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『見習い神様、願いを叶えて。』#8 シン

【前回までのあらすじ】
私は芳高くんに片思い中の高校2年生、吉沢みゆき。花屋敷ゆりは私の親友。両想いになりたいと流れ星に願った次の日、私の前に神様見習いを名乗る青年が現れた。
(全20話 恋愛×ファンタジー 毎日1話ずつ更新します)

「なるほどな。この写真の君《きみ》が、みゆきの王子様の芳高ってわけだ。」
 私は部屋でプカプカ浮いている青年に、芳高くんとの出会いや、思い出のエピソードを話した。
 青年が、「恋を叶えるためには、まずは相手の情報だ。恋の相手について教えろ。」と言ってきたからだ。

「それにしても、情報少なくないか?芳高のこと、好きなくせにほとんど知らないんじゃないのか?」
「…う。しょうがないじゃない。あんまり話せなかったんだから。」
「話せなかったんじゃなくて、話さなかったんだろ。」
 青年は呆れたような表情で私を見る。

「みゆき、そんなのでよく願いが叶えられると思ったな?あのな、願いってのは半分は自分の努力で叶えられるんだ。神様が助けてやるのは、あとの半分。もうちょっと努力しろ!」
「私だって話せない事情が色々あるの!もっと優しい言い方してくれてもいいじゃない。性格悪い神様見習いね!」

 本当は事情なんて何もない。
 たしかに私は、自分から何の行動もしてこなかった。青年に腹が立ったのは、青年の言葉が図星だったからだ。

「まあいい。これからは俺がいるからな。どんどんみゆきのケツ押してやるよ!」
「ケツって…。もう少し上品な言葉、使おうよ。」
「男はみんなこんなもんなの。」
「芳高くんは絶対言わないと思うけどね。」
「それはみゆきの幻想だ。芳高だってケツとかうんことかおならとか毎日言ってるぞ。」
「もう!やめてよバカ!絶対言ってないから!」
 私は青年に傍にあった枕やクッションを投げつけた。一応当たっても痛くないように柔らかいものを選んだ。
 青年はヒョイと上半身だけを左右に揺らして、軽くそれをかわした。

「で、今も芳高とは同じクラスなのか?」
「それがね、二年になってから別々のクラスになっちゃった。」
「なかなか話さない上にクラスも違うとなると、どうやってくっつけるか。うーん…。」
「教室自体は隣だから、廊下ですれ違うことはたまにあるんだけどね。私とゆりはまたE組で、芳高くんと坂田はD組になったの。」
「うーん…。」
 青年は腕組みをして俯《うつむ》いて、何か考えてくれているようだった。

 そのまま数分が経った。
 静寂を破ったのは、スピースピーという小さな鼻息の漏れる音だった。

「ちょっとー!作戦考えてくれてたのかと思ったのに、寝てたの!?信じらんない!」
 私は青年の両肩を掴んで前後左右に揺さぶった。あ、触れるんだ。

「寝てない!断じて寝てない!そう、俺は今ヨガの呼吸をしていたんだ!」
「うそつけ!」
 バカだし、腹の立つやつだけど、どこか憎めないやつだと私は思った。


「ねえ、あなたって名前は何て言うの?いつもあなたって呼ぶのもなんだか変だし。」
「名前かぁ。そんなのはなかったなぁ。」
「うそっ、名前ないの?あった方が呼びやすいし、私が名前付けてもいい?」
「おう!好きに呼んでいいぞ。あ、やっぱり、どうせならカッコイイやつな!」

「そうねぇ。じゃあ神さまだから…シンってのはどう?」
「まだ神様じゃないけどな。」
「まあ、そこはいいじゃない。ね、シン?」
「シンか…。名前で呼ばれるのって、なんかこそばゆいな。」
 シンは鼻を触って、嬉しさと照れを隠そうとしているようだった。

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城之内あやめ
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