っているわけではない。
女(N): ただ、日がな一日陽に照らされているその風貌と、美しく凛とした雰囲気をとって、皆がそう言っているだけだ。
女(N): もちろん、この淑女がカレの本名を知ることはない。
女:「ええ、いらっしゃいますよ」
女(N): お席も空いていますよ。と、カレに聞こえないように静かに言えば、心なしか少女のように笑みを浮かべた女性を、カレの隣の席へと案内する。
女(N): 伯爵の席に、常連さんが座ることはない。初めて入ってくる人は時折その席に着くことがあるが、大抵は窓際の席はカレの特等席であり、常連さんの特等席はカレの隣になる。
女(N): そして粋な常連さんになると、
老女:「カレと私に、ホットコーヒーを」
女(N): と、カレへ宛てた注文をするのだ。
女(N): オーダーを聞いてカウンターへと向かうと、注文をした女性が、カレへとコソコソなにか話しかけているようだった。
女(N): きっとカレも彼女へ礼を言っているのだろう。
女(N): 楽しそうな彼女の背中と、カレの背中。
女(N): なんだか心がざわついた。
女(N): そのざわつきに明確な判断を下す前に、私はコーヒー豆をミルの中へ入れ、カレらから目を逸らしたのだった。
女(N): 初めて会話をしてから、私は彼に話しかけていない。
間
女はミルを使ってコーヒー豆を挽いている。
女(N): ふと、カレの方へ目を向けると、彼女が幸せそうに微笑んで、カレの手に触れていた。
女:「なんで…?」
女(N): と、思わず口にしていた。
BGM:カフェフェードアウト
照明が落ち、カウンターの中にいる女へスポットライトが当たる
女(N): あんなに話しかけていたのに、私には目もくれず、声すらかけてこない無愛想なカレに、なぜ彼女は触れることを許され、楽しそうに微笑んでいるのか。
女(N): 無愛想で無口なカレは、けれど最近では笑みや瞬きをくれ、それに私は救われたような気持ちになっていた。
女(N): 肩に触れることさえ出来なかった私に、なにかの当てつけのようなものなのか。
女(N): そんな被害妄想のような、醜い嫉妬の炎が一瞬で私の心を焼き尽くした。
女(N): 冷静な自分が、そんなことない、何かの間違いだと私を抑えようとする。けれどそんなことでは抑えきれないほど、私の炎は強く燃え上がってしまっていた。
女(N): 愛欲の炎は、得てして愛憎の炎へと、容易く変化してしまうのだった。
暗転
SE:雨
3幕
明転
女、窓際の席の側に立っている。
女(N): 翌朝。
女(N): 昨日までの雨が嘘のように、高い空がきらきらと輝く中、私はカレに話しかけた。
BGM:カフェ
女:「あの、昨日の人。…仲がいいんですね」
女(N): カレは、何が言いたい?とでも言いたげに、そのからりと晴れた空に向かって、感嘆の息を吐いたようだった。
女(N): けれど私にはまるでそれが、鬱陶しいとため息を吐かれたように感じた。
女:「昨日、あのいつも来る女性の!」
女(N): 思わず声を荒げて言った。
女(N): それに続く言葉はなかったし、なにを言いたいのか、まとめたつもりがあまりに大きな声が出てしまった驚きで全て消えていってしまった。
女:「…すいません」
女(N): 小さくそう謝るも、冷静に事を話せるような状態でないのは変わらず、ただただ狂おしいほどの炎がまたすぐに私の心を支配した。
女:「あの女性、恋人、なんですか…?」
女(N): カレはなにも答えない。
女:「でもあの人、旦那さんいらっしゃいますよね?」
女(N): カレはなにも答えない。
女:「いつも、彼女を待ってたんですか?」
女(N): だんだんと、言葉が震えてくる。
女:「いつも、私を無視するのは、そういうことなんですか?」
女(N): 苦しい。これ以上問うことが。
女:「私は、私…、私の方が…っ」
女(N): それでも、これが最後になるかもしれないから。
女:「私の方が、あなたのことを、愛しています!」
女(N): …それでもやっぱり、カレはなにも答えなかった。
BGM:カフェフェードアウト
女(N): 私は、カウンターへと向かった。
女(N): 今朝、家から持ち出してきたハンマーを手に取る。
女(N): いっそ、いっそ、いっそ、いっそーーー
女(N): それなら、と思った。
女:「私は…ただ一言、あなたの声が聞きたかった。あなたの視線が欲しかった。あなたに、触れたかった」
女(N): カレの背中へ向かって、ゆっくりと近づいていく。
女(N): 実らない恋に苦しむくらいなら、あなたを壊して、私のことも壊してしまおう。
女(N): それで、全部全部終わり。
女(N): カレの背中の後ろに立つと、目を瞑りながらハンマーを振り上げる。そして、ーーー
SE:飛行機
女(N): 瞬間、窓の向こうから飛行機の音が聞こえてきた。
女(N): カレは窓の外を眺めている。
女(N): それにつられるように窓の外へと視線を向けた。
女(N): 大きな音を立てながら、ゆっくりと青い空へ飛行機雲が描かれていく。
男:「やっと、夏が来たね」
女(N): カレが、そう、言った気がした。
女(N): 私は振り上げたハンマーをゆっくりと下ろして、飛行機雲を辿るように、机の上で空を眺める、カレの壊れやすい、陶器の背中を見下ろした。
女(N): カレは今日も、凛として美しく、そして白く輝くその体で、太陽光を反射させていた。
暗転
******
セクシャリティの1つ、対物性愛の台本です。
作中に出てくる老女や常連客は、ただお店の雰囲気に合わせて非日常を楽しんでいるだけです。多分。
主人公は陶器の人形であるカレに恋をしました。
恋をして、盲目的になるのはどんな人、物に対しても、皆同じなのだと思います。