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韓国マスオさん日記 〜ソン・フンミンの父、ソン・ウンジョン監督の体罰について思うこと②〜


示談金の引き上げが目的?

 SONサッカーアカデミーのソン・ウンジョン監督とコーチ2名が児童虐待容疑で書類送検され、現在検察が捜査中であることについては前の記事で触れました。

 ウンジョン監督は26日の声明の中で「告訴人側が数億ウォンの示談金を要求し」てきたと明らかにしていました。これに対してA君側は「2次加害だ」としてこう反論しています。

 ソン監督からは謝罪も連絡もなく、弁護士を通じて △処罰不願書を作成し提出すること △マスコミには絶対に知らせず秘密を厳守すること △サッカー協会に懲戒を要求しないことなど、3つの条件を提示した。これに対して被害者側は憤慨し、怒りの表現として感情的に話しただけであり、真摯にそして具体的な示談金について話しただけ

 その後公開された録音データによると、A君の父親がソン・フンミン選手のイメージを盾に示談金をつり上げようとしているように聞こえます。

 A君の父親はアカデミー側の弁護士に対して「芸能人だって酒に酔って人を殴ったりしたら5億ウォンで示談する。なぜならイメージやマーケティングのためだ」「ソン・フンミンの移籍金は4千億ウォンだっていうじゃないか」などと話しています。ソン・フンミンの知名度を利用して高額の示談金を得ようとしている、つまり強請(ゆすり)をしているようもに聞こえます。
 これに対しA君側の弁護士は「(公開された録音データからは)ソン監督側が突然態度を豹変させた部分が省略されている」「(示談金を)3億まで出せるようなことを言っておいて、突然決裂を言い渡してきた。それにA君の父親が怒ってこのようなことを言った」と反論しています。

 わたしはどちらかの肩も持つ気はありません。大事なのはこの録音データが公開されA君の父親の発言に問題があることが明らかになっとしても、体罰や暴言は相対化されるべきではないということです。

 録音データの内容を報じるニュースには、案の定「結局金目当てだったんじゃないか」とA君側を非難するコメントが寄せられています。そもそも最初の報道がなされたときもYoutubeのコメント欄には「情熱的に教えたんだろ。最近のガキどもは自分たちが王様だ」「嫌なら辞めればいいんだよ」などアカデミー側を擁護する、というよりは体罰そのものを問題視しようとしない意見が多数寄せられていました。韓国ではいまでも体罰に「寛容」であろうとする風潮が残っていることがわかります。

他の保護者たちは「体罰はなかった」

 7月4日、SONサッカーアカデミーに子どもたちを通わす保護者が「どうかSONサッカーアカデミーと子どもたちを守ってください! 」というタイトルの声明を発表しました。

 声明の中身を簡単に要約すると、
・SONサッカーアカデミーにおいて体罰など存在しなかった。
・ソン・ウンジョン監督ほど子どもたちのことを思ってくれる指導者は見たことがない。(ウンジョン監督を批判する)市民団体の人たちは一度も会ったことのない監督の何を知っているというのか。
・一連の報道がなされて以後、練習場にはマスコミが押し寄せ、われわれの元にはDMが送られてくるなどの支障が生じている。
・何も知らない外部の人間が、まるでアカデミー内で犯罪でも行われたかのようにいい、わたしたちを「被害者」扱いしている。かえって迷惑だ。
・体罰を受けたと主張している保護者のことが理解できないし、恨めしい。
・検事と判事にはどうか善処をお願いしたい。

こんな感じでしょうか。

 声明の中でわたしが気になったのは、問題の沖縄合宿に関する部分です。何回読んでみても、日本語に訳出して読み返してみても、どうも理解ができません。

沖縄合宿にわれわれ保護者の一部も同行し、その保護者も子どもも体罰があったとされるその日の雰囲気については「何か雰囲気を変えるターニングポイントは必要だった」と口を揃えています。その日の出来事については、誰一人「おかしかった」とか「変わっていた」とは感じず、子どもたちさえ特にかわったことがあったのだろうかと首を傾げています。

 「雰囲気を変えるターニングポイントが必要」だと感じた日に、「特にかわったこと」はなかった。やっぱりよくわかりません。ちなみに制限時間内にゴールできなかった子どもをコーナーフラッグで殴ったということについて、声明では一言も触れられていません。ただ「いつも子どものためを思ってくれているウンジョン監督やコーチたちがそんなことをするわけがない」と主張するばかりです。

保護者一同の声明の持つ意味

 7月4日、いくつかの市民団体が集まって、この問題に関する討論会を開きました。この場において、保護者一同による声明は2次加害になりうるとの主張がなされました。

 キム・ヒョンス体育市民連帯執行委員長は「明らかにどんな(暴力)行為があったとしても、チームを維持するために保護者たちが加害行為をかばおうとする行動は、(被害者に対する)2次加害になりうる」と発言。またスポーツ人権研究所のハム・ウンジュ事務総長も「保護者は子どもがサッカーを続けなければならない状況において、練習がまともにできないのではという思いからこのような行動に出たのだろう。これもまた一種の加害行為」と同じような趣旨の発言を行っています。
 保護者一同の声明は、子どもたちがサッカーを続けるための環境を守るために出されたものだというのです。

 韓国社会でスポーツをするということは、多少大袈裟に言えば人生をそれに賭けるということと同じです。例えば、韓国にはすべての高校に運動部が存在するわけではありません。いくつかの高校に存在する運動部は、スポーツエリートのみ入部が許される狭い門です。彼等・彼女らは将来この道で生計を立てようと必死です。そのため過度な競争に晒され、心身ともに病んでしまうケースも少なくありません。
 SONサッカーアカデミーに通う子どももその保護者たちも、将来プロサッカー選手となってお金を稼ぐことに賭けている、といっても過言ではないでしょう。一連の騒動で「投資」が無駄になるのではないか。そうした危機感から上のような声明がなされたのではないでしょうか。

 ちなみに討論会を行った複数の市民団体は7月1日に共同声明を出し、真相究明と再発防止を訴えています。

 

 7月2日、ウンジョン監督と2人のコーチは春川(チュンチョン)検察におもむき聴取を受けました。捜査の結果については続報を待ちたいと思います。

 ただ、仮にウンジョン監督たちが厳罰を受けたとしても、それを契機に韓国スポーツ界から体罰が一掃されるということはありえません。まずは韓国社会に蔓延る過度な競争主義から見直さなければなりません。それは日本以上に硬直的な学歴社会についてもいえます。大企業に就職できたり、医師や弁護士などの資格を得た人たちの中には、ブルーカラーの人たちを蔑んだりバカにする人が少なくありません。もちろんこうした問題は日本にもいえることですが、韓国はあまりに露骨です。幼い子を持つ親として、少しでも韓国社会が良くなってほしいと願わずにはいられません。

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