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「日曜の夜ぐらいは… 」第一話:偶然の出会いが生む日常への彩りと明日への活力
4月30日にABC系列、テレビ朝日系列で日曜22時に新設された枠での初回放送ドラマ「日曜の夜ぐらいは…」。主演は清野菜名が務め、岸井ゆきの、生見愛瑠が脇を固める。脚本家岡田惠和。あるラジオ番組がきっかけで出会った女性三人の友情物語が描かれていく。
家と職場の往復、変わり映えのない日常。そんな生活にそっと彩りを加えるのは、初対面の人物とのたわいない会話かもしれない。女性同士の内容があるようでない会話が、閉塞感のある日常にそっと刺激を与えてくれる。
主人公の岸田サチ(清野菜名)は、母の邦子(和久井映見)と二人暮らし。車イスで生活を送る母の世話をしながら、ファミリーレストランでアルバイトをしている。細やかな世話をしながらも、母から繰り返される「ごめんね」にどう返事をしていいかわからない。帰宅後に繰り広げられる母のマシンガントークには、冷たい返事をしてしまう。
樋口若葉(生見愛瑠)は、田舎で祖母の富士子(宮本信子)と二人暮らし。二人は同じちくわぶ工場に勤務している。居間には若葉の母を含めた集合写真が飾られているが、母にはバツ印が付いている。「男と金には気をつけろ」祖母からの忠告は、若葉の母の過去を踏まえたものだろう。
野田翔子(岸井ゆきの)は、元ヤンのタクシードライバー。お客さんと喋りすぎてしまうことが玉に瑕。地元の厚木でヤンキーに憧れたものの、わずかに生きづらさを感じてしまう。一人暮らしの自宅で缶チューハイを飲みながら、「つまんねえ人生」と呟く。
家と職場の往復。変わり映えしない話し相手と日常の風景、街並み。そんな日々にキラッとした彩りが訪れる。あるラジオ番組が企画したリスナー旅行をきっかけに三人が出会うことになるのだ。
母の代理で参加したサチは、一線を引きながらも、若葉と翔子の勢いに圧倒されて、旅行を楽しみ始める。三人でのおやき作り体験。いつの間にか撮られた写真の中には、久しぶりに見た自分の笑顔があることに、サチは気付く。
「楽しいのダメなんだけどな。だって楽しいと。楽しいことあると、キツいから。キツイの耐えられなくなるから。」
サチは母親への連絡を忘れてしまうほど楽しんでいた。でもこの一種の麻薬のような楽しい時間に縋ってしまうと、日常に戻れなくなる。普通だと思い込んでいるはずの日常が、色褪せているものだと気づいてしまう。連絡先も交換せず、若葉と翔子との思い出の写真を削除して、サチは日常に戻った。
同じように日常に戻る若葉と翔子。これまで通りの日常に戻りながらも、二人はサチから聞いた煮詰まった時の処世術「コンビニで高いアイスを買う」を実践する。高いアイスと共に、甘美な非日常であった旅行を思い出す。偶然の出会いによって、お互いの人生にほんの少し彩りが加わったのだ。
日常は、特別悲しいわけでも、楽しいわけでもない。普通だけど、普通のはずなんだけど。どこか閉塞感を感じてしまう。ラジオ番組を聴いて笑う時間、旅行での偶然の出会い。短い非日常との対比が楽しくも切ない。
この作品は何よりも、映像が綺麗だ。映画を彷彿とさせる映像の美しさは目を見張るものがあった。何も珍しくない、綺麗でもないそんな生活を送る登場人物たちの日常が、リアルな色味、雰囲気を伴って伝わってくる。ナレーションによる説明もなく、劇伴も少ない最低限の演出。俳優陣の一挙手一投足、表情を見逃すと、一瞬で置いていかれてしまうそんな丁寧なドラマだった。
日本テレビ系列「ブラッシュアップライフ」でも描かれた女性たちの友情物語。気心知れた友達と会う機会や、初対面の人と会話する機会は、コロナ禍に失ったものの一つだ。家と職場の往復が特別辛いわけでもないが、なぜか閉塞感を感じてしまう。私達は、日常と非日常を繰り返すおかげで、この世界を上手に生きられているのかもしれない。
三人がツアーに参加して、非日常を過ごす裏側では、サチの母・邦子と、若葉の祖母・富士子が普段と変わらない日常を送っている。コンビニで購入した高いアイスを食べながら、私たち大丈夫だよね?とサチに繰り返し問う邦子。バランスの良い非日常感を誰もが求めている。
日曜の夜にゆったりと見ることができるドラマ「日曜の夜ぐらいは…」。月曜日の憂鬱さは一旦忘れて、変わり映えしない日常を美しく切り取る映像と、もがきながらも懸命に生きる三人を見てほしい。
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