林 彗

つらつら思ったことなどを書いていこうかと思います

林 彗

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最近の記事

さようなら at home(自由詩)

さようなら 2人の生活が染みついた部屋で 響く別離の言葉 さようなら もし時を戻せたら やっぱりこの部屋で過ごしたい さようなら もし私が今縋りついて 明日も一緒にいられても この部屋はもう元には戻らない さようなら さようなら 自分に言い聞かせて さようなら さようなら 過去の自分 さようなら 未来のあなた さようなら 嫌いになった訳ではないよ さようなら 半分の荷物が無くなったこの部屋 さようなら さようなら この部屋は確かに私のhomeだった * おうち

    • 夜(自由詩)

      夜の帳が下りる様と 心が自分の内側へ向いていく様は似ている 深く 暗く どこまでも果てしなく終わりがない 否 実際はそれはほんのひとときに過ぎない しかし まるでこのまま生涯が終わるかの様に 思い詰め 嫌悪し 嗚咽する 何が自分を苦しめるのか 自分自身か 自分以外の全てか 答えは おそらくどちらでもない 強いて云うのならば 苦しめるのは この暗闇 夜の誘惑 生きるのは容易くない 夜は生きる難しさそのものだ

      • 私のこども(ショートストーリー)

        結婚して5年が経つ。 一樹と私の間に子はいない。 幸いなことに、過剰に孫の誕生を期待する家族も、お節介なことを言う者も周りにはいない。有難い。 私はあまり生きることが好きではない。 一樹と円満な家庭を築いているとは思う。けれども、それも束の間の安息なのかもしれない。という不安が常に付き纏う。 一樹は悪くない。私の問題だ。 一樹と結婚する時、子どもを持つことは考えられない。と伝え、一樹も納得してくれて今がある。 私は子どもが嫌いなわけではない。 寧ろ人一倍、もし自分に子ども

        • Wonderwall(ショートストーリー)

          「ねえ、Wonderwallってどういう意味?」 oasisの名曲を聴きながら、僕の膝に頭を乗せてまどろむサキはそう訊いてきた。 「うーん、曲がカッコよくて好きだけど意味は分からないな。wonderとwallで不思議な壁?…なんだろうね?」 誤魔化す様に、僕はサキの髪を撫でた。 サキは少しがっかりしたような、けれど僕に撫でられて嬉しそうな、なんとも判別がつかない横顔だった。 春めいた陽射しが、南向きの窓から差し込む。 冬が終わりに近づいていた。 いつまでも、この曲を聴き

          3.11に寄せて

          被災していないのに、未だに津波の映像を直視できません。 大切な人、場所、生活を失った方々の悲しみを映し出すテレビを切ってしまいました。 ごめんなさい。 未熟な私を許してください。 10年経ちますが、あの時のショックを未だに消化できていません。 祈ります。 特定の宗教には属しませんが、どこかにこの祈りが届くと信じて。 亡くなられた方々の魂が安らかでありますように。 そして、こうも思います。 大切なものを失った方々の悲しみが癒えますように。 けれど、この願いは傲慢かも

          3.11に寄せて

          藍と愛①(連載小説)

          「思ったより大胆なんだね」 と、一通りコトを済ませたホテルの一室で言われたが、思ったより、とか言われても私は私が思ったとおりの軽薄で淫乱な女だ。 一体、どこで私を買い被ったのだろう?いや、どこも何もない。 そもそも私たちは今日初めて出会い、この最低限の備え付けしかないチープなラブホテルにいるのだから。 男はぼうっと体力の回復を待つように、ベッドに横たわっている。あわよくばもう一回、とでも思っているだろうか。 飲み屋にいたときは話も弾むし悪くない男だと思ったが、こうしてぼん

          藍と愛①(連載小説)

          うちで踊ろう(大晦日)、そして新年

          NHK紅白歌合戦をなんとなく見ていた。 最近は人員不足(募集しても来ないのではなく、そもそも募集できない程の経営状態)と繁忙期で、慢性的に業務が忙しく疲れ果てていたので、年末にどんな番組が放送されるのかもあまりよく分かっていなかった。 星野源さんが好きだ。 好きなタイプは星野源(容姿も楽曲などの才能も)と周りに言うくらいには星野源さんが好きだ。 今年も星野源さんが出演すると知り、何を歌うか曲目を調べた。「うちで踊ろう」だった。私は、少し気持ちが翳った。 この楽曲を知る誰

          うちで踊ろう(大晦日)、そして新年

          私は私のままで(ショートストーリー)

          いい年なんだから、とか言われるけれど私はいくつになっても可愛いものが好きだし可愛いものを身に纏いたいし、それに見合った可愛い髪型やメイクでいたい。 私の身なりを見て、眉を潜める人、クスクス笑う人、珍獣を見るかの様な視線を送る人。色々な人がいる。 しかし、そんな人々の反応は、気にもならない。 だって、私は私がその時いちばん可愛いと思うものを身につけ、髪を結い、化粧するのだから。 いちばん可愛いものと一緒の私は、無敵だから。 可愛いと思っているのに、不相応だからと言ってそれを

          私は私のままで(ショートストーリー)

          夢より深く(ショートストーリー)

          彼の腕に抱かれながら、私は一睡も出来ずに朝を迎えた。 隣で彼は、まだすやすやと寝息をたてている。 ずっと触れたかった愛嬌のある整った顔、少し癖のある髪の毛、そして肌。 触れたいという思いはありながらも、それをひた隠しにしながら何人かで飲んだり遊んだりする日々だった。 それがどうしてだろう? 私は今、その彼の腕に抱かれて彼のこじんまりした部屋のベッドで横になっている。 昨晩の彼は随分と酔っ払っていた。 皆での飲み会の後、後ろを歩いていた上機嫌な私たちはいつしか他の人とは

          夢より深く(ショートストーリー)

          才能は孤独や悲しみに寄り添ってくれない

          美容室でスマートフォンをいじっていて知った、俳優 三浦春馬さんの訃報。 芸能人には然程詳しくないのだが、三浦春馬さんと言えば、二点思い出すことがある。 一つ目は、舞台『キンキーブーツ』の動画。 なにかのきっかけで彼の歌唱動画を見た。 三浦春馬さんの歌唱する華やかでしなやかで、そして力強い姿と才能に感動してその後何度かその動画を見ることがあった。 二つ目は『YOUはなにしに日本へ?』で、三浦春馬さんを大好きになったことがきっかけで日本語を勉強し日本に来た仲良しのロシア人の

          才能は孤独や悲しみに寄り添ってくれない

          あの日の空はレモン色(ショートストーリー)

          いとも簡単に、私は恋におちたのだ。 大切な数学の期末テストの日。 コンパスを忘れてしまって途方に暮れていた私に、隣の席の彼はスッと私が求めていたそれを差し出してきた。 「2個持ってるから使いな」 素っ気ないが、彼は間違いなく私の救世主だった。 彼はクラスで目立つ存在ではないが、つかず離れず色々な人とうまくやっていける人だった。 コンパスを返した時、改めて彼の表情を窺う。 なんとも感情の判別はつかない顔つきではあったが、それよりも私は彼がきめの細かい肌を持ち端正な顔立

          あの日の空はレモン色(ショートストーリー)

          ゆらめき(ショートストーリー)

          初めてはいつだったか。 初めて彼を意識した日 初めて彼の横顔を間近で見た日 初めて彼が私だけに笑顔を向けた日 初めて彼の指に触れた日 初めて彼の唇が触れた日 初めて彼が私の身体に触れた日 すべてが朧げで、今は彼の顔すらはっきりと思い出せない。 最近多忙だから、脳内メモリーのキャパシティオーバーでいつの間にか消去されてしまったのか。 それとも、無理矢理思い出を封印したからか。 日々は時に残酷に、そして正確に流れてゆき記憶はいつしか忘却へと移りゆく。 夢を見た。 起きた時

          ゆらめき(ショートストーリー)

          つまるところ(ショートストーリー)

          ありふれた野暮ったくもなく洗練されてもいないデザインの服を見に纏い、無難だがどこか垢抜けない髪型をし、肥満ではないが引き締まっているとはとても言えない身体をした自分が話す様子を、一哉が醒めた目で見つめている。 趣味らしい趣味もなく、生まれてこのかた万引きをしたことも、朝帰りをしたこともない私。 清潔感はあるが華やかな一哉の目は言っている。 「ああ、なんてつまらないのだろう」 と。 その視線が何を意味しているかを分かっていながら、これと言って面白くもない話題を提供する私

          つまるところ(ショートストーリー)

          あなたはあの子の向こう側(ショートストーリー)

          あの子は、いとも簡単に私の大切な人を向こう側へと連れて行った。 気づいていた筈。私が彼のことをいつも熱い眼差しで見つめていたことを。 気づいていたからと言って、遠慮をする必要はない。 けれど、こんなにも長い間私が届かなかったあの距離にあの子はいとも簡単に到達し、彼を向こう側、彼女の側へと連れて行ってしまった。 ねえ、どうして?どうして? わたしには何が足りなかったの? わたしの側にいてもらうには何が必要だったの? 未来の自分はきっと答えを分かっている。 ずっと前のあ

          あなたはあの子の向こう側(ショートストーリー)

          高橋順子『夫・車谷長吉』

          書店の新刊棚に『夫・車谷長吉』の文字を見つけ迷うことなく購入をした。 最近は読書に割ける時間が増えたので、本日読んだ。 車谷長吉のことは映画『赤目四十八瀧心中未遂』で知ったのが先か、それとも朝日新聞の所謂読者のお悩み相談に答える『悩みのるつぼ』で知ったのが先だったろうか。 当時SNSでも話題になっていたが、「悩みのるつぼ」で「私は教師で、生徒を好きになってしまうがどうしたら良いか」といった趣旨の相談に対し、「いっそその生徒どデキてしまえば良いのです」と言う、部分的に読むと

          高橋順子『夫・車谷長吉』

          ムーミン谷の住人たち

          仕事の休憩の合間にムーミンシリーズの文庫本をちびちびと読み、先日やっと全てを読み終わった。 私は無類のムーミンキャラクター好きである。昨年は、埼玉にできたムーミンバレーパークへ足を運んだ。 しかし、お恥ずかしながらムーミンシリーズ自体は幼少期にアニメを鑑賞していたのと、『ムーミン谷の彗星』と『たのしいムーミン一家』を読んだ記憶が朧げにあるだけだった。 ではなぜ私がムーミンに夢中になったかと言うと、約10年前にフィンランドを訪れたことがきっかけだった。 ヘルシンキの空港から

          ムーミン谷の住人たち