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金の板にまつわる研究発表会 2022.11.23

こんにちは。伊山桂です。
今回は2022年11月23日、勤労感謝の日に行われた「金の板展」特別企画
『金の板にまつわる研究発表会」にて語られた金の板情報についてのまとめ記事になります。
 業者の在庫をほぼほぼ無くしてしまうほど岩手県で売れた金の板。そんな金の板との出会いから、その正体について主催の柴田有理さんと伊山桂が迫ったここ数ヶ月の記録について改めてまとめていこうと思います。

金の板との出会い・謎の天使


埼玉風景
伊山、金の板との出会い。
 2022年7月、翌月に迫った千葉での個展に向けて制作もラストスパートに入っていた時、岩手県盛岡市にある画材屋、アートショップ彩画堂店主からの命令。
「埼玉の額縁メーカーの額市にいって良い額とってきてちょうだい」
 その命は伊山の気持ちを大きく盛りに盛り下げた。
 くしくも一週間ほど会場に在廊を予定していたため、可能といえば可能なのだが、それは埼玉に行き帰りするだけで1日を潰してしまうことを意味していた。

 日を追うごとにふつふつと湧き上がる闘志。それは止むことを知らず、気づくと額市当日を迎えていた。
 さて困った。本当に場所と時間とこの命しか伝えられておらず、なんの額を買うべきか、何をメインに仕入れればいいのか、当日になっても分からなかったのだ。額メーカーの方々が優しいだけに、申し訳なさが募る一方、彩画堂店主の「なんでもいいよ」がイッチバン伊山を困らせる。
 額市の会場を10分ほどフラフラとさまよううちに、どうにかして店主をギャフンといわせてやろうという反抗心が芽生えはじめる。普段、彩画堂の店主が注文しないような額かなにかを注文してやろうと、悪知恵を働かせる。そうこうするうちに優しい額メーカーの従業員さんが変わった商品を進めてきた。
 なんだこれ。金の板だ。なんだこれ。これにしてやろう。
 店主の悔しがる顔を思い浮かべて購入した。

 数日後、岩手に荷物が届く。ちょうど自分の展示も無事終わり、今年の夏はあとは悔しい顔を見るだけなはずだった。伊山も含め、店主と数人の客が囲む中、荷物は解かれた。
 皆は一瞬困惑の顔を示したが、すぐに面白がり始めた。
 伊山の悪巧みは失敗に終わった。こういうのを楽しんじゃう人たちだった、、、悔しい気持ちがぶり返す。
 それから話は早かった。展示企画が持ち上がったと思えば、すぐに応募要項が出来上がり、知らぬまに主催者として自分の名前も入っていた。一矢報いることができず伊山には今も悔しさがほんの少し残る。

 という寓話のようなエピソードが岩手県盛岡市に金の板が入ってくることになった裏にはありました。
 金の板がきた当初、画材屋では毎日金の板で盛り上がり、それがどこで作られたのか、何用の板なのか憶測が飛び交いました。そんなある日、メーカーから少し特殊な金の板が届きました。


奏楽天使

 こちらの金の板には、すでに天使が印刷された紙が貼られてあったのです。使用例として送られてきたこの板によって憶測は加速します。

この天使は一体…

 この天使は、イタリア・フィレンツェの画家 フラ・アンジェリコ(Fra' Angelico 1390/1395-1455)の『リナイオーリ祭壇画』の中にいた、マリアと幼いキリストの周りを囲むように描かれた12体の奏楽天使、その中の一体でした。

Fra' Angelico "リナイオーリの祭壇画”
Fra' Angelico”リナイオーリの祭壇画”部分


 天使とは天上と地上を結ぶ、いわば伝言役のような立ち位置らしく、楽器を持っている天使のことを奏楽の天使(奏楽天使)と呼ぶようです。
 ここで一つ、金の板=イコン説が強まります。そしてそれを後押しするように、金の板の箱にはごくまれに小さいイタリア国旗が入っていることがありました。

イタリア在住の人に聞いてみよう!

 製造場所や売っている場所がある程度絞られてきたため、実際に現地で生活している方々に連絡をとってみました。
 岩手県出身で現在イタリアに在住の画家、小野隆生さん。長きにわたってイタリアの諸地域で生活、活動されている方なら何か知っているかもしれないと思い聞いてみました。

伊山「この金の板がイタリア産かもしれないという情報があるのですが、ご存知ないでしょうか?」

小野さん「みたことない。ただ、イタリア、フィレンツェにならば観光客向けの商品を露天商などが売っていたりするからそれかもしれません。」

 なるほど、長く生活されていてもみたことがない、とするとやはり観光客向けの商品として売られているのかもしれません。
 伊山のメール友達のイタリア出身・在住者の方にも聞いてみました。

伊山「この金の板はご存知ですか?イタリアの国旗が入っていたんです。」

イタリア人男性「助けになれず申し訳ありません、僕もわからないです。」

 やはり知らないようです。これは小野さんが仰っていたお話が近いのかもしれません。
 同主催者の有理さんの調べによると、確かにフィレンツェにある木工細工店には売っていそうで、そのお店を写真で確認すると金の板同様、イコンのようなものや、金泥が塗布されたお盆のようなものなどが確認できました。

"GIORGI oggetti artistici in legno"
ジョージの木工細工店(フィレンツェ)

なぜ天使だったのか

 なぜ金の板に天使が貼られていたのか、これは少し明確なことは分からないので予想で書かせていただきます。
 この天使が貼られた状態で金の板が販売されているのだとしたら、それはお守りや心の支えのようなお札としての商品だと言えるでしょう。

 先に書いたように、天使は人と神の間をとりもつ存在です。「天使」という記号を用いることは、その存在とその存在の周り(内と外・地上と天上)を証明していることになるでしょう。それが人々に安心感を与えているのではないでしょうか。

 さらに有理さんの調べた情報によるとこのフラ・アンジェリコ作「リナイオーリ祭壇画」に登場する奏楽の天使たちは人気モチーフであり、ポストカードやお土産品によく印刷されているようで、やはり観光客向けに売られているみたいです。
 イタリアらしさ、フィレンツェらしさを醸し出すこうしたモチーフや、金色を用いて制作された商品を観光都市であるフィレンツェで売る、これは確かに美術館の出口付近にある売店でポストカードを買ってしまう心理みたいなのが働いてしまいますよね。さすがフィレンツェです。(憶測)

”リナイオーリの祭壇画をマネる柴田有理図”

まとめ

 と、ここまでが伊山と柴田有理さんが金の板について調べてわかりはじめたことでした。ざっと改めて分かったことをまとめてみましょう。

・金の板はイタリア産(?)
・イタリア・フィレンツェには類似した商品を売るお店がある。
・見本の板に貼られた天使はフラ・アンジェリコの「リナイオーリ」の天使
・金の板は観光客向けの商品であり、イタリア国内では認知度が低い。

 金の板が一体どうして国内に入ってきたのか、いまだその真実は掴めませんが、日本人に根付いている西洋への憧れのようなものから、「イタリアっぽさ」に私たちはロマンを感じざるを得ないのかもしれません。
 そうした「ぽさ」が見事に岩手県に刺さったのは、「黄金郷・平泉」の身近さと大切さを知らず知らずの内に身に付けていたからかもしれませんね。 
 なんにせよこうした流れを、改めて一歩ひいた視点から眺めてみると、なんだか本当に変な面白い企画ですね。この金の板についてはまだまだわからないことが沢山あります。調べれば調べるほど「?」が増える一方です。これからも追及を続けて行きたいと思います。


 さて「金の板展」が近づいてまいりました。皆さん作品制作のほうはいかがでしょうか。作品の締め切りは2022.12.9ですが展示期間中でも随時受付したいと思います。
 まだまだ時間があると思っているとあっという間に会期が近づいてきましたね。かく言う私、伊山もまだ板に手を付けられておりません。
 会場である岩手県盛岡市アートショップ彩画堂さんにはすでに完成された力作が徐々に徐々に届いてきております。力作!!!って感じです。
 どなたでも、どんな形態でも参加可能です。今知ったと言う方々も、知っていたけど手が出せなかったと言う方々も、皆様ぜひ奮ってご参加ください!ご応募お待ちしております!

金の板展DM[表]
金の板展DM[裏]


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