つまるところ(ショートストーリー)
ありふれた野暮ったくもなく洗練されてもいないデザインの服を見に纏い、無難だがどこか垢抜けない髪型をし、肥満ではないが引き締まっているとはとても言えない身体をした自分が話す様子を、一哉が醒めた目で見つめている。
趣味らしい趣味もなく、生まれてこのかた万引きをしたことも、朝帰りをしたこともない私。
清潔感はあるが華やかな一哉の目は言っている。
「ああ、なんてつまらないのだろう」
と。
その視線が何を意味しているかを分かっていながら、これと言って面白くもない話題を提供する私はまるで道化の様だった。
つまらなさそうに、一哉はトイレへと席を立つ。
やり場のない空虚感に苛まれながら、一哉の分も纏めて支払いを済ませる。
この状況で、一哉に奢られるともっと惨めな気持ちになるから。
ギリギリのプライドだった。
一哉が席に戻るや否や、掛けてあったコートに腕を通し席を立つ。
ギョッとした一哉が
「え、もう出るの?まだ来たばかりだよね?」
と歪んだ口元を隠そうともしない。
「うん、もう充分だから。」
心にもない台詞。
なに一つ満ち足りていない今の状況。
そそくさと入り口へ向かおうとする私に
「じゃあ支払いは僕が…」
言い終わると同時か、それより早く口を開く。
「済ませておきましたから。」
慌てて一哉も後について店を出る。
一哉の方へ向き直り、
「今日は有難うございました。楽しかったです。」
と形式的な礼を述べる。
既に心の中は、こんな雑な方法で折角の機会を全て不意にした後悔と悲しみに苛まれ始めている。
かろうじて、一哉の口元を見られるか見られないかしか目線を上げることが出来ない。
その口元が、微かに笑みを浮かべているように見えるのは混乱のあまり自分が見せた幻視か?
「面白いところあるんだね」
そう聞こえたのも、幻聴か?
「折角なんだから、もう少し話して行こうよ」
どうやら、一哉は変わり者らしい。
つまるところ、つまらない私を面白くできるのはこれくらい変わった人なのかもしれない。
*
特に着地点を考えずに書いてしまいました…
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