ある春の夜に┊韓国ドラマ
本作主演のパク・ヘインくん出演で、同じスタッフが手掛けた「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」が痛々しくてちょっと苦手だったので、またダメかなあ…と思って手を出すまでに時間がかかってしまったんですけど、ただヘインくんを愛でたい気持ちだけで見ました。
期待値が低かった分だけ思いがけずじんわり。
大きな出来事があるわけではなく、空気感や間を大切に、ゆったりとした音楽に乗せながら出演のふたりの感情を丁寧に描いている作品なので、人によっては物足りなく感じるかもしれないと思いますが、わたしは個人的にとても好みに合ったようです。
図書館司書のジョンイン( ハン・ジミン )は同僚宅で飲んだ翌朝、二日酔いで薬局に立ち寄るも財布を忘れてしまっていて、初対面の薬剤師ジホ( チョン・ヘイン )にお金を借りることになるのが出会い。
ジョンインにはエリートだけど熟年離婚寸前みたいな完全に冷めきった恋人がいて、まあ長く付き合うと別れるのにもきっかけがいるよね気力と体力がいるからね…と言った感じ。
一方のジホは学生時代に付き合っていた彼女がいきなり音信不通になり、その後実はジホの子を妊娠していることがわかり、出産直前に戻ってきたと思ったら産まれたての赤ちゃんを残してまた失踪…という過去があって、以来何もかも諦めて生きてるシングルファーザー。とはいえ個人的には子供を両親に預けて別居しているのがちょっとなあ…とは思ったけども。
そんなジホがジョンインの同僚と同じアパートに住んでいたり、ジホがジョンインの彼氏の後輩だったり…と、偶然の出会いが重なって、お互いに気になってしょうがなくてどんどん惹かれ合っていくんだけど、ジョンインは自分の気持ちを認められずに友達だと言い張っている。でもジホは惹かれてる相手とは友達にはなれない、お願いだからもう忘れさせてくれと告げ、静かに微笑んでスッと引いてしまうくらいに繊細なひとです。ジホは自分には子供がいる負い目があっていくら好きでも強引にはなれず、だけどそれでもどうしても会いたくて図書館に行ってしまったり、諦められないから影で思うのは許してほしいとかストレートに告白しちゃったりもする真っ直ぐなひとでもあり。そしてそんなジホにぐらんぐらんに揺れるジョンイン。
閉店後の薬局で、深夜までやっているカフェで、誰もいない夜の公園で、主に夜を舞台にしたふたりだけの静かな時間を、ジホが一人暮らしなのもあってあまり子持ちという生活感を感じさせずに、ただ恋愛の温度感で表現できていたのがよかったのかもしれない。子供が家で待っていたら夜に会いに行くなんてまず無理だと思うので、そのための一人暮らし設定なのかなあと思ってみたわたし。
想い合っててもくっつかない間はジレジレするんですが、子供がいてもジホが好きだとジョンインが腹を括ったあとのふたりの障害となるのは、愛情はなくても後輩に彼女を取られるなんてプライドが許さなくって、執着でストーカーみたいになっていくしつこい元カレと、その元カレの父親が理事長(上司)なので、自分の出世のために娘にはどうしても元彼と結婚もらわないと困るから怒鳴り散らすモラハラ父。とてもうざいです。でも「よくおごってくれる〜」のジナ母級の猛毒をジホに対して吐く訳ではなかったのでまだよかった…のかな。
何よりもふたりの両方の母がよかった。
息子のジホが過去を乗り越えてまた誰かを好きになれたことにホッとして喜びの涙を流し、でも相手のジョンインが未婚だと知るとジョンインとジョンインの両親への申し訳なさでいっぱいになり、そのことで息子と孫が傷つくんじゃないかと今度は心配の涙を流す。
ジョンイン母は大切な娘がいきなり血の繋がらない子供の母になってしまうことを簡単には受け入れられなかったものの、偶然ジホ母が息子と孫を思って深く悩みひとりで涙を流すところに居合わせてしまって、思わず名乗って励ましてあげるんだよね。医者と結婚して誰もが羨む幸せな生活をしていたはずのジョンイン姉が、実は夫からのDVを理由に離婚してシングルマザーになろうとしていることもあって、条件だけが幸せじゃないということと、逆の立場の親の気持ちもわかってしまったんだろうな。優しいひとです。反対に父は体面ばかり考えてDVくらい我慢しろとか言う最低なモラ父ですけども。
その鬱陶しいモラ父と元カレの異常な執着を除けば、子供を捨てたジホの元カノが戻って来て騒ぎを起こすわけでもなく、ジョンインの元カレがお金と権力で壮大な陰謀を企てるでもなく、ただただ家族の愛に守られて、ジホたちが穏やかな愛を育むという癒しのドラマでした。
特に自由奔放に見えるジョンイン妹のひとことひとことが的を得ていて、貴重な役でした。
そして音楽もとても良い。ちょっとレトロでおしゃれな曲調がドラマとの相乗効果で心に沁みます。
ちなみにわたしはオープニングを聴いたとたんにLOVE PSYCHEDELICOを思い出しました。年がバレる。
最後に、実際のセリフと字幕がちょっと違っていて残念だったところをひとつ。
7話のジホとジョンインの電話のシーン。
신기해
不思議だ
뭐가?
何が?
정인씨 하고 내가 이제 ‘우리’ 잖아
ジョンインさんと僕が もう「 わたしたち」なんだね
出会った時にはもう先輩の彼女だったジョンインがこれまで우리(ウリ)と表現する相手は自分ではなくて、決して自分のものにはならないと思っていた彼女との関係性が変わったことを、ジョンインが直前に何気なく言った우리のひとことから実感してジホが幸せを噛み締めるシーンです。
最後のジホのセリフが字幕では「2人で一緒に頑張るなんて」って訳されているんですけど、ジホの気持ちに寄り添うと少し違うかな、と思って、聴いていてちょっと残念でしたので、脳内変換して見直してみてください。ニヤけます。
ちなみにわたしは「そうだよおおお!もうキミたちが우리だよおおお!」と、ワンコなジホをわしわしと撫で回したくなって、かなり痛いひとになっています。
まだ未見の方はヘインくん演じる繊細で極上の柔らかさのジホと、おしゃれな音楽に癒されてください。是非。