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追憶 鳥山明 免許更新後に知る訃報 前日に温泉

写真は「立て自儘 邪もなし イノセント」
(たてじまま よこしまもなし イノセント)

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2024/10/10 初稿
2024/10/11 追記修正
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 2024/03/08(金)
 運転免許証更新のため足を運んだ警察署にも寄せくるIT化の波は容赦なく押し寄せ、新たな機器と仕組みが導入されていた。しかし、免許更新は年単位で行うものだ。前回がどうだったかとつぶさに記憶はしていないのだが、この日は記憶に残り、そして記録に残すべき日となった。
 警察署内の免許更新用の場に着くと、受付カウンター前に全面液晶画面の機器が設置されている。来署目的を項目から選び申請。さすれば受付業務の円滑化、すなわち効率化というもののようだ。
「貴様ワ何用デココニ来タノカ?」 項目から運転免許の更新を選択。
「免許更新ニ訪レマシタ。ガガガ」と、此方も機械化された感じで応じ、申請手続きを始めていく。
「古イ運転免許ヲココニ入レロ」と表示され、そこに差し込むのだが、こうしたIT化や、義体化サイボーグに抵抗を覚える世代はこれらに難儀することを容易に想像出来た。
 更にここに合わさるのが新型コロナウィルスである。爆発的拡がりを見せた感染症後の社会はある空間、それが狭小である程、室内の人数に制限が掛けられるもので、ご多分に漏れず警察署内もそのようになっていた。
 免許更新用マシーンの手続きを済ませると、QRコード付きの受付番号が付与され、その番号は室内に留まる者を制限することにも使われた。
「番号幾つ幾つから幾つまでの方のみ受付出来ます。それ以外の方は外でお待ちください」警察官は散発的に声を上げ、該当しない者がひっきりなしに入って来ては「あーあまた来たよ」と、慣れた感じで退出を促し、「80番」を手にした私はそれを横目におずおずと退出。
 思うに、最新マシーンで効率化は出来た。が、疫病対策のための別の仕事が新たに加わった。ということだろう。一旦外に出て、駐車場に停めた車内でラジオを耳にし、時間を潰しつつ思うことがある。
「引き寄せの法則」という言葉がある。これは何時なんどきにどのように始まり、何を引き寄せるかは預かり知らず、ある事象の連続に対して人が意味を置こうとして生まれた言葉だ。この日の前日から私はご高齢者引き寄せの法則が発動しているようで、この日も遺憾無く継続されていた。
 頃合いを見て再び運転免許更新所に着くと「番号幾つ幾つの方のみ受付出来ます。それ以外の方は外でお待ちください」引き続き警察官が声を上げている。
 俺は付与された四角四面スクェアー感熱紙サーマルシートに熱印字された番号を確認し、ポケットに忍ばせようとするそこに「私は78だけど、貴方は80番だから大丈夫よね?」と、生身のばばあが話しかけてくる。入室規制が不安だったのだろう。自分は大丈夫なのか? そうだあいつの囚人番号は「80」だった。あいつがOKなら私も大丈夫だろう。と、判断されたのだろう。歳を重ねるも聡明矍鑠な判断を称えながらもまず伝えたい。「俺、捕まってねえし」
「アッ……ソウ……デスネ」虚を疲れ、純然たるしどろもどろの俺は幾許かの機械化で応じる。人見知りマシーン。コミュニケーションのパラメーター設定を主幹プログラマーが忘れ、いや、そのプログラマーが客先や抱える作業者からの問い合わせに忙殺され、人とのやり取りに嫌気を来たし、人とのやり取りを意図的に欠落させることで一矢報いた結果、独立独歩の四角四面なマシーンを作り上げたのだった。などを想像するのだが、驚嘆の理由は「おい、ばばあ。俺だぜ?」
 この日、免許更新1時間前に私は美容院にて散髪と、髪の編み込みを済ませてきたばかり。「コーンロウ」と呼ばれるそれを私は好むのだが、これは僅かながら周囲に威圧感を抱かせるようで、屡々街を歩けば往来すれ違う相手に露骨に距離を置かれることがある。
「……いや、違うんです。私はただ海向こうの兄弟と姉妹達が培ってきた文化、造形に美しさを感じ、単に黒人の良い仕事が好きで。いや、黒人に限らず良い仕事をする奴は性差も肌の色も限らず好きで、ただ、今回ばっかりは判り易さを優先し、黒人の良い仕事と口にしましたが、隔たりや主義思想はないんです」そんな風に正しく釈明したいのだが、如何せん近視と乱視が合わさった極端に丁寧で、極端に距離感がおかしな闡明せんめいは、相手の心に戦慄を育み、忌避一掃と増すものであり、過去に似たようなことを書いてきたのだが、これを何故再び書くかといえば、引き寄せの法則は記号的心象を上回る動きを見せた故である。
 この室内には制服姿のお巡りさんが居いますね。編み込みホヤホヤの俺も居ます。ばばあ、何故俺に話しかける?
 兎に角俺は「大丈夫ですよ」と、答え「わたし心配だから」というばあちゃんに相槌を打つ。その後ろ手には「あんたまだ違うでしょ」と、入室制限を突破しかけたおっさんに警察官がぴしゃりと一括。追い立てる光景が。確かその男は私が一旦退出する際にも嗜められていた筈だ。
「ふふ、らしくなってきたな」 顎手に摩り、ばばあの不安感を払拭した俺は80番のQRコードかなんかを読み取らせるため、列を成し待つなり、次なる挑戦者が現れたのだった。正確に示せば、それは既に居た。眼前でマシーン操作に勤しむお婆さんは、俺の引き寄せの法則を発動させ、俺を引き寄せさせる。

「こ……これは!」

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