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【小説】まおとプラネタリウムーぼんやり見えるその先に 第4話 トラベルランドへようこそ

 まおとお兄さんは、子ども科学館の館内を歩き始めた。少し歩くと、【トラベルランド】と大きな文字で書いてある看板が見えた。
「あれ、なんだろう?楽しそう!」
お兄さんとまおは、その部屋に入った。すでにそこには、数組の親子連れがいる。部屋には、映画館のような椅子が沢山配置されていた。
「つぎは、10分後に出発できるから、椅子に座って待ってよう」
「どこに出発できるって?どういうこと?」
「楽しみにしてて」
お兄さんは入口付近の棚に沢山置いてあるさっき見せてくれたタブレットによく似たものを持ってきて、まおに渡した。
まおは、ドキドキしながらそれを手に持ち、座っていた。続々と周りに親子連れや中学生くらいのグループがやってきた。5分前になり、アナウンスが聞こえてきた。

「ここでは、お客様のお好きな場所に行くことができます。お持ちのトラベルコントローラーを操作し、行先を決めて出発ボタンを押してください。トラベル時間は30分~1日で選べます。最初に設定したトラベル終了時間になりましたら、自動的にこの館内にお戻りになれます。このトラベルランドは、その場所にトラベルしているような気分を味わえます。ここにいるお客様同士で行きたい場所が同じで一緒に行きたい場合は、手をつなぐか腕をつかむなど、出発ボタンを押すときに触れ合っていてください。では、お気をつけていってらっしゃいませ。楽しいトラベルを。」

 まおはトラベルコントローラーと呼ばれるその機械を、触ってみた。すると、「どこに行きますか?」という声が聞こえた。
「行きたいところをトラベルコントローラに向かって話してみて。ピンポイントで行きたいところがあるなら、その場所を言ってね。横浜のみなとみらい、とか、江の島、とか。」
 まおは考えた。おばあちゃんやおじいちゃんの住んでいる北海道もいいけれど、今がもし本当に未来なら、まおが今通っている学校や公園はどうなっているんだろう?家は?小学校4年生のまおにとって、世界の大半は家と学校と公園だから、一番気になるところと言ったら、それらなのだ。まおは、小学校のそばのターザンがある公園が好きなので、まずはそこに行きたいと思った。
「横浜市立花園小学校のそばのターザンのある花園公園!」
まおは元気よくトラベルコントローラーに向かって話しかけた。
「かしこまりました。花園公園に行きましょう!では、トラベル終了時間を教えてください。」
「う~ん、どのくらいがいいかな?」
「数時間後には元の時代に戻れるかもしれないし、あまり長いのもね。今午前10時だから、11時までの1時間にしとこうか。」
「うん!1時間にします!」
「かしこまりました!」
まおはすっかりここが何十年も先の未来かもしれないのに、怖い気持ちや不安な気持ちなど感じず、ただこの不思議な状況にわくわくしていた。1996年だったら、物に向かって話しかけて答えてくれるなんてありえない。いったいいつからこんなことが可能になったんだろう?それに、伝えた場所に行けるなんてそんなことが本当に起こるのだろうか?
「では、出発ボタンを押してください」
画面全体に出発という大きな文字が浮かび上がった。

 まおは、左側にいるお兄さんの腕をそっと触り、出発ボタンを押した。

 その瞬間、まおの視界がまぶしくなり、座っていた椅子がゆらゆらと揺れ始め、身体がふわっと持ち上がった。お兄さんの洋服をぎゅっとつかんだ。まおは、まぶしい光とふわふわした感覚を感じながら、どこかに着地した。

 まおは、びっくりした。目の前には、まおの見たことのない公園があったのだ。まおの知っている花園公園は、4人がけのブランコと、ターザンと滑り台があるだけ。まおは、その中でも、ターザンが大好きで、いつも友達とターザンで遊んでいた。今目の前に広がる公園は、まおが知っている花園公園よりもずっと広い。草木も綺麗に整えられている。まおの視力だとぼんやりとその光景が見えるのだが、公園には、まだ幼稚園にも行っていないくらいの赤ちゃんから3歳くらいまでの子どもたちとママやパパが遊んでいるようだった。
「ここ、花園公園で合ってるの?」
「合ってるよ!ぼくもここでよく遊んだなぁ。」
「どんなものがあるのか、近くで見てもいいですか?」
「いいよ!行ってみよう」
遊具の近くに行くと、まおが見たことのない遊具がたくさんあった。どれもすごくかっこよくて綺麗だ。ジャングルジムはまおが知っているものよりもずっと高く複雑な形をしている。
「これは、ぼくが子どものころにたまに落ちる子がいたから、最近は手を滑らせて落ちそうになったら、それをジャングルジムが認識して落ちないように磁石みたいに引き寄せてくれるようになってるんだ。」
「へ~すごい!!これなら、わたしでも怖くないね!」
まおは、登ってみることにした。もともと見えにくいとは言え、活発なまおはこういう遊具が大好きだ。上へ上へと登っていく。手が滑りそうになると、ジャングルジムの方に身体がくっつく。まおは、不思議だな~と思いながら、楽しくて嬉しかった。
「お~い!登れたよ~」
お兄さんがどこにいるかはよく見えないけれど、まおは下に向かって手を振った。お兄さんは、
「写真撮るよ~!ハイチーズ!」
と声をかけてくれたので、まおはジャングルジムにつかまったまっま、にっこり笑った。

 スルスルスルーまおは、下に降りると、他の遊具に向かって走り出した。トランポリンなんて、昔どこかで遊んだ気がするけれど、どこで遊んだかわからないほどたまにしかお目にかかれない遊具だ。まおが乗って跳ねてみると、びっくりするくらい高くまで飛んだ。
「これもぼくのころよりもさらに進化してて、だれでもトランポリンが上手に飛べるようになるために、工夫されて作られているんだ。よく跳ねるし、ポーズも取りやすいよね。」 
 トランポリンを飛んだあと、他にも珍しい遊具が沢山あったので、まおは15分ほど一通り遊んで楽しんだあと、1時間のタイムリミットを思い出して、公園を後にした。

 楽しくて、わくわくして、ルンルン気分のまおは、勢いよく道路に飛び出してしまった。
「あぶない!}
お兄さんが声を上げた。

ーえ?!車にひかれる!ー

【第5話につづく】

***

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リコ
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