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【即時マッピング】学びの起点としての“点”
私たちが何か新しいことを学ぶとき、その始まりは往々にして“点”のようなものです。ここで言う“点”とは、n=1、つまり一度の経験や単一の情報に基づく理解のことを指します。この“点”をどのように扱い、そこから広がる“面”を作り出していくのか。これが、学びの本質を示す鍵となります。
本稿では、今井むつみ氏の提唱する「即時マッピング」とアブダクション推論の枠組みを通じて、学びにおける“点”から“面”への進化を考察し、最終的にそれを私たちの成長や知識の広がりにどう応用できるかを論じます。
即時マッピングとは?
即時マッピングは、幼児が言葉を学ぶ際に、1回限りの経験からその意味を推測する過程を指します。たとえば、子どもが「これが犬だよ」と教えられたとき、目の前の犬を見て“犬”という言葉と対象を結びつける。この瞬間的な結びつきが即時マッピングです。
このプロセスでは、わずか1つのサンプル(n=1)から大胆に一般化が行われます。n=1での仮説形成は一見リスクが高いように思えますが、幼児にとっては次のステップに進むための足場となります。この“点”の段階を経て、新たな経験や文脈に触れることでスキーマ(知識の枠組み)が修正され、より広い“面”として形成されていきます。
アブダクション推論との関係
即時マッピングは、哲学者チャールズ・サンダース・パースが提唱したアブダクション推論の一形態とも言えます。アブダクションとは、観察された事実に基づき「最もありそうな仮説」を立てる推論法です。
たとえば、子どもが「ワンワン」という単語を聞き、それを目の前の犬と結びつける。この仮説は、その場の状況や文脈に基づいて導かれたものであり、100%の確実性を持つものではありません。しかし、その不完全さを抱えたまま次の文脈に進むことで、仮説は修正・拡張され、正確性を増していきます。
即時マッピングが学びの起点として重要なのは、この“大胆な仮説形成”と“後からの修正可能性”という性質にあります。
点を面にする作業
即時マッピングは、学びの出発点として“点”を作ります。しかし、その“点”は放置すれば限定的で誤解を含むままです。ここで必要になるのが、自ら外界に触れてnを増やし、点を面にしていく作業です。
文脈に触れることでスキーマを修正する
私たちは新しい文脈に晒されることで、自分が抱いている仮説の矛盾に気づき、スキーマを再構築します。たとえば、初めて「犬」を見た子どもが、「猫」や「キツネ」など似た動物に出会い、それらと犬との違いを学ぶことで、より正確な犬のスキーマを形成します。このプロセスは、「点から面へ」と拡張する学びそのものです。
多様な文脈を探しに行く
点を面に広げるためには、自分から多様な文脈や経験を探しに行く姿勢が必要です。他者との対話、本を読むこと、異なる環境に飛び込むこと―これらの行動を通じて、スキーマは拡張され、知識は立体的なものになります。
点を面にする主体性
重要なのは、このプロセスが自ら行わなければならない作業であるという点です。誰かに与えられるだけの情報では、点は点のままで終わってしまいます。能動的にnを増やし、文脈を広げることが、真の学びを可能にします。
学びの本質としての即時マッピング
即時マッピングは、子どもだけでなく、大人の学びにも適用できる普遍的なモデルです。たとえば、私たちが新しい分野を学ぶとき、最初は断片的な知識(点)から始まります。しかし、その点を起点に、多様な情報や経験(文脈)に触れることで、理解は次第に広がり、深まっていきます。
まとめ
学びとは、n=1だった“点”を出発点にして、自ら外界に触れてnを増やし、面を作るプロセスです。このプロセスを通じて、知識は単なる断片ではなく、相互に関連し合う立体的なものへと進化します。
即時マッピングという言葉には、“マッピング”、つまり点をつなぎ面を作るというイメージが含まれています。この概念を理解することで、私たちは自分自身の学び方を再発見し、より主体的に成長を続ける力を得ることができるでしょう。