ほぼ宅飲みだけで日本酒通になる方法 ~その⑧の下~ わたしの燗酒入門
燗酒入門、にしてはハードル高すぎ?
「古来より日本人は酒を温めて飲んできた」とか、「燗酒こそ酒本来の味がわかる飲み方だ」なんて言われると試してみたくなる。それまでは「日本酒は冷やしてなんぼ」って思ってたけど、違う世界も見てみないと。食わず嫌いほど愚かなことはないからね。
というわけでこだわりの酒屋Xに行って、「燗酒用の日本酒をください!」と注文してみる。家に帰り、店長に勧められた日本酒をさっそく燗につけてみる。店長は60度くらいまで上げてみてくれと言ってたな…。さてお味はいかがかな?
ん? なんだこれ? 紹興酒じゃないか⁉︎
このお酒は鳥取・梅津酒造の「冨玲」。3~4年くらい熟成した古酒で、色が褐色に変化している。紹興酒みたいな香りが心地よく、確かに体が温まって美味しい。でも、これって日本酒なのか?初めて飲む味に戸惑ったというのが正直なところだった。
流石に熟成古酒はまだ早かったかなぁ。それでもやっぱり試してみないことには始まらない。その次に試してみたのは、京都・木下酒造「コウノトリ」。当時わたしたちは妊活中で、来年こそはと意気込んで大晦日にこの酒を飲んだ。
うーん、美味しいんだけどさあ、これもこれまで飲んだ日本酒とは距離があるような。まだまだ燗酒になれてないのかぁ…。
ちなみに、その次の年にわたしたちは見事子宝に恵まれることができました。そういう意味ではこれほど成功した日本酒はありません。
困った時はググってみよう
ちょっと待て。一度古酒から離れてみよう。俺はまだまだ日本酒初心者だ。いきなり玄人のような真似しても、かえって燗酒に対する偏見を強めるだけかもしれない。いったん立ち止まって、もっとポピュラーなタイプの日本酒から攻めてみよう。
というわけで燗酒向きの日本酒についてググってみる。ふむふむ、やはり美味しい燗酒を探している人は多いみたいだ。結構いろんな情報があるぞ。なに?風の森が燗酒に合う?いやいや待て、冒険はやめよう。もっとスタンダードなところから攻めてみよう。
そして行き着いたのが、前も取り上げた「雪の茅舎」山廃だった。
…むむ⁉︎ これか、これが燗酒のうまさなのか。酒が喉を通る時に鼻から抜ける香りは、吟醸酒の華やかさとは違い、どこか胸をワクワクさせるような心地よさがある。それに酸味や旨味だけでなく、苦味もはっきりと味わうことができる。日本酒の味ってこんなに幅広いものだったのか。
「冨玲」や「コウノトリ」が不味かったわけではないけど、やっぱり初心者はもう少し敷居を下げたほうが良かったってことなのか。
燗酒の世界は深くて広い
「雪の茅舎」を飲んでから、一気に酒の世界が広がっていくような気がした。それまでは冷やして飲みたい酒はずっと冷やしたままで、もしくは常温で飲んできたけど、これ以降燗酒も試してみるようになった。
特に「コウノトリ」のおかげでパートナーのお腹の中に赤ちゃんができてからは、ひとりで晩酌するようになった。パートナーは話し相手になってくれることはあっても、アルコールは全く飲まなくなった(当然だけど)。そうなると、4号瓶でも一晩で飲むには量が多すぎる。生酒でも飲みきれずに冷蔵庫に保管することが多くなる。一週間経っても風味が落ちなかったり、かえってまろやかな味わいになる日本酒もあるけど、生酒はさすがに劣化しやすい。この場合は冷やで飲むのはすっぱり諦めて、燗酒にしてみる。どこかで「生酒だからって燗につけてはいけない道理はない」って耳にしたからね。
するとこれがハマった。温めてみると全く違う顔を見せる日本酒が少なくない。
改めてdancyu2016年3月号の内容を引っ張ってこよう。燗酒に向く日本酒として、酸の強い酒、アミノ酸の多い酒、熟成した酒が挙げられており、「最近向くとされる酒」として生酒が挙げられている。かつては「お燗だと『靴下が蒸れたようなにおい(生ひね香)』が出ると言われていたが、お燗の技術が進歩し、においを抑えて旨みが出せるようになった」のだとか。
わたしが一番驚いた生酒は、岡山・白菊酒造の「大典白菊」だ。開栓したばかりの頃は甘い香りが強く感じられたが、一週間経って燗にしてみると喉をカッと熱くするほど表情を変えた。よく「日本酒ほど幅広い温度帯で楽しめる酒はない」と言われるが、これほど真逆の表情を見せるというのも面白い。
ちなみに、これもdancyuに書いてあったことだけど、日本酒の成分そのものは温めたりしてもほとんど変化することはないらしい。むしろわたしたち人間の舌は温かいものほど甘みを感じやすいのだそうだ。
燗酒の美味しさを知ってから、日本酒の世界が一気に広がった。色んな温度帯を試すようになったから、冷やでイマイチだった日本酒を燗酒にしてみたらおいしかった、なんてことも多い。それに温度帯に合わせてツマミを選ぶ楽しみもある。たしかにちょうどいい温度に燗をつけるのはそれなりに経験が必要だけど、美味しいお酒を飲むためにはそれくらいの努力は大したことない。「いい酒=冷酒」という固定観念に囚われないで色々試してみるのも、日本酒の醍醐味だよね。
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