一度でも「モノづくり」を志したことのあるすべての人を肯定するクリエイター賛歌『数分間のエールを』のエグいほどの熱に酔わされて泣いた
映画『数分間のエールを』を観ました。
泣きました。エグいくらいに。
涙でぐしょぐしょになった顔を隠しつつ映画館を出て最初に思ったのは、「想像以上にエッッッグいぞこれ!!」ということ。もちろん良い意味で。
予告編を見て最初に感じた「さわやか青春モノづくりアニメ〜!」なイメージが、容赦なく「現実」に上書き保存されていく感覚。……いやぁ、たまらんですねえ! 心当たりしかない苦悩に葛藤、独りよがりな姿勢を見せつけられて胃がキリキリと舞い踊らずにはいられない。いやさぁ……どっちの気持ちもわかるから……そう……わかるんだけどぉ……!
ただただ好きなだけでは行き詰まる「表現」の難しさと、それに伴う葛藤。何かを発表する以上は常に付きまとう、周囲からの声と評価。それも、心ない言葉だけでなく、時には名誉ある実績が心を折ることだってある。
そんなままならない現実を見せつけられて、それでも創らずにはいられない――。「モノづくり」をテーマにした数多くの作品がそうだったように、本作でも、そんな青臭さと熱意が描かれる。
ところで、この冒頭映像……すっごく良くありません??
僕は劇場でこの映像を初めて見たのですが、もうこの時点で「あっ」ってなりましたもの。そう、「決して届かない星にそれでも手を伸ばし続ける物語」に繰り返しグサグサに刺され続けてきたFate脳なので、「あっ」ってならずにはいられないわけです。
ちなみにこの「あっ」は、「あっ(これは間違いなく自分特攻の作品ですね覚悟を決めて臨まねばいけませんねウフフフフフばっいこいやオラァ!)」の「あっ」です。ご査収ください。もし同じように「あっ」ってなった方がいらっしゃったら、迷わず劇場へGOしましょう。きっと刺さるはず。
とはいえ、青臭く一生懸命に、時間をかけて創り上げたものだって、大勢に届くとは限らない。誰の目にも留まらず、日の目を見ることなく、インターネットの海へと沈むだけかもしれない。輝かしい成功者たちが立つ船の下には、その何十倍、何百倍、いや何千倍もの人たちの無念が漂っている。
もちろん、「好きだから」でずっと続けられるのなら、それも良い。しかし言うまでもなく、誰もがそうあり続けられるわけでもない。周囲の声によってメンタルに不調をきたしたり、あるいは誰からも見てもらえないことで心が折れたり、はたまた外部評価に依存しすぎて苦しくなっていったり。
好きだったはずのものが好きじゃなくなるきっかけなんて本当にありふれているし、好きで続けていて辛くなることだってある。でもだからこそ、どこかで「やめる」選択をしてきた僕たちにも、今なお苦しみながらモノづくりの世界で挑戦を続けている人たちにも、その心の深い深い部分にこの作品がぶっ刺さる。
独りよがりのように足掻いて足掻いて、足掻き続けた最後の残り火が、ただ1人だけの心を動かすことだってある。現在進行系で創作に携わっている人のみならず、過去に一度でもモノづくりを志したことのある人すべてを、この物語は肯定してくれる。――だから、泣いた。
「こんなんもう、令和最新版のクリエイター賛歌じゃん……!」って書こうと思ってメモっておいたのですが、さっきパンフレットを覗いてみたらまさにその旨が書いてあったし、なんなら特報の時点で書いてあったっぽい。マジか。こんなにも愛にあふれた映画が全国公開でつくれちゃう令和……最高すぎませんか〜〜〜??
とはいえとはいえ、マジもんの現実世界においては、その「ただ1人」の心すら動かせないことだって当然ある。
誰に惜しまれることもなく終わりを迎えた人が今まさにどこかにいるかもしれないし、一度は諦めた人が再出発した先で成功をつかめるとも限らない。ない……のだけれど。そんな残酷さを匂わせつつも、それでも、諦めてしまった人も含むすべてのクリエイターを肯定しようという気概を本作からは感じられて、それがたまらなく尊く感じたんですよね。
……って書いていたら、おじさんまた泣けてきちゃったよこんちくしょう。みんな幸せになってくれぇ……。
そんなこんなで取り留めなくつらつらと書いてみましたが、この『数分間のエールを』という映画が、これからたくさんの人のもとへと届くことを願ってやみません。
これまで創作や表現とは無縁だった人、興味はあっても「自分には無理だろうし……」と始める前から諦めてしまっていた人たちにも、一歩を踏み出させる力を持った作品。モノづくりやコンテンツ、ネットカルチャーが好きな人に広くおすすめしたいけど、さらに付け加えるとしたら、一度でも「MV」で泣いた経験がある人に見てほしい。「こんな演出、大好きでしょ?」を映画館の大スクリーンで見せつけられて、きっとたまらん気持ちになるはず。
そういえば、映画の世界に魅了され、あの大きなスクリーンに「飲まれる」ような感覚になった作品は過去に何度かあったけれど、逆は意外と珍しい気がする。本気でスクリーンをぶち抜いてくるんじゃないかと思えるほど真に迫った映像は、ここ数年味わったことがなかったかもしれない。もしかしたら、作中表現が自分の日常=VR SNSの世界に近い3DCGだったから、というのもあるかも……?
いずれにせよ、作中の「MV」はマジで必見です。
アレを大画面で味わうためにもう1回観に行きたいくらい。
拙くても、苦しくても、やめたくなっても、
立ち続けた先の 未 来は、きっと 明 るい。