VTuberの“おへそ”と話せる令和最大の奇祭『へそフェス2019』感想
あなたは、知っているだろうか。
──おへその中には、何があるのか。
知らない方は、Twitterで「#へそフェス」と検索していただきたい。そこには、へそに惹かれ、へそを愛し、へそに狂わされた、無垢なVTuberファンの姿が見られるはずだ。
あの日あの時あの瞬間、とある渋谷のレンタルスペースの一室に集いし強者たち。彼らならば、きっと知っている。──おへその中には、何があるのか。おへそとはいったい何なのか。なぜ人は生まれ、おへそに惹かれ、やがて死んでいくのか。
魅力的なおへそを持つハムスター系VTuberは、こう語っていた。
「生と死のコントラストが美しい、それが、へそ」
そう、つまり、おへそとは、人生そのものなのだ。
その話を聞いてからもう10日以上が経つのに、彼女の言葉はいまだ僕の胸を揺さぶり続けている。VTuberのリアルイベントに参加しただけのつもりだったのに、まさかそこで、この世界の真実と相見えることになろうとは……!
イベントの名前は、『へそフェス2019』。VTuber・紡音れい(@tmgnrei)の「おへそ」と触れ合うことができる、令和最大の奇祭である。
「おへそフェスティバル」とは何なのか、誰も知らない
──とまあ、知らない人からすれば「なに言ってんだこいつ」としか捉えられないと思うので、ざっくりと説明をば。
「へそフェス2019」とは、Zero Project所属のVTuber・紡音れいちゃん(の「おへそ」)に会えるミニイベント。
「天才美少女mix師」を自称するれいちゃんは、かわいらしいケモミミとチャーミングな「おへそ」を持つVTuber。その愛らしい容姿と魅力的な声でファンを増やしつつある、今注目のVTuberでございます。
しかし同時に、Twitter芸人としての定評もある彼女。ハッシュタグを用いた企画やネタツイートが何度もバズっている一方で、あまりにも奔放すぎる呟きは運営さんの悩みのタネでもありました。
そこで運営さんは、たびたび企業Vらしからぬ発言をする彼女への「お仕置き」をTwitterで提案。リスナーに向けてアンケートを行いました。
その結果、最終的に票を集めたのが、こちら。
「おへそフェスティバル開催」である。
……何を言っているのかわからないと思いますが、僕もわからん。いや、渦中のれいちゃんも、提案した運営さんすらもわかっていなかったんじゃなかろうか。
ただ間違いないのは、そこにはTwitterで自由気ままに呟くVTuberがいて、それを見た勢いのままアンケートを実施した運営さんがいて、悪ノリでアンケートに回答したリスナーたちがいたという事実。
その結果が、「へそ」である。
つまり、このイベントの7、8割は、ノリと勢いでできている。その場の思いつきと流れに乗っかり、誰も彼もがわからんままに開催する運びとなった謎イベント、それがこの『へそフェス2019』なのだ! わぁい!
──ついて来れるか。
渋谷の一室で始まる令和最大の奇祭
常人が見れば主催者の正気を疑いかねない、このイベント。はたしてどれだけの人が集まるのか──と思ったら、ばっちりしっかり集まっちゃうのがVTuber界である。
9月29日、日曜お昼過ぎの渋谷のレンタルスペースには、「へそ太郎」ことれいちゃんの「おへそ」を見るべく集まった、数十人の観客の姿があった。
……はい、「やべえこいつら」と思ったそこのあなた、SAN値チェックです。
小さな一室とはいえ、会場に設置された椅子は当然のごとく満席に。10人近くの立ち見が出るほどの盛況ぶりで、れいちゃんへの──じゃなかった、へそ太郎への期待の高さが窺える。これを冷静になって「へそフェチの集い」と考えるとなかなかにヤバいけど、ここは脳死しておきましょう。はい。
客席の前方にはスクリーンとスピーカーが設置されており、VTuberのリアルイベントとしてはスタンダードなスタイル。画面越しに、VTuber(のおへそ)と会場とでやり取りをする形ですね。
ただ、開演前からも行われていたマイクテストがどうもうまくいかない様子。イベントが始まってからも若干、音声は不安定ぎみでした。
その点は少し残念だったけれど、全体的な急ごしらえ感を見れば致し方なしなのかな、とも。ってかやっぱりこれ、ノリと勢いで開催したんすね……お疲れさまです……。
疑問と戸惑い、そして始まる、へそ談義
壁面に大量の「おへそ」が貼り付けてある異様な空間にて、同じくHeso Project所属──じゃなかった、Zero Project所属のVTuber・桜夢なな(@skrmnana)ちゃんによる説明があり、ついに始まるフェスティバル。
いったいどんな話を聞かされることになるんだ……と緊張の面持ちで見つめていたところ、画面から聞こえてきたのは「質疑応答た~いむ!」というれいちゃん──じゃなかった、へそ太郎のゆるい声。……マ?
初手質問タイム……だと……?
おへそについて聞けばいいのか……?
ってか、結局これは何のイベントなんだ……?
──ざわめき、周囲を見回す観客たち。
そして画面内には、揺れながら質問を待つおへそ。
なにこれこわい。
しかしそこは、さすがの適応力を持つVTuberファン&紡音れいリスナー。
なぜこのような狂ったイベントを開催するに至ったのかを問いただし、おへそについて触れ、気づけばいい具合にオープニングトークが繰り広げられる流れに。すごい……音声まわりでぐだぐだだったのに、あっという間に軌道修正されたぞ……!
程よく会場が温まってきたところで、待望のゲストが登場。
へそ太郎の傍らに現れたのは、こちらも魅力的なおへそを持つVTuber・音々継ねね(@nenenenetsugu)ちゃん。途端、さらに盛り上がる会場。
なぜか安心感がこみ上げてきたのは、やっと「人」らしい姿を見ることができたからだろうか。……というかねねちゃん、初のリアイベがこんな狂っ……個性的なイベントで良かったんです!?
ところがどっこい。ゲストを迎えて始まった「へそ談義」では、ねねちゃんのトーク力が炸裂することに。
冒頭でも挙げた「生と死のコントラストが美しい、それが、へそ」というこの日一番の名言(※個人の感想です)に始まり、さまざまな切り口から「おへそ」について語りまくるねねちゃん。その詳しさと言えば、隣で揺れるへそ太郎から軽く戸惑いを感じられるほど。特に「へそは母性」という一言には、会場が息を呑んだ気がした。
そうか……へそは、ママだったのか……。
おへその中には何がある?
その後も「お互いのおへそを褒め合う」「おへそへのガチ恋口上をみんなで叫ぶ」「おへそにまつわるクイズ」などの企画があり、想像以上に大盛り上がりだった『へそフェス2019』。
最後は「おへそとのツーショットチェキ会」に長蛇の列ができ、各々が思い思いの立ち位置でおへそとチェキを撮りながら、へそ太郎&ねねちゃんとのトークを楽しんでおりました。へそチェキ……普通に考えれば訳がわからないのに、妙に魅力的に感じてしまっていたあたり、僕も毒されていたんだろうな……。いや、でも推しのへそならたしかに……?
自分は夜の『FAVRIC』に参戦するため、残念ながらチェキは撮らず、途中で退散することに。会場内で延々と流れていた童謡『おへそ』に脳を冒されつつ、幕張メッセへと向かった格好でございます。おへその中毒性が高すぎて、せっかく予習したセトリの記憶がないなったのじゃ……。
──でも、覚えておいてほしいんだ。
幕張の大舞台でVTuberがランウェイに立った歴史的なあの日、渋谷の小さな一室では、「VTuberのおへそを愛でる」という意味不m……アーティスティックでフィロソフィカルなイベントが開催されていたことを。
いや、もしかするとアレも、ある意味ではFAVRICと共通性のあるイベントだったのかもしれない。だってへそフェスは、FAVRICのコンセプトである「FASHION(へそ)×MUSIC(おへそのうた)×VIRTUAL(へそ太郎)」を、見事に体現しているじゃないか。
おそるおそる覗きに行った、『へそフェス』という謎イベント。しかし蓋を開けてみれば、そこには、おへそへの愛と、母性と、フェティシズムと、人生があった。それを知った今ならば、きっと僕らは、冒頭の問いにも答えることができる。
──おへその中には、何があるのか。
その答えはきっと、各々のおへその中に。
No Heso,No Life.