【2021年前半の海外HRテックを振り返る】「パフォーマンス・マネジメント」の概念は、評価制度における黒船になるかも。
■パフォーマンス・マネジメントって何ですか?
アメリカのHR事情は、最先端なだけあり、調べれば調べるほど日本でも早く同じ文化・習慣がつくられると良いなと思う仕組みが多々ある。
中でも「パフォーマンス・マネジメント」という概念がおもしろいので今回ご紹介したいと思う。
「パフォーマンス・マネジメント」とは、人事ご担当者でも初めて聞くという方が多い言葉かもしれないが、「従業員一人一人のパフォーマンスを向上するためにモチベーションを上げること、その成果として組織の目標を達成していく」取り組みであり、具体的な手法として「継続的パフォーマンスフィードバック(リアルタイム評価)」が組み込まれていることが特徴だ。
これまで評価と連動した目標管理制度として、MBOやレイティングが活用されてきたが、
・半年~1年毎に評価する仕組みだと、ビジネス環境の変化が速いため目標が実態からズレやすく、
メンバーは会社への貢献度や成長の実感や納得感も生まれづらい。
・ランク付けで報酬が決定されることで、ランクの高い従業員がより良い報酬を求めて離職しやすい。
・個別またはグループごとに目標を設定するため、会社全体のビジョンとの整合性が見えづらい。
…といった致命的な欠点により、現代の労働状況においては「モチベーション向上」に作用しないケースが多く、まさにこのカウンターとして「パフォーマンス・マネジメント」は誕生した。
かつてはMBOもレイティングも大きな成果を上げていたが、リモートワークへの変化、ビジネス環境の高速変化により、半年〜1年間ごとに目標設定と結果評価を行う仕組みでは、世の中の動きについていけないケースが非常に多い。
パフォーマンスマネジメントでは、従業員が結果を出したら、すぐに管理職による評価が行われ、従業員にもフィードバックが生まれるので、現場の活動〜経営までスピードが向上し、アジャイル化していく。
また、働いているメンバーにとっても、自分の行動や成果の記憶が残っている間にマネージャーや上司から評価してもらえるので、学習効果が高まり、納得感が生まれやすいという利点がある。更には随時良いことも悪いこともフィードバックされるので柔軟に変化に対応でき、結果良い成果へとつながりやすい。
■成長が止まっていたAdobeは「パフォーマンス・マネジメント」をやりきり、7年で営業利益10倍に成長。
その誕生の歴史を紐解くと、90年代米国において日本に10年ほど先行する流れで「エンゲージメントを経営に活用する」ムーブメントが発生したが、2000年代初頭にLinkedIn、Glassdoor、IndeなどのITを活用する企業が「具体的にエンゲージメントを高める方法」として「短期的サイクルによるフィードバック」を活用し始めたと言われている。
完全に体系化されたのは2014年で、当時Adobe社CHRO (現在はウォルマートでエグゼクティブバイズプレジデント兼チーフピープルオフィサー) であったドナ・モリス氏による取り組みだった。
単に人々を「評価」するのではなく、定期的に「チェックイン(日常からのフィードバック)」し、マネージャーがコーチとしての役割を果たすべきだと社全体のルールを一気に変更。
これが「パフォーマンス・マネジメント」の誕生だと言われている。
「年に一度決められた書式に従って評価面談を行うといったことを止めた」
「社員が評価のレッテルを貼られると感じなくてすむように、評価ランキング、個人の評価レベルを止めた」
「今後社員は自ら設定したゴールをどれだけ達成したかで評価される」
といった具体に、かなりドラスティックな変革を全社一気に実施した。
うーむ、女傑ですな。
※余談かつ英語ですが、このモリスさんのTwitter、HRで結果を出すための示唆に溢れていますのでよければぜひ。
https://twitter.com/DonnaMorrisWMT
その後のadobeの業績グラフを下記に記載しますが、2015年くらいからadobeが信じられないほどの成長を果たしていることから、「パフォーマンス・マネジメント」を導入してからは「第2創業期」と呼べるレベルで会社の中身が変わっているかもしれない。
【参照元】https://strainer.jp/companies/6754/performance
Adobe社のこのあたりの実践の経緯は、「パフォーマンス・マネジメント研究会なる団体」のこちらのレポートに詳しく記載されています。
日本企業の70%はMBO/レイティング(ランク評価)導入だが、アメリカFortune500のうち20%の企業(Microsoftやスタバなど)は、ここ5年間で評価制度を「パフォーマンス・マネジメント」に切り替えている。
■「パフォーマンス・マネジメント」は構造的に「OKR」の欠点を補完する
…という風にアメリカで順次導入が進んでいるパフォーマンス・マネジメントだが、個人的に最も面白いなと思ったのは「OKR」を補完できる点です。
★OKRに関しての「日本の人事部」さんの説明はこちら
OKRは日本でも3年ほど前にブームがきたが、その後沈静化しつつある。Googleトレンドによる検索ボリュームを見てみると、2021年以降は検索数が減っていることがわかる。
ルールに正しく沿って継続して運用できると、OKRは間違いなく成果向上につながる仕組みだと経験則からも感じているが、毎週マネージャーとメンバーで目標を見返す場を設定するなど「運用面で現場に大きな負荷がかかる」という点が厄介だからかそこまで普及しなかった。
まさにこの「運用観点での負荷問題」をパフォーマンス・マネジメントツールを活用すると解決できる点が風が吹き込みそうな印象。
パフォーマンス・マネジメントツールは、厳密にOKRのような前提ルールはないが、「継続的にパフォーマンスについて日常からフィードバック→評価につなげる」仕組みを含んでおり、OKRと同じように「短期的な目標の実現を目指し、その進捗を加速させる」内容なので、「現場の日常的で自然な進捗確認・仕事を前に進めるためのフィードバックをするだけで、OKRと同じような目標管理が実践でき、その欠点を帳消しにできる」点が優れている。
つまり、従業員やそのマネージャーがサービス上でフィードバックを共有したり、1on1などのミーティングのセッティングを簡易化することで、会社の目標設定プロセスを全面的に見直しなどがクイックに実現でき、年に1度ではなく、毎週レベルでも従業員に対するパフォーマンスレビューが可能となる。
パフォーマンス・マネジメントツール「Lattice」を展開する創業者ジャック・アルトマン氏はサービス構想のきっかけを問われた際に「四半期ごとの目標設定(OKR)では、それらを書き出して指導者がチェックした後、『棚に座っても何も起こらない』ということに気が付いた」とOKRの欠点からサービス開発した旨を発言している。(下記記事参照)
●パフォーマンスレビューをアップデートするLatticeが16億円超を調達 - https://jp.techcrunch.com/2019/04/30/lattice-raises-another-15m-to-improve-performance-reviews/
まさにパフォーマンス・マネジメントは「Next OKR」といった、黒船感を感じている。
■もう1つのパフォーマンス・マネジメントツール「15Five」
Latticeと同じく非常に伸びているUSのパフォーマンス・マネジメントツールとして「15Five」というサービスがある。
Wiredさんのこの記事に詳細解説があるが、あのファッションブランド「パタゴニア」創設者のレポート手法をソフト化したサービスが15Fiveです。
マネージャーは毎週5つの質問をつくる。これは「15分で書くことができ、5分で読むことができるもの」となっており、同社の名前もそのことに由来している。
「従業員がそれほど時間や労力をかけず、楽しんで書くことができる質問をつくり、フィードバックを集めるという取り組みに挑戦する」ことが15Fiveのコンセプト。
これらの質問は「モチベーションはどう?」といったものから「今週最も大変だったことは?」といった内容まで様々。
質問への回答は従業員に完全お任せで、長文でも短文のどちらでも良く、フォーマットはない。
一点、従業員は「ポジティブとネガティブ両面のフィードバックをしなければいけない」点が特徴である。
この質問アンケートに対する回答が提出されると、部門のマネジャーは従業員の回答を読み、質問をしたり、コメントを残せる。
各マネジャーはレポートを読んだあと、特定の従業員のレスポンスをフラグ付けし、CEOへのより俯瞰的なレポートを書く。
これらのフィードバックが最前線の従業員からCEOまで吸い上げられるように構築されているが、従業員は自分たちの声がCEOに届いていると感じることができる。
15Fiveは「パフォーマンス・マネジメント」ではなく「マネジメント・イネーブルメント」という、最近HR業界に登場した概念として紹介されるケースもあるが、共に経営・人事・現場メンバー全員が積極的に活用する点が共通している。
■2021海外HRの傾向まとめ 「マネージャーが能動的に活用するツール」
複数のプロジェクト型リーダーや複数プロジェクトを掛け持ちしながら、更にはリモート環境や業務委託メンバーとの協働機会の増加という、これまでにない柔軟なワークスタイルが一般化しつつある企業は、エクセルや旧来のツールでは労働パフォーマンス向上支援も労働管理も難しくなってきている。
「トップダウン」のパフォーマンス管理の世界から「現場による継続的なパフォーマンス管理や評価」、そして「チーム主導 or マネージャーがメイン」となるパフォーマンス支援ツールが増加しつつある。
このあたりはまた別の機会に書ければと思うが、上層部から過大な期待を受け、部下とのコミュニケーション難易度増加によって板挟みになっている「マネージャー支援」の文脈がしばらくはHRテックの中心になるだろう。
USのHR関連トレンドはこの人から始まると言っても過言ではない、ジョシュ・バーシン氏のブログの先月記事にもこのあたり触れられている。
■The Tale Of Performance Management Tools
https://joshbersin.com/2021/04/the-tale-of-performance-management-tools-15five-lattice-and-many-more/
現場のコミュニケーションを促進するだけでなく、企業やリーダーがアンケートを送信してフィードバックを得たり、他のチームと比較して結果を確認したり、マネージャーに提案をしたりできるツールが今後増えるのではと示唆している。
日本の4年先をいくと言われている米国HRテックだが、人事プロセスを自動化するパフォーマンス管理ツールを求めているのではなく、チームの生産性、エンゲージメント、協調性を高める「マネージャー イネーブルメント」プラットフォームを求めていることからも日本にも同じ流れがやってくる可能性がある。
HRテックの主戦場が、現場に移りつつある。
日本にも逆輸入されるだろうが、先進国の中でマネジメントが体系化されていない日本にこれらのツールが一般化することで、この国のGDPは少しは上がるのではないだろうかと個人的にかなり楽しみにしている。
この記事では、パフォーマンス・マネジメントの特徴の1つ「リアルタイムなフィードバック」しか記載できなかったので、これ以外の要素についても後日まとめます。
■この記事の作者が開発しているパフォーマンス・マネジメントサービス「Co:TEAM」| 即時フィードバック評価でエンゲージメントを高める
※アメリカの素敵な先行サービスに負けないよう頑張っています。
1on1 ⇔ 目標管理 ⇔短期間フィードバック(賞賛)が連携することで、経営陣・マネージャー・同僚との「高頻度 & オープン」な対話により、継続的にパフォーマンスを高めるサービスです。
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