見出し画像

映画を超えた衝撃:小説版『万引き家族』

 映画『万引き家族』を初めて観たのは、公開から1年後の7月の土曜日だった。公開当時、私はまだ小学校6年生で、是枝裕和監督の作品には触れたことがなかった。それに、ちょうど受験期と重なり、映画を観る余裕もなかった。ただ、連日テレビで流れる映画の情報は目にしていた。

 そんな背景があったせいか、実際にテレビで『万引き家族』を観たとき、感情がぐちゃぐちゃに揺さぶられた。是枝監督の作品は、どれも観るたびに心をかき乱される。「家族」という言葉だけでは収まりきらないものが、この映画には詰まっていた。そこから私は是枝監督の作品に惹かれ、貪るように観るようになった。


 それから月日が経ち、高校3年生になった私は、学校の図書館に通うようになっていた。特に小説コーナーをよく物色し、読みもしない本を手に取ったり、立ち読みをしたりするのが日課だった。ある日、ふと手にした本の近くに、小説版『万引き家族』が置かれているのを見つけた。著者名に「是枝裕和」と書かれているのを目にし、思わず手に取る。そして椅子に座り、読み始めた。

 映画以上の衝撃が走った。映像ではなく、文字だからこそ伝わる切なさが、ひしひしと胸に迫ってきた。文を読みながら映画のシーンを思い出し、自分なりに解釈を深めていく。その繊細な作業が、何よりも心地よかった。

 読み終えたとき、改めて「家族とは何か」という問いが浮かんだ。同時に、是枝監督が大切にしているドキュメンタリー的な視点が、小説でも色濃く表現されていると感じた。リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林の演技が頭に蘇り、小説版だからこそ感じられる映像との違いも味わえた。

 最高の読書体験だった。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集