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黒澤清監督「Cloud」を観た。
「見えない悪意が暴走する現代社会の恐怖を描くサスペンス・スリラー」
というキャッチに誘われて、
また、菅田将暉さんが出演されると聞いたので早速観てきた。
ネタバレを含みます
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一言でいうと、
ちょっとクスッと笑ってしまうような楽しいエンタメスリラーであった。
転売屋の闇は後から取って付けたかのような脚本で、
正直にいうとそこは期待を裏切られた。
主人公(菅田将暉)は転売屋だ。
転売ヤーとも揶揄されている仕事だ。
彼は安く買った商品が高値で売れることに興奮を覚えるタイプなのだろう。webサイトに出品した商品の売れ行きを異様な眼差しで見つめていた。
転売を続ける主人公はやがて何者かの恨みを買ったことにより、ストーカーされるは、バイクの通勤路にピアノ線を張られるは、窓ガラスを破ってゴツい機械が飛んでくるわで散々な目にあう。
そして最後には集団から命を狙われるまでに発展する。
まあ転売屋は人の恨みを買うからしかたがない…となるか?ならないだろう。
主人公に向けられる復習は常軌を逸した犯罪行為で、あきらかにやりすぎである。
劇中では主人公の行動に呆れた場面も合った。
命の危機から脱出するやいなや、商品が売れているかを真っ先に気にしていたのだ。彼は死にかけたことよりも安く買った商品が高値で売れることが重要で、そこに興奮を覚えるタイプなのである。
振り返ってみると登場人物は全員が謎の人物である。
過去がない、やたらと消費する彼女、ヤクザと思しき青年など、みんな設定だけで動いているふわふわした存在だ。
それで結局この映画は鑑賞者に何を問いかけているのか?だ。
ひとつは、命を狙われた転売屋の話だとすると、悪いことをすると報いがあるけどそれでもいいの?というおとぎ話のように問いかける映画だと思った。
もうひとつは、みんな生きるための手段が目的になっていることだ。
例えば主人公は転売によって儲けたお金よりも、安く買った商品が高くが売れるかどうかという転売の手段自体が目的になっている。
先輩役の窪田氏は主人公との上下関係をはっきりさせることが目的になっている。
主人公の彼女は料理そのものよりも、料理器具を集めることが目的になっている。
だから私たちは生きるうえで、いつの間にか手段が目的になっていないか?ということを問われている気がしたのだ。
また、
冒頭のシーンに出てくる、医療機器?を取り扱う会社のオーナーさんだ。
彼は何十万円もかけてつくった機械を、主人公に買い叩かれてしまうのだ。
どこへも売れずに不良在庫として抱えていたところを、主人公が目を付けたのだろう。(この目の付け方が劇中で一切明かされないのも不思議である)
オーナーの奥さんらしき人も出てきて、主人公は人の心がないのか等の罵倒を浴びせる。主人公は9万円の現金を投げ捨てるかのように置いて去っていく。
そしてその後、荷物をトラックに積んでいる主人公が写し出される。
結局は売ったのだ。取引に応じてオーナーは9万円の現金を手に入れたのだ。
主人公はその後に自宅に帰って丁寧に商品を撮影をして高額で出品し、見事に売りさばいて大金を稼ぐ。(根付の考えも明かされないので、そんな高くて売れるか?と思った。)ビジネスを推敲したのだ。
主人公は売りさばく手法を確立しているのだ。
安く仕入れて高値で売って利潤を得ることはビジネスの基本だ。
取引成立していたのだ。
だがオーナーの怒りは収まらなかった。というより、主人公殺害の話をネットで見かけて再燃したのだと思う。
最終的には主人公を殺すためのグループに参加し、「理由はわかるよねえ」的なことを主人公に告げる。
わたしは正直「はあ?」とおもった。売らない選択もあったはずだ。それでもオーナーは売ったのだ。殺したい理由は逆恨みとかそんな立派なものではない。ただのワガママである。こういうところが、この映画の取ってつけたような感がするところなのだ。
最後に、
菅田将暉さんのだるくて生きがいのない演技は見事だった。
主人公は何度も「は?」と思ったことが合ったはずだ、
その時の表情や仕草がまさに「は?」を表していたので。私は笑ってしまった。
彼女役の古川琴音さんも見事だった。
ずっと不思議ちゃんな雰囲気を醸し出していた。ラストの工場に現れたときが最たるものだ。主人公の幻視か?とさえ思ったくらいだ。
しかし何と言ってもラストシーンの狂気と怒りに満ちた表情だろう。夢に出てきそうなくらい恐ろしい表情だった。俳優魂を観た。母がキレ散らかしたときの表情ににていて、本当に怖かった。素晴らしい演技だったと思う。